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嚥下理学療法㉑ パーキンソン病 病期別の特徴

ヤールステージ、嚥下障害、パーキンソン病|2023.7.7|最終更新:2023.7.7|理学療法士が執筆・監修しています

序文

 前回はパーキンソン病患者さんの嚥下障害の特徴の全体像についてまとめました。今回は、パーキンソン病の病期別の特徴について見ていきます。前回も記載しましたが、パーキンソン病患者さんでは初期から嚥下障害を認めることが少なくありません。病期の各段階において、症状は変化していきますが、それに伴い、嚥下障害の特徴や関連する因子も変化していきます。そのため、病期に合わせた評価、介入を行なっていくことが大切になります。

本記事でわかること

✅ 初期では、自覚は少ないが嚥下障害が出始める

✅ 中期では、嚥下障害に関連する症状が顕在化する

✅ 末期では、キュアよりもケアが大切

初期(ステージ1-2)

 ヤールステージ1は「症状は片側のみ」、ステージ2は「バランス障害を伴わない両側性の病変」と定義されています[2]。日常生活は自立していることが多く、摂食嚥下に関しては問題を感じていないことが多いです。しかし、パーキンソン病患者さんでは、初期から摂食嚥下機能が低下し始めていることが報告されていますが[3]、日常生活は問題なく過ごせていることもあり、自覚していない場合が多くあります。そのため、この自覚していないけれども機能が低下している時期に気付き、予防的な介入を開始することが機能維持につながります。

 食事中の摂食嚥下障害を疑わせる症状としては、咀嚼をあまりしなくても良い食品を好むようになった、飲み込むタイミングが取りにくくなった1回の嚥下で飲み込むことが難しくなった、嚥下後に湿性嗄声が見られるようになった、口腔内に食物残渣が見られるようになったなどがあります。

 食事以外の場面では、唾液の誤嚥によって食べ物を食べていなくてもむせることが多くなります。むせが多くなると、水分を摂取しようとしなくなってしまうため、脱水の危険性が高くなります。また、普段は問題なく飲めていた薬剤が飲みにくくなり、飲まなくなってしまうということもあります。さらに、痰が増える、活気がなくなってきた、微熱が続くといった、誤嚥性肺炎を疑わせる所見が見られるようになります。誤嚥性肺炎が疑われる所見が見られた際には、速やかにかかりつけ医を受診し、対応してもらうことで重症化を予防することができます。

 精神心理面についても確認が必要です。パーキンソン病患者さんでは、発症初期から認知機能が低下し始めます。特に、遂行機能ワーキングメモリー注意機能などは食事に影響を与えます。また、抑うつ症状も出現しやすくなるため、食欲低下にも注意が必要です。

中期(ステージ3-4)

 ヤールステージ3は「軽度から中等度の両側性の障害。身体的に不安定だが自立している段階」、ステージ4は「重度の障害。歩行や起立は可能な状態」と定義されています[2]。この段階から生活場面で姿勢反射障害による弊害が出始め、立位や座位で不良姿勢を呈するようになります。不良姿勢になると、摂食嚥下に適した姿勢を保持することが難しくなってくるため、構造的な要因による摂食嚥下機能の低下が認められるようになります。パーキンソン病患者さんに特徴的な姿勢や、それに伴う摂食嚥下障害については前回まとめてありますので、そちらをご覧ください。

 この時期からは、筋強剛無動振戦などの身体症状も表面化してきます。これらの身体症状は、食べ物を取る、口まで運ぶ、捕食する、咀嚼する、飲み込むといった摂食嚥下嚥下の一連の流れ全てにおいて影響してきます。身体が思うように動かなくなるため、食事をすることに努力が必要となり、食べている途中で疲れてしまい、食事量が減ってしまうということも生じます。食事量が減ることで体力はさらに低下し、疲れやすいために食事をしたくないという訴えも出てきます。負のサイクルに陥ってしまい、低栄養が進行し、有害事象が発生する危険性が高くなります。

 この時期では、パーキンソン病の運動機能症状の進行により、口腔機能の低下がステージ1-2の段階よりも顕著になってきます。そのため、口腔内残渣がより目立つようになり、口腔環境が悪化していきます。また、運動機能症状の進行によって口腔ケアが十分行えなくなります。結果として口腔環境が悪化してしまい、口腔内細菌の増殖につながります。唾液誤嚥した際には、口腔内の細菌も一緒に誤嚥してしまうため、肺炎を発症する危険性が高くなります。

末期(ステージ5)

 ステージ5は、介助がなければ車椅子またはベッド上生活となる段階です。筋強剛や姿勢反射障害によって不良姿勢がより顕著になり、椅子座位を保持することも難しくなります。体幹は前傾位となり、それに伴い頸部は伸展位を強いられます。また、体幹が側方に傾斜するピサ症候群もより強くなり、クッション等を用いても修正が難しい側方への傾斜がより顕著になります。不良姿勢に加えて、筋強剛を始めとした運動機能症状も強くなっているため、頭頚部の摂食嚥下に関連する筋群が適切なタイミングで十分な機能を発揮することができなくなります。先行期での食べこぼし、準備期での食塊形成困難、口腔期での送り込み困難、咽頭期での嚥下反射惹起遅延喉頭挙上不足不顕性誤嚥、食道期での送り込み困難胃内物逆流など、摂食嚥下の各期で問題が生じます。徐々に経口摂取が困難となり、最終的に栄養投与経路をどうするかを本人、家族とともに考えていく時期に入っていきます。しかし、経口以外の栄養投与経路を選択し、経口摂取をやめたとしても、唾液誤嚥による誤嚥性肺炎の危険性は高い状態であることに変わりありません。そのため、口腔環境をモニタリングし、口腔ケアを継続して行う必要があります。

おわりに

 今回はパーキンソン病患者さんの嚥下障害を、病期別でまとめました。実際には各ステージ毎に明確に分類できることは少なく、初期であっても嚥下障害が顕著であったり、末期でも嚥下は保たれていたりすることもあります。各病期の特徴を把握した上で、目の前の患者さんがどのような状態なのかの評価が必要です。

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✅記事監修(✅編集(てろろぐ

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参考文献

[1] 森若文雄, 他. 姿勢から介入する摂食嚥下 パーキンソン病患者に対するトータルアプローチ. MEDICAL VIEW社, 2020.

[2] Goetz CG, et al. Movement Disorder Society Task Force report on the Hoehn and Yahr staging scale: status and recommendations. Mov Disord. 2004 Sep;19(9):1020-8.

[3] 日指, 他. パーキンソン病における嚥下障害. 臨床神経学, 56(8); 2016