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嚥下理学療法㉕ 呼吸器疾患(COPD):介入方法

リラクゼーション、呼吸練習、嚥下筋トレーニング|2023.8.4|最終更新:2023.8.4|理学療法士が執筆・監修しています

序文

 前回はCOPD患者さんの摂食嚥下障害の特徴についてまとめました。今回は、COPD患者さんに対する嚥下理学療法について見ていきます。COPD患者さんの摂食嚥下障害のベースには、呼吸機能低下による呼吸苦が大きな比重を占めていることが多いため、基本的には呼吸理学療法の延長のような形で進めていきます。そのため、吸入薬など薬剤との併用についても検討が必要になる場面も出てくるかもしれません。ここでは薬剤については触れませんが、実際の場面では薬剤師さんとの連携も必要になってくると思います。

本記事でわかること

✅ まずは呼吸苦の改善が大事

✅ 呼吸練習で嚥下と呼吸の協調性を整える

✅ サルコペニアを合併していれば嚥下筋への介入も重要

呼吸苦、呼吸補助筋への介入

 COPD患者さんにおいても、脳卒中患者さんやパーキンソン病患者さんと同様に、円滑な摂食嚥下を行うために姿勢を整えることが大切になります。COPD患者さんを始めとした呼吸機能が低下した患者さんでは、頸部周囲の呼吸補助筋が低下した呼吸機能を代償するために過活動になっています。呼吸補助筋が過活動することで、頸部の可動性は低下します。頸部の可動性低下は、摂食嚥下における頸部角度の調整を阻害するため、円滑な摂食嚥下が難しくなります。また、呼吸補助筋が過活動状態になると、呼吸時の全体の筋活動量が増えるため、呼吸をするだけで精一杯になってしまい、息切れ感から食事摂取量が減ってしまいます。食事で息切れが生じてしまうと、嚥下を行う際に息を止めておくことが難しくなるため、呼吸と嚥下の協調性が崩れてしまい、誤嚥の危険性が高くなります。

 摂食嚥下に関わる筋肉の中には、呼吸と協調して活動する筋肉も複数存在します。舌骨上筋群・下筋群、咽頭周囲筋群、喉頭周囲筋群は呼吸中枢からの入力を受けており、横隔膜の活動と同期して活動しています[1]。COPD患者さんでは、横隔膜が平定化し、横隔膜が正常に機能することができなくなります。そのため、横隔膜と同期して活動している摂食嚥下関連筋群が呼吸と同期することが難しくなるため、このことも呼吸と嚥下の協調性が崩れてしまう要因の1つとなります。

 呼吸補助筋の過活動に対しては、リラクゼーションストレッチングが有効です。リラクゼーションには複数の方法があります。まずは、姿勢の調整です。呼吸補助筋は嚥下関連筋群と同様に、頸部から肩甲骨、鎖骨、胸骨に付着している筋が複数あります。これらの骨は、上肢の筋の付着部位でもあるため、上肢の重みを取ることが大切です。具体的には、肘掛けや前方に上体を置ける台を用いて、物的に上肢を支持します。また、COPD患者さんでは息が吐けないことで息切れ感が増悪していくため、呼吸介助を行い、呼吸苦の軽減を行います。具体的には、その方が楽な姿勢になっていただき、呼吸リズムに合わせて呼気の介助を行います。呼気の介助は、排痰時のスクイージングのように押し込むような介助は行いません。あくまで、患者さんが安楽に呼気を延長できるように誘導していくイメージです。慣れてきましたら、呼気終末でもう一息吐けるように介助を行います。この時、口すぼめ呼吸も併用することで効果が上がります。安楽な姿勢は患者さんによって異なりますが、セミファーラー位が安楽に感じやすいという報告があります[2]。過活動している呼吸補助筋に対しては、マッサージやストレッチングなど徒手療法も筋活動軽減に有効です。過活動している筋をそれぞれ触診で確認し、個別にマッサージやストレッチングを行います。独立行政法人環境再生保全機構では、呼吸筋ストレッチ体操という一般向けの呼吸筋のストレッチ方法が紹介されており、そちらの活用も有効です[3]。

呼吸練習

 ここでの呼吸練習には、呼吸筋力を鍛える呼吸筋トレーニングと、呼吸リズムを整える呼吸練習を含んで記載いたします。呼吸筋トレーニングには呼気筋トレーニングと吸気筋トレーニングがあります。呼気筋トレーニングについては、嚥下障害を有する患者さんに対する呼気筋トレーニングが誤嚥予防に有効であることが報告されています[4]。吸気筋トレーニングについては、脳卒中患者さんを対象にした調査で呼吸機能の改善が報告されています[5]。しかし、嚥下機能については測定されておらず、吸気筋トレーニングによる嚥下機能への効果については、まだ不明な点が多いのが現状です。また、呼気筋、吸気筋ともに、トレーニング効果の有効性は脳卒中やパーキンソン病の患者さん、あるいは地域在住高齢者を対象としている報告が多く、COPD患者さんでも有効であると考えられていますが、まだ明確にはなっていません。

 COPDは呼気が十分行えないことが特徴なので、呼吸が浅く速いパターンになりやすくなります。このような呼吸パターンだと、嚥下との協調性が乱れてしまい、誤嚥の危険性が高くなります。呼吸リズムを整える練習として、まずはご自身で深呼吸、特に呼気を意識した深呼吸を行っていただきます。ご自身で調整することが難しい場合には、療法士が呼吸介助を行い、呼吸リズムを整えていきます。この時も呼気を長くできるようにすることと、できるだけリラックスした状態になれるように環境や介助方法を工夫します。呼吸リズムが整ってきましたら、嚥下の際に息をこらえる練習を行います。具体的には、嚥下時の呼気-嚥下-呼気のパターンが行えるように練習をします。呼吸リズムの乱れが長期に及んでいると、呼気-嚥下-呼気のパターンを忘れてしまっていることもあるため、始めは呼気-息と止めて我慢-呼気という形で、嚥下を入れずに呼吸のみで練習をしていきます。慣れてきましたら、呼気-空嚥下-呼気というように、少しずつ嚥下の要素を増やしていきます。実際に食物を用いて行う際には誤嚥の危険性がありますので、言語聴覚士さん、看護師さん、歯科職種の方など、摂食嚥下の専門の方に相談しながら進める必要があります。

嚥下筋トレーニング

 COPD患者さんではサルコペニアの嚥下障害を合併している可能性が高いため、摂食嚥下に関連する筋群の筋力が低下している可能性も高くなります。そのため、サルコペニアを合併しているCOPD患者さんでは、摂食嚥下障害の改善には摂食嚥下関連筋群の筋力強化も必要になります。また、COPD患者さんでは咽頭の感覚低下から嚥下反射の惹起が遅れてしまうことも多いため、嚥下時の咽頭感覚の再学習も必要になります。さらに、COPD患者さんでは舌圧が低下していることが報告されています[6]。舌圧は嚥下の際に嚥下圧を高めるために重要な働きをしているため、舌圧の強化も必要になります。

 嚥下筋のトレーニング方法には、様々な方法が開発されています。有名なものはシャキア運動というものがあります。これは頭部挙上運動とも呼ばれており、舌骨上筋群の強化を目的としています。COPD患者さんで効果があるかはまだ明らかになっていませんが、舌骨の可動性食道入口部の開大の改善にも効果があることが報告されています[7]。舌骨上筋群の強化には、他にもChin tuck against resistance(あご引き運動)や開口運動、嚥下おでこ体操など、様々な方法が開発されており、いくつかの研究ではその有効性が報告されています。咽頭感覚の再学習には、咽頭部への経皮的電気刺激が嚥下反射惹起の改善に有効である可能性があることが報告されています[8]。舌圧については、舌圧のトレーニングをすることで最大舌圧や嚥下機能が改善することが示唆されています[9]。しかし、舌圧についても、COPD患者さんで効果があるかについてはまだ明確になっていません。

おわりに

 今回はCOPD患者さんに対する嚥下理学療法の一例をまとめました。他にも様々な方法がありますが、まだ効果が明確になっていないものも多く、今後の研究成果が待たれるところです。前回も述べましたが、COPD患者さんは摂食嚥下障害を有している割合が少なくないにも関わらず、神経疾患などと比較して見逃されてしまうことが少なくありません。誤嚥性肺炎はCOPDを増悪させて死亡リスクを高めてしまう要因にもなりますので、COPD患者さんを担当する機会がありましたら、摂食嚥下機能の評価を取り入れて見て下さい。

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参考文献

[1] Fujishima, et al. Sarcopenia and dysphagia: Position paper by four professional organizations. Geriatr. Gerontol. Int. 2019;19:91-97.

[2] 一場、他. 慢性閉塞性肺疾患患者に対するリラクセーション肢位の有効性. 呼吸ケア・リハビリテーション学会誌. 2010年; 20巻2号: 146-151.

[3] 独立行政法人環境再生保全機構ホームページ. https://www.erca.go.jp/yobou/event/r02remote02/index.html.

[4] Brooks, et al. Expiratory muscle strength training improves swallowing and respiratory outcomes in people with dysphagia: A systematic review. Int J Speech Lang Pathol. 2019 Feb;21(1):89-100. 

[5] Liaw, et al. Respiratory muscle training in stroke patients with respiratory muscle weakness, dysphagia, and dysarthria – a prospective randomized trial. Medicine (Baltimore). 2020 Mar;99(10):e19337. 

[6] Sugiya, et al. Decreased Tongue Strength is Related to Skeletal Muscle Mass in COPD Patients. Dysphagia. 2022 Jun;37(3):636-643.

[7] Krekeler, et al. Dose in Exercise-Based Dysphagia Therapies: A Scoping Review. Dysphagia. 2021 Feb;36(1):1-32.

[8] Yoshimatsu, et al. Interferential Current Stimulation for Swallowing Disorders in Chronic Obstructive Pulmonary Disease: A Preliminary Study. Prog Rehabil Med. 2022 Feb 17;7:20220007.

[9] Smaoui, et al. The Effect of Lingual Resistance Training Interventions on Adult Swallow Function: A Systematic Review. Dysphagia. 2020 Oct;35(5):745-761.