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嚥下理学療法㉓ パーキンソン病への介入例:呼吸・食事動作

呼吸、咳嗽、食事動作|2023.7.21|最終更新:2023.7.21|理学療法士が執筆・監修しています

序文

 前回はパーキンソン病患者さんに対する嚥下理学療法として、身体の柔軟性や姿勢に対しての介入例をまとめました。今回は、呼吸機能や食事動作に対しての介入例を見ていきます。パーキンソン病患者さんでは呼吸機能や咳嗽力が低下しているため、誤嚥性肺炎予防のためにも呼吸機能の改善が必要になってきます。また、筋強剛や無動、不随意運動といった運動症状によって円滑な食事動作が難しくなるため、食事動作の練習も大切になってきます。

本記事でわかること

✅ 呼吸機能への介入は嚥下障害の改善にも有効

✅ 呼気、咳嗽の強化は誤嚥性肺炎予防に重要

✅ 食事動作への介入は先行期の改善につながる

呼吸機能への介入

 パーキンソン病患者さんの嚥下障害の特徴のところでも記載しましたが、パーキンソン病患者さんでは、初期段階から咳嗽力が低下しており、ステージが進行していくにつれて努力性肺活量や1秒量が低下することが報告されています[1]。そのため、初期段階から咳嗽力や呼吸機能の低下を予防するための介入が必要になります。

ステージ1-2

 ステージ1-2の初期段階から、強制呼気練習を行い、咳嗽力の強化を行います。具体的には、ペットボトル(500ml以下が使いやすい)に半分程度水を入れて、ストローを挿し、ストローから息を吹き込んでブクブクを泡立たせる方法(ペットボトルブローイング)、吹き戻し、風車吹きなど、視覚的なフィードバックが得られる方法や受け入れやすいです。また、呼吸筋体操はセルフエクササイズとして行える方法であるため、胸郭の可動性および換気量を向上させる目的で指導することも有効です。

ステージ3-4

 ステージ3-4の段階では、咳嗽力だけでなく肺活量や1秒量など他の呼吸機能も低下してきます。これは、筋強剛や姿勢異常によって、胸郭の拡張が阻害されることが大きな要因となっています。そのため、初期段階で行っていた強制呼気の練習に加えて、胸郭の可動性を改善させるための運動吸気筋トレーニングを取り入れます。具体的には、体幹前屈位の姿勢異常を呈していることが多いため、体幹伸展運動を行います。体幹伸展の動きには肋間が広がることが必要になるため、胸郭の拡張につながります。体幹伸展運動の際に、上肢の挙上も加えて行うと、より胸郭の拡張を促せるため、上肢挙上に問題がなければ、上肢挙上を併用する方が効果的です。吸気筋トレーニングでは、市販の吸気筋トレーニング機器を用いると効率良く吸気筋を強化することができます。最近では、ネット通販でも様々なタイプや強度のトレーニング機器が発売されていますので、使用する方に合った機器を選択して下さい。トレーニング機器を購入しなくても、吸気を最大限行うように意識した深吸気練習はどこでも誰でも行えるため有用です。負荷量は本人の主観になってしまいますが、Borgスケールなどを用いて運動負荷量の評価は可能です。

ステージ5

 ステージ5の段階では、筋強剛や姿勢異常による胸郭の拡張制限が著しくなり、吸気も呼気も制限されます。また、無動や不随意運動といった運動症状が進行しているため、随意的に呼吸機能のトレーニングを行うことが難しくなります。さらに、咳嗽反射の惹起遅延も進行しているため、誤嚥しそうになった際にタイミングよく効果的な咳嗽を行うことが難しくなってきます。そのため、初期や中期の段階のようなご自身で行ってもらうトレーニングでは十分な効果が得られにくくなります。そこで、この段階では徒手的な胸郭へのアプローチが必要になります。具体的には、呼吸介助と同じ方法で、呼気終期で少し圧迫を加え、努力呼気よりも深い呼気が行えるように介助を行います。また、体幹伸展や回旋のストレッチを徒手的に誘導し、胸郭の拡張も同時に促します。これらの方法によって胸郭の柔軟性の改善を図り、呼吸機能の向上を目指します。

食事動作への介入

 食事動作には、身体の柔軟性や姿勢調整機能以外にも、上肢の可動性や食具の操作能力が求められます。パーキンソン病患者さんでは、筋強剛や無動、不随意運動などの運動症状の影響で細かい動作が難しくなっていきます。食事動作が上手く行えないと、食べることができる食事形態が限られたり、食事をすることで体力が削られ、途中で疲れてしまうことで食事摂取量が減ってしまったりするため、円滑な食事動作が行えることは摂食嚥下機能や栄養状態の維持に重要となります。

ステージ1-2

 ステージ1-2の初期段階では、食事動作はまだ制限されていないことが多いですが、お箸など食具の使いにくさや食事形態によっては口まで運ぶことに困難さを感じることが増えてきます。そこで、お箸などの食具の操作の練習や食具を用いた物品操作の練習を行います。具体的には、食具で小豆やビーズを取って別の器に移動させる、食具で粘土を小さく切るといった、実際の食事場面に近い課題を設定し、練習していきます。この時に重要なのは、ただ反復するだけではなく、どうすれば上手くいくのか、またはいかないのかを1試行ごとに考えながら行うことです。そうすることで、学習効率が良くなり、実際の食事場面に汎化されやすくなります。

ステージ3-4

 ステージ3-4の段階では、初期段階から見られる道具操作の拙劣さに加えて、運動症状や姿勢異常から上肢機能に制限が生じ、リーチ範囲や空間保持の能力が低下していきます。そのため、リーチ動作を始めとした上肢操作の練習が必要になります。具体的には、リーチ動作の練習として、テーブルや壁を利用したワイピング動作練習、輪入れ練習などがあります。空間保持の練習としては、水の入ったコップを移動させたり、スプーンでビーズなどを移動させたりといった練習方法があります。練習方法は本人の能力や使える物品などを考慮して、場面場面で工夫して行ってみてください。

ステージ5

 ステージ5の段階では、運動症状や姿勢異常がより重度になるため、食事動作は著しく制限されます。上肢の運動範囲はより狭小化し、巧緻性も低下していきます。ステージ3-4の時期のようなリーチ動作や上肢操作練習が有効ですが、動作の練習の前に、肩甲帯から手指までの各関節の可動域の改善が必要になります。筋や皮膚などの軟部組織の伸張性や柔軟性の改善を行い、上肢を動かす際の制限因子を少なくし、残存機能を発揮しやすい状態を作ります。特に肩甲帯は体幹前屈の姿勢異常の影響を受けやすく、リーチ動作において上肢の方向付けを行う重要な部位なため、可動性と固定性の両方が求められます。可動域の拡大と共に、機能的な操作性、固定性についても向上を図る必要があります。具体的には、徒手的なモビライゼーションで可動域の拡大を図り、様々な上肢の位置でボールを壁に押し付けるなどプッシュ動作を行うことで前鋸筋や僧帽筋、腱板筋などの活動を高め、操作性と固定性を改善させます。

おわりに

 今回はパーキンソン病患者さんに対する嚥下理学療法として、呼吸機能への介入と食事動作への介入の一例をまとめました。呼吸機能や上肢機能の改善は理学療法士の得意分野でもありますので、摂食嚥下リハビリテーションを進める中で、積極的に関わっていく必要があります。

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✅記事監修(✅編集(てろろぐ

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参考文献

[1] 内田学, 他. 姿勢から介入する摂食嚥下 パーキンソン病患者に対するトータルアプローチ. MEDICAL VIEW社, 2020.

[2] Xi, et al. Association between respiratory function and motor function in different stages of Parkinson’s disease. Eur Neurol. 2023 Apr 17.