スクワット、アキレス腱、腰部|2024.2.2|最終更新:2024.2.2|理学療法士が執筆・監修しています
この記事でわかること
- スクワット動作はアキレス腱へも負荷がかかる
- スクワット動作時の腰部への負荷は股関節の影響を受ける
- 腹部の筋活動を促すことで、スクワット動作時の腰部への負荷を減らすことができる
序文
前回は人工股関節置換術後と大腿骨寛骨臼インピンジメントに着目して、スクワットを行う際の注意点や指導内容についてまとめました。今回は、アキレス腱や腰部に着目してまとめます。スクワットは下半身の筋力強化に非常に効果的な運動ですが、正しいフォームで行わないと、アキレス腱や腰部に不必要な負担をかけることがあります。これらの部位の傷害を予防し、より効率良く下肢筋力を強化するために、今回の内容を参考にしてください。
アキレス腱
スクワット動作は膝関節や股関節だけでなく、足関節の運動も伴います。そのため、足関節背屈時にはアキレス腱に負荷がかかります。スクワット動作によってアキレス腱の損傷や術後の再損傷を予防するための対応が必要です。
健常成人20人を対象に、スクワット動作の深さに対するアキレス腱の関与について調査したところ、スクワットの深さは足関節背屈可動域と関連しており、足関節背屈可動域はアキレス腱の硬さと関連していたことが報告されています[1]。
アキレス腱に障害のない成人10人を対象に、スクワット動作時の圧縮やひずみを調査したところ、スクワット動作ではアキレス腱の表層部よりも深部でより大きな圧縮とひずみが生じていたことが報告されています[2]。
アキレス腱障害を有する男性と無症候の男性各12人を対象に、股関節周囲筋の筋力を調査したところ、アキレス腱障害のある人は等尺性股関節外転筋力が28.9%低下、股関節外旋筋力が34.2%低下、股関節伸展筋力が28.3%低下していることが報告されています[3]。
アキレスけん断裂後に修復術を受けた患者67人を対象に、術後に機能的リハビリテーションプロトコル(早期の過重負荷と足関節運動)を行い、スクワットが可能となるまでに期間を調査したところ、スクワット動作が完全にできるようになるまでの期間は10±4.7週間だったことが報告されています[4]。
健常成人18人を対象に、スクワットを含む複数の運動時のアキレス腱への負荷を調査したところ、スクワットはアキレス腱への負荷が少なく、足関節背屈を促せる荷重負荷運動であったことが報告されています[5]。
バスケットボール選手12人を対象に、スクワット運動を行った後のアキレス腱の厚さ、談良性、剛性について調査したところ、1RMの60%-100%までの負荷のスクワットを1回行うと、アキレス腱の剛性が高まり、アキレス腱の厚さと弾力性が低下することが報告されています[6]。
健常成人20人を対象に、7回×4セット×週2回×6週間の遠心性スクワットトレーニングがアキレス腱の形態に与える効果を調査したところ、遠心性スクワットトレーニング後、アキレス腱の断面積とペネーション角度が増加することが報告されています[7]。
以上より、アキレス腱への負荷を考慮してスクワットを行う際には、以下のことに配慮することが大切です。
- スクワットを行う際には、アキレス腱の柔軟性を高め、足関節背屈可動域を確保しておく。
- アキレス腱の深部で圧縮やひずみが生じるため、過負荷に注意し段階的に負荷や回数を増やしていく。
- アキレス腱障害のある人は股関節周囲筋筋力が低下しているため、アキレス腱への負荷が少ないスクワットによる股関節周囲筋力強化は有用。
- アキレス腱修復術後患者では、スクワット動作ができるまで10週間程度かかるため、スクワットを再開するタイミングに注意する。
- アキレス腱に問題が無ければ、適度な負荷のスクワットや遠心性スクワットはアキレス腱の形態を改善させるのに有効。
腰部
スクワット動作では、腰椎・骨盤を後弯させたり、腰椎を過度に前弯させたりと、腰椎への負荷が増加するフォームで行う人は少なくありません。スクワット動作時の腰椎への負荷は、腹部や股関節の筋力や可動性も影響します。腰椎の負荷を増加させる因子をできるだけ減らし、減少させる因子を増やすことが大切です。
健常成人女性27人を対象に、スクワット動作中の股関節伸展筋力、腰椎伸展筋力、腰椎伸展モーメントの関連性を調査したところ、股関節伸展筋力はスクワット動作中の平均腰椎伸展モーメントと正の相関があり、脊柱起立筋の活動とは負の相関があったことが報告されています[8]。
健常成人50人を対象に、スクワット動作中の股関節可動域、腰椎伸展筋力、腰椎屈曲角度の関連性を調査したところ、女性被験者ではスクワット動作中の股関節屈曲可動域と腰椎伸展筋力が低いと、腰椎屈曲角度が増加することが報告されています[9]。
健常成人13人を対象に、スクワット動作中の椎間板への負荷を調査したところ、スクワット動作はL4/5、L5/S1の椎間板に大きな負荷を与えており、腰椎前弯と骨盤前傾角が小さいことが関係している可能性があることが報告されています[10]。
健常成人男性12人を対象に、スクワット動作中の腰椎伸展モーメントに影響する因子を調査したところ、スクワット動作の速度が速くなるほど、重量負荷が重くなるほど、腰椎伸展モーメントが増加することが報告されています[11]。
健常成人30人を対象に、スクワット動作のスタンスの違いが腰椎や仙骨に与える影響を調査したところ、スクワットのスタンス幅を広くすると腰椎屈曲角度が減少し、狭いと腰椎屈曲角度が増加することが報告されています[12]。
重量挙げ選手23人を対象に、スクワット動作中の脊柱アライメントの変化を調査したところ、スクワット動作中に腰椎の弯曲を調整することで腰椎への負担を調整していることが報告されています[13]。
腰痛患者21人、非腰痛患者20人を対象に、腰痛の有無がスクワット動作に与える影響を調査したところ、腰痛患者は非腰痛患者よりも重量物を持ってのスクワット動作の速度が遅いが、運動学的な差は認められなかったことが報告されています[14]。
腰痛患者8人、健常成人11人を対象に、スクワット動作時の下肢の各関節の運動学的な差を調査したところ、腰痛患者は、健常者よりもスクワット動作時に股関節と膝関節の動きが大きかったことが報告されています[15]。
健常成人30人を対象に、30分×週3回×6週間のウォールスクワットによる腹部深層筋の厚みと腰部の安定性への効果を調査したところ、ウォールスクワットは腹横筋、内腹斜筋の筋厚を増加させることが報告されています[16]。
健常成人26人を対象に、スクワット動作の前に腹部収縮を行うことの効果を調査したところ、スクワット動作時に先行して腹部収縮を行うと、腰椎の安定性が向上し、腰椎の負荷が減少することが報告されています[17]。
非特異的腰痛患者25人を対象に、週2回×16週間のスクワットを含む運動プログラムの効果を調査したところ、痛み、痛みに関連した障害、痛みの自己効力感、筋力が改善したことが報告されています[18]。
慢性腰痛患者47人を対象に、1日2回×週7回×8週間の吸気筋トレーニングの効果を調査したところ、スクワット動作中の姿勢動揺と痛みが減少することが報告されています[19]。
以上より、腰部への負担を考慮してスクワットを行う際には、以下の点に注意することが大切です。
- スクワットを行う際には、股関節伸展筋力や股関節屈曲可動域を向上させ、腰椎への負担を軽減させる。
- 脊椎の可動性を改善させ、スクワット動作時の脊椎アライメントを調整できるようにすることで、腰椎や椎間板、下肢の各関節への負担を軽減させる。
- ウォールスクワットや腹部の先行収縮を併用することで、スクワット動作時の腹筋群の活動を促し、腰部の安定性を向上させる。
- スクワットを含む運動プログラムや吸気筋トレーニングを一定期間に行うことで、腰痛の軽減を行う。
おわりに
今回はアキレス腱と腰部に着目して、スクワット動作の注意点や指導内容についてまとめました。スクワットは股関節や膝関節の運動と捉えられることが少なくありませんが、その近接部位であるアキレス腱や腰部への負荷も考慮することが大切です。
参考文献
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執筆│宇野 編集│てろろぐ 監修│幸
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