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脳卒中(麻痺患者)の嚥下障害って?飲み込みや症状の特徴と評価方法

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脳卒中麻痺高次脳機能障害|2023.5.26|最終更新:2023.5.26|理学療法士が執筆・監修しています

病態別嚥下理学療法(脳卒中編)

前回までは、一般的な嚥下理学療法の介入のポイントについてまとめました。今回からは病態別で見ていきます。まずは脳卒中患者さんに対する嚥下理学療法のポイントについてまとめていきます。

本記事でわかること

✅ 障害部位によって、摂食嚥下障害の特徴は異なる

✅ 高次脳機能障害も食事に影響する

✅ 運動や感覚の麻痺は、食事の障害になる

脳卒中(麻痺)患者さんの摂食嚥下障害の特徴

脳卒中患者さんの嚥下障害には、延髄の障害による球麻痺(ワレンベルグ症候群など)両側性の上位運動ニューロン障害による偽性球麻痺摂食嚥下に関連する領域の損傷で生じる嚥下障害などがあります。この他にも、姿勢制御機能の低下や高次脳機能障害、不安や抑うつなど精神心理症状などによって二次的に嚥下障害が生じることも少なくありません。

脳卒中患者さんの嚥下障害の有病率は、急性期では30−100%回復期や生活期では5−10%と言われており、急性期を脱すると嚥下障害は自然と軽快することが多いと言われています[1]。

嚥下障害が残存する要因としては、脳卒中による直接的な原因以外に、元々フレイル状態で嚥下機能が低下していたことや、急性期の絶飲食による廃用などがあります。そのため、急性期での適切な介入によって、急性期後の嚥下障害の一部は防ぐことができる可能性があります。

以下に、主な脳卒中後の嚥下障害の原因別の特徴をまとめます。

片側性の大脳病変による嚥下障害

大脳の障害が広範囲に及ぶ場合、脳幹網様体だけでなく脳全体の機能低下が生じる。脳全体の機能低下が生じると、意識障害、口腔、顔面、咽頭、体幹など、摂食嚥下に必要な機能が全般的に低下するため、摂食嚥下障害が生じます。

障害部位が局所的だったとしても、嚥下に関連する領域が障害された場合には、嚥下障害を呈することがあります。例えば、右半球損傷では咽頭反射時間の遅延左半球損傷では口腔期の障害が生じやすいことが報告されています[2]。

また、脳卒中後嚥下障害に関連する領域として島皮質、前頭葉、側頭回、基底核、中心後回、中心前回、楔前部、放線冠が挙げられており、中でも島皮質が最も関与が大きかったと報告されています[3]。これら関連領域が障害された場合には、局所的な病変でも嚥下障害を呈する可能性が高くなります。

偽性球麻痺

偽性球麻痺は延髄の嚥下中枢より上位において、両側の運動ニューロンの損傷で生じます。損傷部位は皮質・皮質下、基底核、中脳・橋などの脳幹病変と様々です。

皮質・皮質下では損傷される脳の部位に応じて失語症や半側空間無視などの高次脳機能障害を伴うことが多く、直接的または間接的に摂食嚥下障害が生じます。

重度の偽性球麻痺では口腔期の障害や重度の構音障害を伴うことが多くあります。嚥下反射は生じにくくなりますが、アイスマッサージやKポイント刺激で嚥下反射を誘発することが可能で、嚥下反射が生じるとパターンは正常です。

また、ゼリーなどを奥舌や咽頭に入れると、嚥下反射はが比較的スムーズに生じる場合も少なくありません。しかし、筋力低下が生じていると、嚥下反射が起こっても食塊は咽頭に残留してしまいます。口腔期が障害されやすく、口唇閉鎖不全や構音障害を伴うこともあります。

球麻痺

球麻痺は延髄の嚥下中枢(疑核、孤束核、Central Pattern Generator:CPG)が障害されることで生じます。嚥下反射がなかなか生じず、嚥下反射が生じても嚥下のパターンが乱れていることが特徴です。

球麻痺の代表的な病態は、Wallenberg症候群(延髄外側症候群)です。咽頭壁や披裂・声帯などの動きに左右差(病巣側の動きが不良)が見られます。

特に食道入口部(輪状咽頭筋)の開大に左右差が生じます。また、唾液が嚥下出来ず常にティッシュなどに喀出している患者さんが多くいらっしゃいます。

 

偽性球麻痺 球麻痺
障害部位 延髄の両側上位運動ニューロン 延髄(疑核、弧束核、CPG)
主な原因 多発性脳卒中 ワレンベルグ症候群など
嚥下反射 起こりにくい。起こればパターンはほぼ正常。 起こらないか、弱くパターンが乱れる。
左右差 無し。 咽頭、喉頭の動きに左右差あり。

特に食塊の咽頭通過に左右差あり。

構音障害 痙性、努力性。 弛緩性、開鼻声。
高次脳機能障害 障害部位によって症状は多彩。 無し。
唾液処理 唾液でむせる。 処理できず、吐き出すことが多い。

 

脳卒中患者の特徴に応じた評価

ここでは、脳卒中患者さんの特徴的な嚥下理学療法に関連する評価に触れていきます。摂食嚥下機能や栄養状態、内服薬などの評価も重要ですが、ここでは割愛いたします。

病変部位の確認

上述しましたように、摂食嚥下に関わる脳領域が明らかになっています。脳画像から、障害されている領域を確認し、どのような症状が生じる可能性があるか仮説を立てます。その仮説を元に、神経学的検査などで障害領域を特定していきます。

意識レベルの確認

意識レベルが低い、もしくは変動がある場合、摂食嚥下機能が保たれていたとしても、適切なタイミングで必要な能力を発揮することが難しくなります。食事の開始から終わりまで覚醒した状態を維持できるか食事に集中していられるかを確認します。覚醒の維持が難しい時には刺激量が多い環境で食事をしてみたり、集中が難しい時にはパーテーションで区切るなど外部刺激を少ない環境にしてみたりと、食事環境を調整して意識レベルが変化するか確認します。

高次脳機能障害の確認

脳卒中患者さんでは、病変部位によって様々な高次脳機能障害が生じます。ここでは摂食嚥下に関連する高次脳機能障害について、大まかに記載します。詳細は成書をご参照下さい。

注意障害:食事中に注意が周辺環境に向いてしまうと、嚥下の際に頭頚部が嚥下に適した位置から逸脱してしまうため、誤嚥の危険性が高くなります。また、食事に集中していることが難しくなると、食事を途中で止めてしまい、結果として食事摂取量が減少して栄養状態が悪化してしまいます。

失行:道具の操作が難しくなると、食事動作を行うことが難しくなります。箸やスプーンを見て、どういう機能を持った道具なのか、食具をどのように使えば良いかを理解し、実際の動作として発現することができるかといったことを確認します。また、口腔運動失行がある場合には、口腔内に食物が入っても咀嚼や送り込みが適切に行えないため、口腔内へのため込みや丸飲みが生じるため、誤嚥の危険性が高くなります。

遂行機能障害:一連の食事動作をどのように行えば良いかがわからなくなります。食事動作が適切に行えないという点で、失行と似た反応を示します。

失認:食物を認識することができないと、食具で食べ物を適切な大きさや形にすることができず、取る際にも適切な持ち方や力加減がわからないため、つかんだりすくったりすることが難しくなります。

運動麻痺の確認

上肢はどの程度動かせるか食事動作や摂食嚥下に合わせて姿勢調節は行えるかを確認します。片側性の運動麻痺が生じると、身体の左右バランスが崩れるため、良姿勢を保持することが難しくなります。

特に、食事動作時には筋緊張異常が生じやすく、姿勢が乱れ、安全な摂食嚥下が難しくなります。例えば、利き手側に痙性麻痺があれば、利き手で食事をしようとすると筋緊張が亢進し、上肢操作が拙劣になるため、食べ物の取り込みが難しくなります。

また、上肢から肩甲骨周囲の筋緊張が亢進することで、摂食嚥下に関連する筋群にも筋緊張亢進が波及するため、摂食嚥下が正常に行えなくなってしまいます。弛緩性麻痺の場合には、食事動作に伴い麻痺側に身体が傾きやすくなるため、食事動作が拙劣になり、不良姿勢のまま咀嚼、嚥下を行うことで誤嚥の危険性も高くなります。

感覚障害の確認

物に触れたり持ったりして、その物体の特徴を捉える感覚はあるか身体を動かす感覚はあるかなどを確認します。表在感覚や深部感覚が障害されると、食具を使うことが難しくなります。

また、食べ物の硬さや重さなどを感じることができないため、口まで運ぶまでに食べ物の特徴を把握することができないため、食べ物の特徴に合わせた食事動作(つかみ方、すくい方、口に運ぶまでの力の加減など)が行えなくなり、食べこぼしが多くなります。

また、こぼさないように慎重に食べ物を扱うため、食事の途中で疲れてしまい、食欲がなくなってしまうこともあります。

運動失調の確認

運動麻痺が明らかでないのに、動作を行う際に筋緊張をコントロールすることができない場合には運動失調を疑います。運動失調があると、安定して食事動作を行うことが難しくなります。

また、体幹の運動失調があれば、姿勢保持も難しくなります。さらに、咀嚼や嚥下に関連する筋群のコントロールも難しくなるため、誤嚥の危険性が高くなります。

体幹機能の確認

座位バランスなどから姿勢調節に必要な体幹機能の確認を行います。体幹機能については以前まとめましたので、そちらをご参照下さい。体幹機能が低下すると、食事動作や摂食嚥下に合わせた姿勢調節が難しくなります。姿勢が乱れた状態では、食べ物を取り込むことが難しくなり、誤嚥の危険性も高くなります。

嚥下関連筋群の機能性の確認

嚥下に関連する頸部周囲の筋の筋緊張や舌骨の位置に異常はないか舌を正常に動かすことができるかを確認します。片麻痺があると、頸部周囲筋の筋緊張の不均衡も生じるため、嚥下に関連する筋を適切に動かすことが難しくなります。

また、頸部周囲筋の筋緊張の不均衡が生じると、舌骨の位置異常も生じます。舌骨の位置異常が生じると、嚥下の際に喉頭挙上が妨げられ、舌の動きも阻害されるため、摂食嚥下機能が低下します。

さらに、顔面神経や舌下神経など口腔顔面の運動に関わる神経が障害されると、咀嚼や舌運動などが障害されます。

呼吸機能の確認

嚥下の際に息を止めておくことができるか咳嗽力は十分あるかを確認します。呼吸機能が低下すると、呼吸と嚥下の協調性が崩れ、嚥下の前後で吸気を行ってしまい、食物が気管に入りやすくなってしまいます。

また、咳嗽力が弱いと、誤嚥してしまった際に誤嚥物を吐き出すことが難しくなります。また、誤嚥をして痰が多くなった際に、痰を喀出することが難しくなるため、肺炎や痰による窒息の危険性も高くなります。

 

おわりに

今回は、脳卒中患者さんの摂食嚥下障害の特徴と評価のポイントをまとめました。基本的には、以前まとめた評価を行った上で、今回紹介したような疾患特異的な評価を行うのが良いと思います。今回まとめたものはあくまで一部でありますので、実際の現場では、患者さん個々に合わせて評価を適宜追加、削減してください。

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参考文献

[1] 日本摂食嚥下リハビリテーション学会. eラーニング資料。

[2] Daniels SK, Foudas AL: The role of the insular cortex in dysphagia. Dysphagia 12: 146-156, 1997.

[3] Jia Qiao, Zhimin Wu. et al. Brain Sci. 2022 Oct 2;12(10):1334.

[4] 吉田剛 他. 理学療法実践レクチャー 栄養・嚥下理学療法. 医歯薬出版株式会社, 2018.