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嚥下理学療法㉒ パーキンソン病への介入:柔軟性・姿勢

柔軟性、可動域、姿勢|2023.7.14|最終更新:2023.7.14|理学療法士が執筆・監修しています

序文

 前回は、パーキンソン病のステージごとの嚥下障害の特徴をまとめました。今回からは、パーキンソン病患者さんの嚥下障害に対する嚥下理学療法についてまとめます。前回までに記載してきましたように、パーキンソン病患者さんは病期によって症状が異なるため、病期に応じて介入方法を変えていく必要があります。一方で、病期が同じでも出現している症状は個々人で異なるため、評価をしっかり行い、それぞれの患者さんに合わせて介入方法を調整していくことが大切です。

本記事でわかること

✅ 柔軟性は初期から低下している

✅ 柔軟性低下は姿勢異常や食事動作の拙劣さにつながる

✅ 姿勢異常の改善には学習が大切

柔軟性への介入

 パーキンソン病患者さんでは、ステージ1−2の初期段階から、筋緊張異常による全身の柔軟性低下が認められます。特に、姿勢異常と相まって、腹筋やハムストリングス、腸腰筋など全体的に屈筋群の柔軟性が低下しやすくなります。また、症状が片側から生じるため、柔軟性にも左右差が生じます。左右差が生じると、臥位や座位姿勢に左右差が生じ、摂食嚥下の際に効率良く嚥下関連筋を働かせることが難しくなります。そのため、重症度の初期段階から全身の柔軟性を確保するための介入が必要になります。

ステージ1-2

 ステージ1−2の初期段階では、身体の硬さは感じるものの、まだ大きく動きが制限される段階ではありません。そのため、可動域を維持できるように、全身を動かす運動を行い、柔軟性低下を予防していきます。具体的には、ラジオ体操や太極拳のような全身を動かす運動が効果的です。また、体拭き、テーブル拭き、窓拭きのような、リーチ動作を伴う動きはバランス感覚の強化にもなるため、これらの模倣動作を取り入れた体操も有効です。身体を動かす際には、何も考えずにただ動かすのではなく、各関節の動きや手先・足先の位置までしっかり意識を向けて動くことがポイントです。意識して動くことで、ご自身の身体のイメージが掴めるようになり、疾患が進行して生じてくる姿勢感覚の異常にも対応できるようになります。

ステージ3-4

 ステージ3−4の中期の段階では、筋強剛が強くなり、全身の柔軟性も低下していきます。特に、体幹の伸展・回旋は制限を受けやすいため、ストレッチ等で柔軟性を確保していく必要があります。うつ伏せでの体幹伸展、椅子座位で背もたれを利用した体幹伸展、背臥位・膝立位での骨盤・体幹回旋など、方法は色々とありますので、環境や本人がやりやすい方法を選択して行なってもらうと継続しやすいです。

ステージ5

 ステージ5の段階に入ると、動くこと全般的に介助が必要になるため、ご自身でストレッチをしてもらうことは難しくなります。また、関節や骨の変形、拘縮が生じてきていることが多いため、起始と停止を引き離すような単純なストレッチでは効果的な筋の伸長は難しくなります。そのため、局所的なモビライゼーション等が有効です。具体的には、まず骨盤後傾位の改善を目的に、ハムストリングスの伸長性股関節屈曲方向の可動域の改善を行います。ハムストリングスは、伸長性が低下することで骨盤が後傾位に誘導されてしまいます。股関節は、腸腰筋の短縮および筋力低下によって骨盤の動きが固定化されてしまいます。次に、食事動作に伴う上肢の安定性および運動性を改善することを目的に、肩甲帯周囲の可動域胸郭の可動域背部の筋や皮膚の柔軟性の改善を行います。パーキンソン病患者さんでは、円背姿勢によって肩甲帯、胸郭の動きが制限されており、背部の筋や皮膚は持続的に伸長されているため、柔軟性が低下しています。各組織に対して局所的にアプローチを行い、可動性、柔軟性の改善を図ります。しかし、過度に可動域を広げようとして、変形した脊椎などの関節に対して負担がかからないように注意が必要です。

姿勢異常への介入

 パーキンソン病患者さんでは、姿勢反射障害や筋強剛などの影響によって、骨盤後傾、体幹前屈、側方傾斜などの姿勢異常を呈しやすくなります。姿勢異常は円滑な摂食嚥下の阻害因子になるので、安心安全な食事をするために姿勢の改善が必要になります。

ステージ1-2

 ステージ1−2の段階では、まだそこまで大きな姿勢異常は示しませんが、少しずつ良い姿勢を保っておくことが難しくなってきます。この時期には、まず骨盤前傾、体幹伸展位の姿勢を取れるように練習をしていきます。徒手誘導やバランスボールなどを使用して、骨盤の前傾・後傾運動を行い、重心移動の感覚の学習を促します。同時に、骨盤前傾位では体幹伸展、骨盤後傾位では体幹屈曲姿勢を少し強調して誘導し、姿勢変化のバリエーションを増やしていきます。姿勢のバリエーションを増やすことで、様々な状況に対して姿勢を変化させることができるようになり、食事以外の日常生活でも応用できるようになります。次に側方傾斜に対しては、立ち直り反応の練習をしていきます。端坐位で左右の坐骨に対して交互に重心を移動させ、荷重側に体幹や頚部の伸展反応を誘導します。伸展反応が出てこず、荷重側にそのまま傾いてしまうような場合には、徒手的に荷重側の伸展と反対側の体幹側屈を誘導し、立ち直り反応を促していきます。

ステージ3-4

 ステージ3-4の段階では、姿勢異常が目立つようになり、自己修正が難しくなります。特にパーキンソン病に特徴的な姿勢異常である「腰曲がり」や「首下がり」と呼ばれる姿勢を呈するようになります。これは、パーキンソン病患者さんでは腰曲がりや首下がりの姿勢が真っすぐの良い姿勢と認識していることが多いためだと考えられています[2]。この時期の介入のポイントは、本人が感じている良い姿勢と実際の姿勢の違いを認識してもらい、ご自身で修正できるように学習を促すことです。具体的には、鏡などの視覚的フィードバック、壁などを用いた体性感覚的フィードバックが効果的です。また、太極拳[3]やバランストレーニング[4]が姿勢制御に有効であることも報告されています。良い姿勢の学習と姿勢を自分でコントロールする能力を高めることで、姿勢異常に伴う摂食嚥下の課題解決につながる可能性があります。

ステージ5

 ステージ5の段階では、姿勢異常に伴う変形や拘縮が進行しており、効果的な姿勢の修正が困難な状態になっていることが多いです。この時期では、まずは改善可能な機能障害を見つけ、それに対して介入を行います。ステージ5のパーキンソン病患者さんでは、姿勢異常の因子として、関節や骨の変形による構造的な変化が占める割合が他のステージよりも大きくなっていますが、不動による筋の短縮や関節周囲の軟部組織の柔軟性低下など物理的な刺激で変化を生じさせることができる因子も残っています。筋や関節、関節周囲の軟部組織に対して、徒手や超音波などの物理療法を併用し、柔軟性の改善を図ります。また、ステージ3-4の段階で行ったような重心移動や姿勢制御の練習を行うことで、残存能力を最大限発揮できる身体状況を作っていきます。この時期では、薬剤によるon/off現象ウェアリングオフ現象によって、身体機能や姿勢異常に変動がみられるため、介入のタイミングや内容について薬剤の影響を考慮する必要があります。

おわりに

 今回は、パーキンソン病患者さんに対する嚥下理学療法の中で、柔軟性と姿勢異常の改善に向けた介入方法の例をまとめました。実際の現場では、様々な症状を呈する患者さんばかりだと思いますので、患者さん個々に合わせた介入方法を探していってください。

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参考文献

[1] 内田学, 他. 姿勢から介入する摂食嚥下 パーキンソン病患者に対するトータルアプローチ. MEDICAL VIEW社, 2020.

[2] Mikami, et al. Forward flexion of trunk in Parkinson’s disease patients is affected by subjective vertical position .PLoS One. 2017 Jul 10;12(7):e0181210.

[3] Li, et al. Tai chi and postural stability in patients with Parkinson’s disease.  N Engl J Med. 2012 Feb 9;366(6):511-9.

[4] Santos, et al. Balance versus resistance training on postural control in patients with Parkinson’s disease: a randomized controlled trial.  Eur J Phys Rehabil Med. 2017 Apr;53(2):173-183.