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筋トレの基礎 スクワット⑪ 脳卒中、パーキンソン病

スクワット、脳卒中、パーキンソン病|2024.2.16|最終更新:2024.2.16|理学療法士が執筆・監修しています

この記事でわかること
  • 脳卒中患者では麻痺の影響で左右不均衡が生じる
  • 足部の位置を調整することで、筋活動や荷重分布を調整することができる
  • パーキンソン病患者では外部刺激により、運動効果を高めることができる
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序文

前回は骨粗鬆症や骨折に着目して、スクワット運動の注意点や指導内容についてまとめました。今回は脳卒中やパーキンソン病の患者さんに着目してまとめていきます。脳卒中患者さんでは片麻痺による運動機能の左右不均衡や感覚障害による姿勢制御の低下などの問題が存在し、パーキンソン病患者さんでは筋強剛、動作緩慢さ、姿勢制御障害といった問題が生じます。スクワットやスクワットに類似した立ち座り運動は筋力向上だけでなく、荷重分布や姿勢制御などの改善にも有効な可能性が示されています。今回も先行研究を参照し、注意点や指導内容について見ていきます。

脳卒中

スクワットや立ち座り運動は、脳卒中患者の下肢筋力強化やバランス能力を強化することで、移動能力の向上や転倒予防に役立ちます。しかし、脳卒中患者では片麻痺によって機能に左右差が生じているため、効果的に行うためには工夫が必要です。

脳卒中患者15人と健常者15人を対象に、スクワット動作時の下肢筋活動を調査したところ、脳卒中患者ではスクワット下降期の前脛骨筋活動が高く上昇期の腓腹筋活動が低かったことが報告されています[1]。

脳卒中患者17人と健常者17人を対象に、速い速度でスクワットを行ったときの運動学的特徴を調査したところ、脳卒中患者では対照群よりも動作速度と加速度が低く、非対称性で、麻痺が重度だと麻痺側の筋活動低く、麻痺が軽度だと麻痺側の筋活動が高く、膝関節の動きのタイミングと圧中心の偏位がズレることが報告されています[2]。

脳卒中患者17人を対象に、健側下肢を膝の高さの25%まで上げた状態でスクワットを行った際の筋活動を調査したところ、両足を平行にした状態よりも、健側下肢を上げて行うスクワット運動の方が、大腿直筋、内側斜筋、外側広筋の活動量が高かったことが報告されています[3]。

脳卒中患者18人と健常者15人を対象に、立ち座り動作中の足部の位置が圧中心の偏位や安定性に与える影響を調査したところ、脳卒中患者では麻痺側を後ろに引いて立ち座り動作を行うと左右非対称性は軽減するが、安定性は足部の位置を修正しても健常者より低いことが報告されています[4]。

脳卒中患者19人と健常者15人を対象に、立ち座り動作時の荷重分布の認識と下肢筋力の違いを調査したところ、片麻痺患者の方が立ち座り動作時の荷重非対称性が大きくなっていましたが、認識されておらず、荷重非対称性は下肢筋力と関連していたことが報告されています[5]。

脳卒中患者12人を対象に、立ち座り動作時の下肢モーメントを調査したところ、立ち座り動作中の膝伸展モーメントは麻痺側の方が低くなっていたが、股関節のモーメントに左右差はなかったことが報告されています[6]。

脳卒中患者36人を対象に、立ち座り動作時の足部の位置と筋活動の関連性を調査したところ、非麻痺側を側方に位置させる条件で筋活性化、ピークおよび平均垂直地面反力、下肢の荷重支持対称率が大幅に増加したことが報告されています[7]。

脳卒中患者50人を対象に、麻痺側下肢を後方に置くように調整された立ち座りトレーニングを30分×週5回×4週間行い、荷重分布やバランス能力に与える効果を調査したところ、実験群は対照群よりも立ち上がり時間、荷重非対称性、圧中心の動揺、BBSが改善したことが報告されています[8]。

脳卒中患者32人を対象に、30分×週3回×4週間の理学療法に加えて毎回15分間の立ち座りトレーニング行った際の身体機能への効果を調査したところ、介入群では前方の姿勢制御、股関節伸展筋力、立位の荷重分布が改善したことが報告されています[9]。

脳卒中患者40人を対象に、15分×週5回×6週間の立ち座りトレーニングに腓骨神経に対する 30分間のTENSを追加して行った際の効果を調査したところ、介入群では痙縮や姿勢動揺が改善し、股関節伸展筋力が向上したことが報告されています[10]。

脳卒中患者10人を対象に、2秒かけて行う速いスクワットと8秒かけて行う遅いスクワットが筋活動に与える影響を調査したところ、速いスクワットの方が麻痺側大腿直筋の筋活動が高いことが報告されています[11]。

脳卒中患者32人と健常者32人を対象に、速度を速めたスクワットが筋活動に与える効果を調査したところ、脳卒中患者では速い速度のスクワットは前脛骨筋、大腿二頭筋、大腿直筋の筋活動を活性化させることが報告されています[12]。

脳卒中患者15人を対象に、地面の傾斜がスクワット運動中の筋活動に与える影響を調査したところ、底屈15度が最も外側広筋と腓腹筋外側頭の筋活動が高かったことが報告されています[13]。

以上のことから、脳卒中患者に対してスクワットや立ち座り運動を指導する際には、以下のことに留意することが大切です。

  • 動作中の足部の位置を後方や側方に位置させたり、挙上させたりすることで、荷重分布の非対称性や弱化した筋の筋活動の改善を図る。
  • 姿勢制御や筋活動の改善のために、定期的なスクワットや立ち座りトレーニングを行う。
  • 痙縮、筋力、姿勢制御の改善のために、TENSを追加して行う。
  • スクワット動作時の下肢筋活動活性化のために、速度を速めたり地面の傾斜を底屈位にしたりする。

パーキンソン病(PD)

スクワットや立ち座り運動は、パーキンソン病患者においても筋力やバランス能力の向上に有効です。これらの能力の向上はパーキンソン病の運動症状やADL、転倒予防に寄与します。パーキンソン病では筋強剛や動作緩慢さ、姿勢反射障害が運動を効果的に行うことを阻害する可能性があるため、患者個々の症状に合わせて方法を工夫することが大切です。

高齢PD患者24人と健常者12人を対象に、運動中の血圧変動を調査したところ、PD患者では深いスクワットを行うと収縮期血圧が10-50mmHg上昇することが報告されています[14]。

PD患者90人と健常者52人を対象に、立ち座り動作と筋力との関連性を調査したところ、PD患者で立ち座り動作に異常がある(MDS-UPDRS-III の項目3.9が2点以上)人は、異常がない人と比較して股関節周囲筋の筋力が低下していることが報告されています[15]。

PD患者9人と健常者9人を対象に、立ち座り動作の姿勢制御の違いを調査したところ、PD患者では健常者よりも立ち座り動作に時間を要しており、圧中心の前後内外測への偏位が大きく、二重課題下ではより増大することが報告されています[16]。

PD患者7人と健常者6人を対象に、立ち座り動作時の運動学的特徴を調査したところ、PD患者では立ち座り動作の股関節屈曲トルクが小さく、トルクの増加速度が遅かったことが報告されています[17]。

PD患者20人と健常者20人を対象に、立ち座り動作の速度の変化を調査したところ、PD患者では股関節と足関節のピークトルクまでの時間が延長し、屈曲から伸展への移行時間が長く、運動の切り替えに困難さを抱えていたことが報告されています[18]。

PD患者20人と健常者20人を対象に、PD患者が立ち座り動作の速度修正を行えるかを調査したところ、PD患者では自然速度の立ち座り動作は健常者よりも遅かったが、速く行うように指示するとトルク生成速度を健常者と同程度まで向上させることができたことが報告されています[19]。

PD患者39人を対象に、不安定条件(BOSU®デバイス)でのハーフスクワット運動を週2回×12週間行った際の効果を調査したところ、TUG、UPDRS-IIIスコア、MoCAスコア、PDQ-39スコアが改善したことが報告されています[20]。

フレイル状態のPD患者8人と非PD患者8人を対象に、HAL装着状態でスクワットと体幹運動を20-30分×週5回行った際の効果を調査したところ、PDの有無に関わらず10m歩行時間、歩幅、TUG、30秒椅子立ち上がりテストが改善することが報告されています[21]。

中等度PD患者8人と健常者8人を対象に、動作観察、運動イメージ、模倣それぞれの条件でwii fit上でのスクワットトレーニングを40分×週3回×6週間行った際の効果を調査したところ、PD患者は動作観察で大腿四頭筋、運動イメージでヒラメ筋の運動誘発電位が増加し、模倣では大腿四頭筋とヒラメ筋の運動誘発電位が減少したことが報告されています[22]。

以上より、PD患者にスクワットや立ち座り運動を指導する際には、以下のことに留意する必要があります。

  • PD患者は深いスクワットを行うと収縮期血圧が大きく上昇する傾向があるため、血圧変動をモニタリングし、必要に応じて運動の深さを調整する。
  • PD患者はバランスや動作の安定性に問題を持つことが多いので、スクワットの動作速度を適切に調整し、安定性を高めるためのサポートを使用する。
  • PD患者は動作の切り替えに困難を抱えるため、スムーズな動作の遷移を促すための指導を行う。
  • 速度を速める促し、不安定板、HAL、視覚情報など、外部刺激介入によって動作や筋活動が変化するため、外部刺激を活用する。

おわりに

今回は脳卒中とパーキンソン病に着目してまとめました。スクワットや立ち座り運動は運動器だけでなく、神経系の疾患を有する患者さんに対しても有効な運動です。しかし、麻痺症状やパーキンソニズムなどによって、通常通りの方法では効果的な運動は難しいこともあります。動作を行う際の姿勢やデバイスの利用など、工夫して行うことで、効果を高めることができるので、患者さん個々の病態を理解し、病態に合わせた方法で行うことが大切です。

参考文献

[1] Lee, et al. Comparison of the electromyographic activity of the tibialis anterior and gastrocnemius in stroke patients and healthy subjects during squat exercise. J Phys Ther Sci. 2015 Jan;27(1):247-9.

[2] Gray, et al. Control of fast squatting movements after stroke. Clin Neurophysiol. 2012 Feb;123(2):344-50.

[3] Lee, et al. Effects of lifting the non-paretic foot on muscle activity during the semi-squat exercise in hemiplegic patients. J Phys Ther Sci. 2015 Jun;27(6):1869-70.

[4] Duclos, et al. Lateral trunk displacement and stability during sit-to-stand transfer in relation to foot placement in patients with hemiparesis. Neurorehabil Neural Repair. 2008 Nov-Dec;22(6):715-22.

[5] Brière, et al. Perception of weight-bearing distribution during sit-to-stand tasks in hemiparetic and healthy individuals. Stroke. 2010 Aug;41(8):1704-8.

[6] Roy, et al. Side difference in the hip and knee joint moments during sit-to-stand and stand-to-sit tasks in individuals with hemiparesis. Clin Biomech (Bristol, Avon). 2007 Aug;22(7):795-804.

[7] Noh, et al. Changes in Muscle Activation and Ground Reaction Force of the Lower Limbs According to Foot Placement During Sit-to-Stand Training in Stroke Patients. Am J Phys Med Rehabil. 2020 Apr;99(4):330-337.

[8] Liu, et al. Effects of modified sit-to-stand training on balance control in hemiplegic stroke patients: a randomized controlled trial. Clin Rehabil. 2016 Jul;30(7):627-36.

[9] Tung, et al. Balance outcomes after additional sit-to-stand training in subjects with stroke: a randomized controlled trial. Clin Rehabil. 2010 Jun;24(6):533-42.

[10] Jung, et al. Effects of sit-to-stand training combined with transcutaneous electrical stimulation on spasticity, muscle strength and balance ability in patients with stroke: A randomized controlled study. Gait Posture. 2017 May:54:183-187.

[11] Choi, et al. Effects of fast and slow squat exercises on the muscle activity of the paretic lower extremity in patients with chronic stroke. J Phys Ther Sci. 2015 Aug;27(8):2597-9.

[12] Gray, et al. Effects of fast functional exercise on muscle activity after stroke. Neurorehabil Neural Repair. 2012 Oct;26(8):968-75.

[13] Ki, et al. The effect of ground tilt on the lower extremity muscle activity of stroke patients performing squat exercises. J Phys Ther Sci. 2014 Jul;26(7):965-8.

[14] Niewiadomski, et al. Exaggerated pressor response to static squats in Parkinson’s disease (PD) and healthy subjects is likely an individual trait, not influenced by whole body vibration (WBV). NeuroRehabilitation. 2023;52(2):289-298.

[15] Baizabal-Carvallo, et al. The Role of Muscle Strength in the Sit-to-Stand Task in Parkinson’s Disease. Parkinsons Dis. 2023 Oct 23:2023:5016802.

[16] Fernandes, et al. Influence of dual-task on sit-to-stand-to-sit postural control in Parkinson’s disease. Med Eng Phys. 2015 Nov;37(11):1070-5.

[17] Mak, et al. Joint torques during sit-to-stand in healthy subjects and people with Parkinson’s disease. Clin Biomech (Bristol, Avon). 2003 Mar;18(3):197-206.

[18] Mak, et al. Switching of movement direction is central to parkinsonian bradykinesia in sit-to-stand. Mov Disord. 2002 Nov;17(6):1188-95.

[19] Mak, et al. The speed of sit-to-stand can be modulated in Parkinson’s disease. Clin Neurophysiol. 2005 Apr;116(4):780-9.

[20] Silva-Batista, et al. Resistance Training with Instability for Patients with Parkinson’s Disease. Med Sci Sports Exerc. 2016 Sep;48(9):1678-87.

[21] Kotani, et al. Biofeedback Core Exercise Using Hybrid Assistive Limb for Physical Frailty Patients With or Without Parkinson’s Disease. Front Neurol. 2020 Apr 9:11:215.

[22] Esculier, et al. Corticomotor excitability in Parkinson’s disease during observation, imagery and imitation of action: effects of rehabilitation using wii fit and comparison to healthy controls. J Parkinsons Dis. 2014;4(1):67-75.

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執筆│宇野  編集│てろろぐ 監修│

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