スクワット、関節角度、生体力学|2023.12.8|最終更新:2023.12.8|理学療法士が執筆・監修しています
序文
今回は筋トレの基礎シリーズとして、スクワット動作時の各関節の特徴について見ていきます。基本的な動きについては運動学などで学生時代から勉強はされていると思いますが、各関節への負荷を考慮して指導できているかと言われると、曖昧になっている方もいらっしゃるのではないでしょうか。ここではスクワット動作時の膝関節、足関節、股関節の生体力学的特徴についての論文をまとめていきたいと思います。
膝関節
スクワット動作時の生体力学に関するレビュー論文では、後十字靭帯による後方への剪断力は全ての屈曲角度で低〜中等度に生じ、前十字靭帯による前方への剪断力は屈曲0〜60度で低度に発生することが報告されています。また、膝蓋大腿部の圧縮力と脛骨大腿部の圧縮力および剪断力については、最大屈曲位でピークに達し、伸展すると減少すると報告されています。このことから、リハビリ中の患者には屈曲0-50度でのスクワットが安全を示し、健常者では屈曲0-100度の範囲でのスクワットが膝の損傷なく行えることが示されています[1]。
ディープスクワット時の膝関節への負荷に関するレビュー論文では、膝蓋骨の後方圧縮力は屈曲90度で最大になり、屈曲角度がより大きくなると圧縮力は減少していくことが報告されています。そのため、ディープスクワットが膝蓋大腿部の変性、軟骨軟化症、膝OA、骨軟骨炎のリスクが増加するという根拠はまだ確認されていません。ディープスクワットと同じ負荷であれば、ハーフスクワットでも変性変化は生じることが示唆されています。そのため、専門家の監督の下、漸進的なトレーニング負荷で行い、テクニックを正確に習得できれば、ディープスクワットは怪我の防止と下肢の強化に効果的なトレーニングであると示されています[2]。
男性重量挙げ選手10人を対象とした、スクワット時のスタンスの広さに違いによる生体力学変化に関する調査では、脛骨大腿部と膝蓋大腿部の圧縮力はスタンスが広い方が大きく、0-50度の範囲で膝の負担を最小限にできる角度であることが報告されています[3]。
ウェイトトレーニングを行っている男性7人を対象とした、膝関節の前方移動の制限が関節トルクに与える影響についての調査では、膝関節がつま先よりも前方に移動することを制限してスクワットを行うと、膝関節トルクは減少するが、股関節トルクが大きくなることが報告されています[4]。
以上から、膝関節への負担を考慮すると膝関節に痛みや何かしらの疾患を抱えている場合には0-50度の範囲でのスクワットが安全であり、痛みや障害がなければ100度までなら安全に行えるようです。また、スタンスは広すぎず、膝関節はつま先よりも前に出ないようにするのが良さそうです。
足部・足関節
スクワット初心者21人と経験者21人を対象をとした、足部の角度やスタンスの広さが関節負荷に及ぼす影響に関する調査では、スクワット時の足部の角度が0度-21度-42度と大きくなると、膝関節の内外側変位が大きくなることが報告されています[5]。
健常成人40人を対象とした、足関節背屈可動域が膝関節への負荷に与える影響に関する調査では、荷重時の足関節背屈可動域が大きい人は、膝関節屈曲と足関節背屈の変位が大きく、膝関節の最大屈曲角度や片脚スクワット時の膝関節内反変位が大きくなることが報告されています[6]。
健常成人37人を対象とした、スクワット中の足関節角度が筋活動に与える影響に関する調査では、底屈位だと内側広筋斜走繊維、中間位だと外側広筋、背屈位だと脊柱起立筋の筋活動が、それぞれ高かったことが報告されています[7]。
健常成人11人を対象とした、足関節背屈角度と体幹との関連性に関する調査では、足関節可動域が大きいほど、体幹の屈曲角度が小さく、垂直に近くなることが報告されています[8]。
以上より、スクワット動作時の足部の角度は少なく、背屈角度は大き過ぎないことが膝関節の負担軽減につながる可能性がありそうです。また、足関節の底背屈角度を調整することで、トレーニング部位を変化させることができるようです。
股関節
膝蓋大腿部痛を有する人の股関節の生体力学的特徴を調査した論文12本を含んだメタ解析では、スクワット動作時の股関節内転角度の増大が膝蓋大腿部痛と関連していることが報告されています[9]。
健常成人53人を対象とした、スクワット動作時の生体力学的特徴に関する調査では、スクワット動作時の股関節の関節トルクは屈曲角度と正相関し、足関節背屈角度と逆相関をしていたことが報告されています[10]。
慢性の股関節痛を有する人を対象とした、片脚スクワット中の運動学的特徴についての調査では、慢性股関節痛を有する人は片脚スクワット中に膝内反を示す人が約4割存在し、膝内反を示す人は股関節内転、内旋角度が大きかったことが報告されています[11]。
大腿寛骨臼インピンジメント症候群を有する人を対象とした、スクワット動作時の生体力学的特徴についての調査では、スクワット動作中に患側の骨盤上昇と内転角度が大きかったことが報告されています[12]。
以上より、スクワット動作時には、膝や股関節への負荷の評価として股関節の内転角度の確認が必要そうです。また、股関節の屈曲角度や骨盤の動きにも着目する必要がありそうです。
おわりに
今回はスクワット動作時の各関節の動きと負荷についてまとめました。スクワットは正しく行えば関節への負担を少なくできるので、適切な関節の位置で行えるように指導していくことが大切だと思います。ただ、対象者の方それぞれで関節可動域や筋力、変形の程度などは様々なので、詳細な身体機能評価に基づいて、その方に合った動作を指導していく必要があります。
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