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嚥下理学療法24 呼吸器疾患(COPD) 

 COPD、呼吸サルコペニア、低栄養|2023.7.28|最終更新:2023.7.28|理学療法士が執筆・監修しています

序文

 前回までは、パーキンソン病患者さんの摂食嚥下障害に対しての嚥下理学療法についてまとめてきました。今回からは、COPD患者さんを例にして呼吸器疾患患者さんの嚥下理学療法について見ていきます。誤嚥性肺炎以外の呼吸器疾患患者さんも、摂食嚥下障害を有している危険性は高いのですが、その認知度はこれまで見てきた神経疾患患者さんと比較して低いのではないでしょうか。ですが、実際には摂食嚥下障害を有していることは少なくありません。

本記事でわかること

✅ 呼吸機能低下は摂食嚥下障害の危険因子

✅ COPD患者さんでは、サルコペニアの摂食嚥下障害の危険性も高い

✅ 低栄養もCOPD患者さんの摂食嚥下障害の危険因子

COPDと摂食嚥下障害

 COPDはタバコの煙や大気汚染物質などの有害物質に長期間暴露されることで生じる肺の慢性炎症性疾患です。近年では喫煙者は年々減少傾向で、大気汚染も改善されていますが、現在の高齢者が若者だったころは、喫煙者は多く、高度成長期に伴う大気汚染によって有害物質の暴露が多い状態でした。そういった背景もあり、2021年のCOPDによる死亡者数は16384人で、男性では死因の第9位となっています[1]。別の調査では、40歳以上のCOPD有病率は8.6%、患者数は530万人と推定されていますが[2]、実際にCOPDの診断を受けた患者数は約22万人と推定されており、多くのCOPD罹患者が診断を受けていない潜在患者であると考えられています。

 COPD患者さんでは、摂食嚥下障害の有病率は32.7%であり、呼吸困難、胃食道逆流症(GERD)、口腔乾燥、唾液内の細菌、身体能力低下、生活の質の低下、高い CRPレベルが危険因子であることが報告されています[3]。COPD患者さんの摂食嚥下障害の特徴としては、呼吸機能低下による呼吸と嚥下のパターンの変化[4]、喉頭の最大挙上位置の低下[5]、咽頭感覚の低下とそれに伴う嚥下反射惹起遅延[6]などが報告されています。摂食嚥下障害を有するCOPD患者さんでは急性増悪するリスクが高くなります[7]。

 以上より、COPD患者さんにおいても摂食嚥下障害は介入すべき重要な問題となります。

COPDとサルコペニアの摂食嚥下障害

 サルコペニアは高齢期にみられる骨格筋量の減少と筋力もしくは身体機能(歩行速度など)の 低下が存在する状態と定義されています[8]。COPD患者さんのサルコペニア有病率は、全体で15.5%重度者では37.6%と報告されています[9]。また、サルコペニアを有しているCOPD患者さんは1秒量と運動耐容能が、サルコペニアではないCOPD患者さんよりも低下しています[9]。サルコペニアは嚥下関連筋でも生じており、サルコペニアは摂食嚥下障害の危険因子であることが示されています[10]。つまり、COPD患者さんはサルコペニアを合併しやすく、サルコペニアも摂食嚥下障害の危険因子であることから、サルコペニア状態のCOPD患者さんはそれぞれ単独よりも、摂食嚥下障害を有する危険性が高くなります。

 最近では、COPDを始めとした呼吸筋力や呼吸筋量が減少している状態を「呼吸サルコペニア」と呼ばれています[11]。呼吸サルコペニアの診断には、まず呼吸筋力を測定します。呼吸筋力は最大口腔内圧を用いて、呼気筋力と吸気筋力を分けて測定します。呼気筋力と吸気筋力の基準値は年齢、身長、体重によって違いがあり、それらを考慮した計算式が出されています[12]。以下にその計算式を示します(単位:身長cm、体重kg)

男性

吸気筋力(Plmax)=45.0-0.74×年齢+0.27身長+0.60×体重

呼気筋力(PEmax)=25.1-0.37×年齢+0.20身長+1.20体重

女性

吸気筋力(Plmax)=-1.5-0.41×年齢+0.48×身長+0.12×体重

呼気筋力(PEmax)=-19.1-0.18×年齢+0.43×身長+ 0.56×体重

この計算式で算出された基準値を参考に、基準値よりも低ければ呼吸筋力が低下していると考えられます。呼吸筋力の測定ができない場合には、最大呼気流量(PEFR)最大咳嗽流量(PCF)を呼吸筋力の指標として用いても良いとされています[11]。呼吸筋力が低下していれば、次は呼吸筋量を測定します。呼吸筋の筋肉量の測定には、一般的に超音波検査CTが用いられます。これらの機器で横隔膜肋間筋、呼吸補助筋である斜角筋胸鎖乳突筋大胸筋傍脊柱筋などの筋量を測定します。一般成人の横隔膜厚の下限値は0.15cmと言われています[11]。他の呼吸筋に関しては、筋肉量のカットオフ値はまだ定まっていないため、現時点では横隔膜の厚さを測定するのが良さそうです。呼吸筋量の測定ができない場合には、四肢の骨格筋量を代替的に使用します。四肢骨格筋量の基準値は、アジア人のサルコペニアの基準であるAWGS2019の数値を用いるのが良いとされています。呼吸筋力は低下しているが呼吸筋量または四肢骨格筋量が減少しておらず、呼吸機能障害を認めた場合には、呼吸機能障害による呼吸筋力低下とされ、呼吸サルコペニアではないと診断されます[11]。

 呼吸サルコペニアに陥ると、様々な悪影響が生じます。呼吸サルコペニアの状態の人は握力、膝伸展筋力、通常歩行速度、椅子立ち 上がり,片足立ち時間、ADL能力が健常群よりも低かったことが報告されています[13]。また、呼吸筋力の低下は肺炎発症死亡ICU滞在期間人工呼吸器離脱期間の長期化など、生命予後にも影響します。

 以上より、COPD患者さんはサルコペニアを合併するリスクが高く、サルコペニアは摂食嚥下障害の危険因子であるため、摂食嚥下障害の評価、介入を進めていく中でサルコペニアに対する評価、介入も考慮する必要があります。

COPDと栄養障害による摂食嚥下障害

 COPD患者さんでは、栄養障害の危険性も高くなります。安定期のCOPD患者さんを対象とした調査では、22.6%がGLIM基準で判定した低栄養状態であり、COPDが重度なほど低栄養に該当する患者さんが多かったことが報告されています[14]。低栄養状態だと、骨格筋が分解されてエネルギーとして利用されます。骨格筋が分解されて筋肉量が減少すると、サルコペニア状態に陥ります。サルコペニア状態では、上述したように呼吸機能や摂食嚥下機能の低下を引き起こすため、摂食嚥下障害のリスクが高くなります。

 COPD患者さんの低栄養の原因には、複数の要因が関係しています。そのうち主だったものは、呼吸苦による食事量減少全身性の炎症や呼吸仕事量増加によるエネルギー消費の増加です。まず、呼吸機能が低下すると、食事をするだけでも息切れが生じてしまい、提供された食事を全て食べることができません。また、咀嚼するだけでも疲れてしまうため、食べることができる食形態にも制限が生じます。その結果として、必要なエネルギー量や栄養素を摂取することができず、栄養状態が悪化していってしまいます。また、COPDという疾患は全身性の炎症を伴う疾患です。炎症は体内の異化を亢進させるため、筋たんぱくが分解され、筋肉量が減少してしまいます。さらに、COPD患者さんは、一般成人と比較して、呼吸の仕事量が増加しています。年齢や体格から計算された予測値と比較して、安静時のエネルギー消費量が120-140%増加していると言われています[15]。以上より、COPD患者さんは呼吸苦や運動耐容能の低下から不活動になり、活動によるエネルギー消費は減少しますが、摂取量が減少したり、疾患の影響でエネルギー消費量が増加したりするため、結果的に鄭英栄養状態になりやすい疾患と言えます。そして、低栄養状態になることで呼吸筋や摂食嚥下関連筋群が減少し、結果として嚥下障害や誤嚥性肺炎の危険性が高くなります。

おわりに

 今回はCOPD患者さんの摂食嚥下障害の特徴についてまとめました。これまでまとめてきました脳卒中やパーキンソン病患者さんとは特徴が異なっています。神経系疾患と比べて、COPD患者さんにはST処方が出る機会はまだ多くはないと思いますので、理学療法士が摂食嚥下障害に気付き、医師やSTなど他職種に助けを求められることが大切だと思います。

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参考文献

[1] 厚生労働省. 人口動態統計. https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/81-1a.html

[2] Fukuchi, et al. COPD in Japan: the Nippon COPD Epidemiology study.  Respirology. 2004 Nov;9(4):458-65.

[3] Li, et al. The prevalence of oropharyngeal dysphagia in patients with chronic obstructive pulmonary disease: a systematic review and meta-analysis. Expert Rev Respir Med. 2022 May;16(5):567-574.

[4] Oku, et al. Swallowing disorder – A possible therapeutic target for preventing COPD exacerbations. Respir Physiol Neurobiol. 2023 Jul;313:104061.

[5] Mokhlesi, et al. Oropharyngeal deglutition in stable COPD. Chest. 2002 Feb;121(2):361-9. 

[6] Clayton, et al. Impaired laryngopharyngeal sensitivity in patients with COPD: the association with swallow function. Int J Speech Lang Pathol. 2014 Dec;16(6):615-23.

[7] Steidl, et al. Relationship between Dysphagia and Exacerbations in Chronic Obstructive Pulmonary Disease: A Literature Review. Int Arch Otorhinolaryngol. 2015 Jan;19(1):74-9.

[8] 日本サルコペニアフレイル学会編. サルコペニア診療ガイドライン. 2017.

[9] Sepúlveda-Loyola, et al. Diagnosis, prevalence, and clinical impact of sarcopenia in COPD: a systematic review and meta-analysis. J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2020 Oct;11(5):1164-1176.

[10] Fujishima, et al. Sarcopenia and dysphagia: Position paper by four professional organizations. Geriatr Gerontol Int. 2019 Feb;19(2):91-97. 

[11] Sato S, et al. Respiratory sarcopenia: A position paper by four professional organizations. Geriatr Gerontol Int. 2023 Jan;23(1):5-15.

[12] Suzuki, et al. Age-related changes in static maximal inspiratory and expiratory pressures. Nihon Kyobu Shikkan Gakkai Zasshi 35:1305-1311, 1997.

[13] Morisawa, et al. The Relationship between Sarcopenia and Respiratory Muscle Weakness in Community-Dwelling Older Adults. Int J Environ Res Public Health 18:13257, 2021.

[14] Kaluźniak-Szymanowska, et al. Malnutrition, Sarcopenia, and Malnutrition-Sarcopenia Syndrome in Older Adults with COPD. Nutrients. 2021 Dec 23;14(1):44. 

[15] 日本静脈経腸栄養学会編, 静脈経腸栄養ガイドライン 第3版. 2013.