SPPB、身体機能、MDC|2023.11.17|最終更新:2023.12.21|理学療法士が執筆・監修しています
SPPBは汎用性の高い評価バッテリー
前回は30秒椅子立ち上がりテストについてまとめました。今回はShort Physical Performance Battery(SPPB)について見ていきます。SPPBはバランス能力、下肢筋力、歩行能力の3つの要素からなる身体機能全般を評価できるバッテリーです。短時間、省スペースで測定できる評価なので、限られた環境でも使いやすい評価となっています。その数値がどんな意味を持つのかを理解することで、効果的なリハビリテーションを行うことができると思います。
SPPBの関連因子
SPPBは様々な対象者でその有用性が調査されており、種々のアウトカムとの関連性が報告されています。17文献16,534人が含まれたSPPBと全ての原因の死亡率との関連性を調査したメタ解析では、SPPBのスコアが10点未満だと全死因の死亡率が高くなり、この関連性は追跡期間、対象者の特性、地域、年齢に関係なく認められたことが報告されています[1]。44文献22,598人を含んだ心不全患者を対象とした調査では、SPPBのスコアが低いと入院や死亡のリスクが高くなることが報告されています[2]。しかし、この調査では、カットオフ値は明確にはなっていませんでした。地域在住高齢者2192人を対象とした調査では、SPPBを用いたADL障害を予測するモデルは、握力や歩行速度を用いた予測モデルよりもADL障害の予測精度が優れていたことが報告されています[3]。地域在住高齢者417人を対象とした調査では、ベースライン時のSPPBスコアが低いと、追跡期間1年と4年の転倒発生リスクが高いことが報告されています[4]。地域在住高齢者102人を対象とした調査では、SPPBは認知機能と関連していることが報告されています[5]。リハビリテーション病院に入院している脳卒中患者105人を対象とした調査では、SPPBは歩行自立を予測する因子であり、カットオフ値は7点、感度0.69、特異度0.57だったことが報告されています[6]。心臓手術を受けた患者450人を対象とした調査では、術前のSPPBは術後の歩行再獲得日数と関連しており、術後歩行再獲得のカットオフ値は9点(感度: 0.82、特異度: 0.71)だったことが報告されています[7]。
以上のように、SPPBは死亡などの健康アウトカムから転倒や歩行など機能的なアウトカムまで、様々な因子と関連しています。
SPPBの測定方法
準備物
- 椅子
- ストップウォッチ
- 4mの歩行路
測定方法
評価用紙はこちらのリンクをご参照ください。
https://kaatsu.jp/topic/pdf/SPPB.pdf
SPPBのMDC、MCID
地域、高齢者
地域在住高齢者61人を対象とした調査では、対象者全体のSPPBのMDCは0.8点で、認知症のある人のMDCは1.88点だったことが報告されています[8]。
アフリカ系アメリカ人の高齢者52人を対象とした調査では、SPPBのMDCは2.9点だったことが報告されています[9]。
入院中の高齢患者に対しての運動介入の効果を調査したCochraneのシステマティックレビューでは、SPPBのMCIDは1点だったことが報告されています[10]。
心疾患
心臓リハビリテーションを行った75歳以上の患者392人を対象とした調査では、SPPBのMCIDは1点だったことが報告されています[11]。
がん
高齢がんサバイバー47人を対象とした調査では、SPPBのMDCは3点だったことが、報告されています[12]。
おわりに
今回はSPPBについてまとめました。SPPBはサルコペニアやフレイルの診断基準にも含まれており、世界的に共通の評価バッテリーです。包括的に身体機能を評価できるため、臨床でも使いやすい評価方法だと思います。MDCやMCIDについての報告はまだ少ないので、今後研究が進むことを期待しています。
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地域在住高齢者では、70分/回×週2回×16週間の運動介入を行うと、プレフレイルの46%、フレイルの50%がそれぞれロバストやプレフレイルまで改善したそうです。https://t.co/E0fiqzFPr7
— Isao Uno(宇野勲)@リハ栄養学会2023実行委員長 (@isao_reha_nutri) June 2, 2022
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参考文献
[1] Pavasini, et al. Short Physical Performance Battery and all-cause mortality: systematic review and meta-analysis. BMC Med. 2016 Dec 22;14(1):215.
[2] Fuentes-Abolafio, et al. Physical functional performance and prognosis in patients with heart failure: a systematic review and meta-analysis. BMC Cardiovasc Disord. 2020 Dec 9;20(1):512.
[3] Zhang, et al. Novel physical performance-based models for activities of daily living disability prediction among Chinese older community population: a nationally representative survey in China. BMC Geriatr. 2022 Mar 31;22(1):267.
[4] Welch, et al. The Short Physical Performance Battery (SPPB): A Quick and Useful Tool for Fall Risk Stratification Among Older Primary Care Patients. J Am Med Dir Assoc. 2021 Aug;22(8):1646-1651.
[5] Emerenziani, et al. Prediction equation for estimating cognitive function using physical fitness parameters in older adults. PLoS One. 2020 May 7;15(5):e0232894.
[6] Itoh, et al. Gait evaluation in stroke hemiplegic patients using short physical performance battery. J Stroke Cerebrovasc Dis. 2022 Oct;31(10):106704.
[7] Yuguchi, et al. Impact of preoperative frailty on regaining walking ability in patients after cardiac surgery: Multicenter cohort study in Japan. Arch Gerontol Geriatr. 2019 Jul-Aug:83:204-210.
[8] Olsen, et al. “Reliability of the Norwegian version of the short physical performance battery in older people with and without dementia”. BMC Geriatr. 2017 Jun 9;17(1):124.
[9] Mangione, et al. Detectable changes in physical performance measures in elderly African Americans. Phys Ther. 2010 Jun;90(6):921-7.
[10] Hartley, et al. Exercise for acutely hospitalised older medical patients. Cochrane Database Syst Rev. 2022 Nov 10;11(11):CD005955.
[11] Rinaldo, et al. Functional capacity assessment and Minimal Clinically Important Difference in post-acute cardiac patients: the role of Short Physical Performance Battery. Eur J Prev Cardiol. 2022 May 25;29(7):1008-1014.
[12] Blackwood, et al. Physical function measurement in older long-term cancer survivors. J Frailty Sarcopenia Falls. 2021 Sep 1;6(3):139-146.