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嚥下理学療法⑯ 脳卒中 ベッド上編

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ポジショニング筋緊張環境調整|2023.6.2|最終更新:2023.6.2|理学療法士が執筆・監修しています

序文

発症直後などでバイタルサインの変動が大きい場合や、耐久性が低く、車椅子に乗車しておくことが難しい場合などには、ベッド上で介助をしてもらって食事をすることも少なくないと思います。

脳血管障害患者さんでは、筋緊張異常から姿勢が崩れやすく、不良姿勢のまま食事介助をされていることも少なくありません。ここでは、脳血管障害患者さんを対象として、ベッド上で食事をする際の介入のポイントをまとめます。今回紹介する内容は、あくまで一部ですので、詳細は成書をご参照ください。

本記事でわかること

✅ 体幹の位置を調整することで、嚥下筋の機能を高める

✅ 頭頸部は摂食嚥下関連筋群の麻痺の状態によって回旋角度を調整する

✅ 下肢の位置も骨盤、体幹を経て嚥下機能に影響する

体幹

 左右いずれかの脳損傷の場合には、四肢や顔面、口腔の筋緊張の左右差が生じます。体幹など中枢の筋は両側支配であるため、著しい麻痺は生じないと言われていますが、実際には筋緊張のコントロールに左右差が生じることがあります。左右差が生じることで、臥位姿勢にも左右差が生じます。また、食事のために背もたれ角度を上げると、支持基底面が狭くなり、身体にかかる重力が垂直方向にシフトしていくため、姿勢保持のための筋活動が生じます。脳血管障害患者さんでは、脳内の姿勢調節に関わる領域やネットワークが障害されていることが多いため、臥位よりも筋緊張異常が生じやすくなります。

 筋緊張の左右差は痙性麻痺、弛緩性麻痺いずれでも問題になることが多いです。痙性麻痺の場合には、麻痺側の筋緊張が高くなることで、身体が麻痺側に傾きやすくなります。また、頭頸部の筋も麻痺側の緊張が高くなることで、摂食嚥下での咀嚼、舌、喉頭、咽頭筋が適切なタイミングで十分な活動を行うことが難しくなり、摂食嚥下能力が低下します。弛緩性麻痺の場合にも麻痺側に身体が傾きやすくなります。痙性麻痺との違いは、非麻痺側の筋緊張が高くなる点です。これは、麻痺側の筋緊張が低いことに対して、非麻痺側で姿勢を調節しようと努力性の活動をするためです。

 痙性麻痺では、麻痺側の筋緊張を抑えるようなポジショニングを行うことが大切です。弛緩性麻痺では、麻痺側に身体が傾かないように支えを作ることが大切です。いずれもタオルやクッションを利用して体幹が正中位で安定するように調整します。この時のポイントは、できるだけ隙間ができないようにすることです。面で支えることで、麻痺側への感覚入力が促され、筋緊張異常が軽減し、姿勢制御が行いやすくなります。

 また、片側の筋緊張異常が生じると、肩甲帯や胸郭の柔軟性に左右差が生じ、体幹の傾きにつながります。肩甲胸郭関節、肩鎖関節、胸鎖関節、胸郭のモビライゼーションや付着する筋のストレッチなどを行い、可動範囲の改善を行います。

頭頚部

 片側性の病変では、上述のように、顔面、口腔、咽頭など摂食嚥下に関わる器官の動きにも左右差が生じます。摂食嚥下に関わる器官に片麻痺が生じることで、摂食嚥下に様々な問題が生じます。例えば、食べ物を口腔内に取り込む際に、片側の口唇閉鎖ができなければ、閉鎖できない側から食べこぼしが生じてしまい、摂取量が減ってしまいます。また、咀嚼筋や舌筋の片側が麻痺すると、非麻痺側でしか食塊形成や送り込みに必要な動きが行えないため、麻痺側に食物が残ってしまいます。残ってしまった食物は、口腔ケアの際に取り除ければ良いですが、そのままにしていると、就寝時に重力によって咽頭やその先まで移動して、誤嚥が生じる危険性が高くなります。さらに咽頭筋群や舌骨筋群に麻痺が生じると、嚥下の際に咽頭に食物が残留してしまい、誤嚥の危険性が高くなります。

 脳の広範囲を障害された場合や脳幹が障害された場合には、全身の筋緊張が亢進してしまい、特に伸展パターンが強くなることがあります。伸展パターンが強い状態では、頭頚部が後屈してしまうため、喉頭挙上が不十分になったり、気道が広がることで、誤嚥の危険性が高くなります。また、不随意運動が多い場合には、クッション等でポジショニングを行っても、同一姿勢を保っておくことが難しくなります。

 頭頚部を正中位に保持する際にも、タオルやクッション等を利用して正中位に誘導します。頭頚部の後屈が強い場合には、タオルやクッション等で枕の高さを調整します。この時、できるだけ下顎と胸骨の間が4横指程度になるように調整します。また、筋緊張が高く柔軟性が低下している筋のストレッチを行い、頭頚部の可動範囲を改善します。さらに、自動介助運動で頭頚部の正常な筋活動を促すことで、自ら頭頚部の位置を制御できるように機能改善を図ります。

 顔面や口腔、舌、咽頭に片麻痺が生じている場合には、非麻痺側で食物の取り込み、咀嚼・食塊形成、移送、嚥下が行えるように、あえて頭頚部を回旋させる対応をすることも有効です。この時のポジショニングのポイントは、非麻痺側に体幹を傾け(半側臥位)、頭頚部を正中に向かって回旋させます。こうすることで、重力で食物が非麻痺側を通過するようになり、麻痺側の咽頭部が頸部回旋によって狭くなるため、誤嚥の危険性が低くなります。最近では「完全側臥位法」という代償方法もあり、重度の嚥下障害を有する患者さんに対しての有効性が報告されています[2]。

下肢

 ベッド上での姿勢調整で忘れられがちなのが、下肢のポジショニングです。頭頚部や体幹、上肢だけでなく、下肢にも筋緊張異常が生じます。筋緊張異常によって下肢のポジションが乱れると、骨盤も傾いてしまい、体幹から頭頚部まで傾きが波及していきます。また、大腿近位部や足底にクッション等を設置して滑り止めを作っておかなければ、背角度を上げて食事をする際に、時間とともに徐々に尾側へずり落ちてしまうため、下肢のポジショニングは重要になります。

 痙性麻痺の場合には、麻痺側の屈曲・内転・内旋が生じやすくなります。体幹や頭頚部と同じように、下肢が正中になるようにタオル等でポジショニングを行います。この時も、できるだけ全面接地するように調整し、感覚入力を増やすことで筋緊張異常の軽減を図ります。また、足底にもクッション等を設置します。尖足予防や背角度を上げた際のずり落ち予防の目的もありますが、足底からの感覚入力という面でも、筋緊張の是正に有用です。筋緊張亢進によって下肢の各関節の可動域に制限が生じている場合には、振動刺激やストレッチも、筋の伸張性や柔軟性の確保に有用です。

 弛緩性麻痺の場合には、麻痺側が外転・外旋位になりやすくなります。ここでも、まずはタオルやクッション等で正中位になるようにポジショニングを行います。また、痙性麻痺と同様に、足底にもクッション等を設置して、感覚入力とずり落ち予防を行います。ポジショニングと並行して、麻痺側下肢の筋収縮を促すために、電気刺激や振動刺激といった物理療法を併用し、股関節や膝関節周囲筋の筋収縮を促すことも有用です。

おわりに

 今回は、ベッド上レベルの患者さんの介入例をまとめました。ベッド上レベルでは、積極的な介入が難しいことが多いため、代償手段を用いての介入が主になってきます。しかし、負荷が上げられそうなタイミングを逃さず、少しずつ抗重力位での活動に移行できるように準備をしておくことも大切です。

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参考文献

[1] 日本摂食嚥下リハビリテーション学会. eラーニング資料。

[2] 工藤浩, 他. 重度嚥下機能障害を有する高齢者診療における完全側臥位法の有用性. 日本老年医学会雑誌 56.1 (2019): 59-66. 

[4] 吉田剛, 他. 理学療法実践レクチャー 栄養・嚥下理学療法. 医歯薬出版株式会社, 2018.