6分間歩行距離、運動耐容能、MCID|2023.8.18|最終更新:2023.8.18|理学療法士が執筆・監修しています
序文
前回は歩行速度について、その測定方法と最小臨床重要変化量(Minimal Clinically Important Difference(MCID))についてまとめました。今回は6分間歩行試験について、測定方法とMCIDについて見ていきます。6分間歩行試験は測定条件があり、環境によっては歩行路の確保など正式な方法での測定が難しいと感じる方は少なくないと思います。しかし、臨床では大変有用な指標ですので、変更した条件を明記した上で実施することも検討してみてください。
✅ 6分間歩行距離は予後予測因子として有用 ✅ 測定には直線30mの歩行路と緊急時に対応できる準備が必要 ✅ MCIDは疾患によって多少のバラつきがある |
6分間歩行試験と予後
6分間歩行試験は心血管疾患や呼吸器疾患患者さんの運動耐容能の指標として用いられることが多く、リハビリテーションのアウトカムとしてだけでなく、予後指標としても重要です。左室収縮機能不全を有している慢性心不全患者さんを対象とした調査では、6分間歩行距離が300m以下の群では、300m以上の群と比較して、2年間の追跡期間中の死亡リスクが高いことが報告されています[1]。COPD患者さんの診療データを用いた調査では、ベースライン時と1年後の6分間歩行試験実施時にSpO2<90%となった群では、全ての原因での死亡および呼吸器関連での死亡のリスクが高かったことが報告されています[2]。また、呼吸・心血管疾患患者さん以外でも6分間歩行試験は予後予測として有用性が認められています。入院リハビリテーションを行っている脳卒中患者さんを対象とした調査では、6分間歩行距離がFIMの運動項目と正の関連を示していることが報告されています[3]。
これ以外にも、6分間歩行試験は様々なセッティングで予後との関連性が認められているため、評価できる患者さんの状態および環境があれば、評価していく必要があります。
6分間歩行試験の実施方法
必要物品
- 30mの歩行路(直線で折り返して使用することを推奨)
- ストップウォッチ
- ロードメジャー(距離測定用)
- 椅子
- 方向転換場所の目印(コーンなど)
- 状態急変時用に、救急カート、緊急時連絡の手段
- 普段使用している歩行補助具や酸素療法機器
実施手順
- 開始前に、試験実施可能かどうか、バイタルサインや体調の確認、普段内服している薬を服用しているかなど確認を行う。
- 試験場所が快適な温度で、通行人や障害物など邪魔になるものがないことを確認する。
- 試験実施前に、試験実施コースの近くで15分の休憩を取り、状態を安定させる。
- 「6分間できるだけ長く歩く」「実施中は、時間内であれば何度休憩しても良い」ことを説明し、スタート。
- 実施中は横に付き添わない(転倒リスクが高い場合は後方からの付き添い可)。
- 1分毎に時間経過の声かけは行うが、励ましなどの声かけは行わない。
- 6分終了時点での距離を測定する。
- 全身状態の確認を行い、問題がなければ終了する。
評価項目
- 開始前後、実施中のバイタルサイン(SpO2、心拍数、呼吸数、自覚的疲労度(Borgスケール)、血圧)
- 歩行距離
- 休憩の回数、時間、休憩の理由
6分間歩行距離のMCID
心血管疾患
8週間の心臓リハビリテーションプログラムを行った安定期冠動脈疾患患者さんを対象とした調査では、6分間歩行距離のMCIDが25mだったことが報告されています[4]。
鉄欠乏を有するHFrEF患者さんを対象に12週目と24週目に6分間歩行試験を行った調査では、6分間歩行距離のMCIDは12週目で14m、24週目で15mだったことが報告されています[5]。
呼吸器疾患
安定期のCOPD患者さんを対象とした調査では、患者さんが「少し良くなった」と感じる歩行距離の変化は54mだったことが報告されています[6]。
7週間の呼吸リハビリテーションを行ったCOPD患者さんを対象とした調査では、患者さんが変化を感じた最小距離は25mだったことが報告されています[7]。
地域在住高齢者
地域在住高齢者を対象とした調査では、対象者が最も意味のある変化と捉えた距離の変化は47-49mだったことが報告されています[8]。
脳卒中
3か月の運動プログラムを行った慢性期の脳卒中患者さんを対象とした調査では、患者さんが改善を実感できた歩行距離の変化は34.4mだったことが報告されています[9]。
おわりに
今回は6分間歩行試験の方法とMCIDについてまとめました。6分間歩行試験の結果は、種々のアウトカムに対するカットオフ値を用いられることが多いですが、MCIDのような「どれくらい変化したか」という指標も用いていくと、患者さんのモチベーションアップにつながるかもしれません。6分間歩行試験のMCIDについて調査されている対象はまだ多くはありません。また、今後研究が進めば数値は変化するかもしれません。定期的にアップデートされていないかの確認は必要だと思います。
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地域在住高齢者では、70分/回×週2回×16週間の運動介入を行うと、プレフレイルの46%、フレイルの50%がそれぞれロバストやプレフレイルまで改善したそうです。https://t.co/E0fiqzFPr7
— Isao Uno(宇野勲)@リハ栄養学会2023実行委員長 (@isao_reha_nutri) June 2, 2022
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参考文献
[1] Arslan, et al. Prognostic value of 6-minute walk test in stable outpatients with heart failure. Tex Heart Inst J. 2007;34(2):166-9.
[2] Waatevik, et al. One Year Change in 6-Minute Walk Test Outcomes is Associated with COPD Prognosis. COPD. 2020 Dec;17(6):662-671.
[3] Fulk, et al. Clinometric properties of the six-minute walk test in individuals undergoing rehabilitation poststroke. Physiother Theory Pract. 2008 May-Jun;24(3):195-204.
[4] Gremeaux, et al. Determining the minimal clinically important difference for the six-minute walk test and the 200-meter fast-walk test during cardiac rehabilitation program in coronary artery disease patients after acute coronary syndrome. Arch Phys Med Rehabil. 2011 Apr;92(4):611-9.
[5] Khan, et al. Minimal Clinically Important Differences in 6-Minute Walk Test in Patients With HFrEF and Iron Deficiency. J Card Fail. 2023 May;29(5):760-770.
[6] Redelmeier, et al. Interpreting small differences in functional status: the Six Minute Walk test in chronic lung disease patients. Am J Respir Crit Care Med. 1997 Apr;155(4):1278-82.
[7] Holland, et al. Updating the minimal important difference for six-minute walk distance in patients with chronic obstructive pulmonary disease. Arch Phys Med Rehabil. 2010 Feb;91(2):221-5.
[8] Perera, et al. Meaningful change and responsiveness in common physical performance measures in older adults. J Am Geriatr Soc. 2006 May;54(5):743-9.
[9] Tang, et al. Relationship between perceived and measured changes in walking after stroke. J Neurol Phys Ther. 2012 Sep;36(3):115-21.