理学療法で用いる評価の方法と結果の妥当性　筋力②　膝関節伸展筋力

膝伸展筋力、筋力、MDC |2023.10.27|最終更新:2023.10.27|理学療法士が執筆・監修しています

膝関節伸展筋力評価について理解する

　前回は握力について、測定方法とMDC、MCIDについてまとめました。今回は、膝伸展筋力（大腿四頭筋筋力含む）についてみていきます。膝伸展筋力は下肢筋力の指標として用いられることが多く、ハンドヘルドダイナモメーターを使えば簡単に測定することができます。地域から急性期まで様々な領域で用いられている指標ですが、平均値やカットオフ値だけでなく、どれくらい改善したかについても検討できるようにしていくことが大切です。

本記事でわかること

✅　膝伸展筋力は様々なアウトカムの予測因子

✅　持ち運び可能な小型の機器で測定できる

✅　よく使われている指標の割には、MDCの調査は意外と多くない

膝伸展筋力の関連因子

　膝伸展筋力は下肢筋力の代表的な指標として用いられることが多く、様々な予後との関連が報告されています。地域在住高齢者2149人を対象とした調査では、大腿四頭筋筋力のカットオフ値は男性18kg、女性16kgで、カットオフ値以上のグループと比較して体組成、身体機能、ADL、セルフケア能力、身体活動のスコアが不良だったことが報告されています[1]。自立している地域在住高齢者を対象とした調査では、サルコペニアのカットオフ値は男性56.1kg、女性38.1kgだったことが報告されています[2]。慢性期の脳卒中患者60人を対象とした調査では、歩行自立のカットオフ値は麻痺側で0.46Nm/kg（感度83%、特異度67%）、非麻痺側で0.65Nm/kg（感度89％、特異度55％）だったことが報告されています[3]。介護施設に入所している高齢者204人を対象とした調査では、追跡期間1年のADL低下を予測するカットオフ値は1.07N/kgだったことが報告されています[4]。入院中の高齢心疾患患者251人を対象とした調査では、GNRIで評価した栄養障害リスクの有無を判別する視座伸展筋力のカットオフ値は体重比46.1%だったことが報告されています[5]。国民健康栄養調査に登録されている中高年者2768人を対象とした調査では、平均追跡期間9.9年の全死因の死亡リスクに対して、膝伸展筋力が15N増加するごとに死亡リスクが7％減少することが報告されています[6]。

　以上より、膝伸展筋力は身体機能だけでなく、栄養状態や死亡率といったアウトカムとも関連していることが明らかになっています。

膝伸展筋力の測定方法：ハンドヘルドダイナモメーター（HHD）

準備物

ハンドヘルドダイナモメーター（HHD）
昇降ベッドまたは足部が浮いた状態で座れる高さの椅子

測定方法[7]

被験者は足部が床に触れない高さのベッドまたは椅子に座る。
膝関節が90度になるように、タオルなどで大腿部の高さを調節する。
検査者はHHDを下腿遠位に垂直になるように当て、ベッドまたは椅子の足にベルトで固定する。
ベルトが床と平行になるように位置を調整する。
被験者は最大限の力で5秒間膝を伸展する。
左右2-3回測定し、最大値を採用する。

注意点

使用する機器によって、測定方法、条件が異なる点があるので、使用機器のマニュアルを確認するようにしましょう。

膝伸展筋力のMDC

運動器疾患

　人工膝関節全置換術を受けた患者45人を対象とした調査では、膝伸展筋力のMDCは16.54〜17.01Nmだったことが報告されています[8]。

　人工膝関節再置換術を受けた患者42人を対象とした調査では、膝伸展筋力のMDCは28.65Nm～33.09Nmだったことが報告されています[9]。

　変形性膝関節症患者20人を対象とした調査では、膝伸展筋力のMDCは25.02Nmだったことが報告されています[10]。

呼吸器疾患

　重度から最重度のCOPD患者24人を対象とした調査では、随意的な膝伸展筋力のMDCは3.9kgだったことが報告されています[11]。

腎疾患

　ステージ3b～5の慢性腎臓病（CKD）患者41人を対象とした調査では、膝伸展筋力の推定1RMのMDCは6.3kgだったことが報告されています[12]。

おわりに

　今回は膝伸展筋力の測定方法とMDCについてまとめました。膝伸展筋力はよく用いられる指標の割には、MDCに関する調査はあまり多くはなく、限られた疾患や病期の対象者の数値しか報告されていませんでした。カットオフ値を示すことは重要なことですが、どれくらい改善したら良いのかについても、今後多くの対象者の方について明らかになっていくことを期待しています。

本記事の執筆・監修・編集者

✅記事執筆者（宇野先生）のTwitterはこちら↓↓

昨晩の摂食嚥下の多職種の勉強会。
自分の思考の浅さを痛感しました💦
やはり、多職種が参加する場で学ぶことって重要ですね。
ちなみに、来年7月6-7日に開催される栄養嚥下理学療法学会学術集会は多職種の先生方にご講演いただく予定なので、多くの学びを得られると思います！#JSNSPT2024 pic.twitter.com/PTc1l2ioVJ

— Isao Uno（宇野勲）/第10回栄養嚥下理学療法学会学術大会準備委員長 (@isao_reha_nutri) October 25, 2023

✅記事監修（幸）✅編集（てろろぐ）

あなたにおすすめの記事

生活期を支える　社会的フレイル⑩　排尿障害

生活期を支える　社会的フレイル⑧　パーキンソン病

生活期を支える　社会的フレイル⑦　大腿骨近位部骨折

生活期を支える　社会的フレイル③　脳卒中

筋トレの基礎　スクワット⑫　心血管系、呼吸器系

筋トレの基礎　スクワット⑪　脳卒中、パーキンソン病

筋トレの基礎　スクワット⑩　骨粗鬆症、骨折

筋トレの基礎　スクワット⑨　アキレス腱、腰部

筋トレの基礎　スクワット⑧　人工股関節全置換術、大腿骨寛骨臼インピンジメント

筋トレの基礎　スクワット⑦　膝蓋腱、半月板、腸脛靭帯

筋トレの基礎　スクワット⑥　前十字靭帯、膝蓋大腿関節

筋トレの基礎　スクワット⑤　変形性膝関節症、人工膝関節置換術後

筋トレの基礎　スクワット④　障害予防、身体機能

筋トレの基礎　スクワット③　筋活動（殿筋、下腿三頭筋）

筋トレの基礎　スクワット②　筋活動（大腿四頭筋、ハムストリングス）

筋トレの基礎　スクワット①　関節角度と負荷

理学療法で用いる評価の方法と結果の妥当性　関節可動域②　肘関節

理学療法で用いる評価の方法と結果の妥当性　関節可動域①　肩関節

理学療法で用いる評価の方法と結果の妥当性　SPPB（バランス・筋力・歩行）

理学療法で用いる評価の方法と結果の妥当性　筋力④　30秒椅子立ち上がりテスト

参考文献

[1] Assantachai, et al. Cut-off points of quadriceps strength, declines and relationships of sarcopenia-related variables among Thai community-dwelling older adults. Geriatr Gerontol Int. 2014 Feb;14 Suppl 1:61-8.

[2] Abdalla, et al. Cut-off points of knee extension strength allometrically adjusted to identify sarcopenia risk in older adults: A cross-sectional study. Arch Gerontol Geriatr. 2020 Jul-Aug;89:104100.

[3] Akazawa, et al. Determining the cut-off value for knee extensor strength for identifying independence in gait in chronic stroke survivors. J Rehabil Med. 2017 Nov 21;49(9):765-767.

[4] Buckinx, et al. Normative data for isometric strength of 8 different muscle groups and their usefulness as a predictor of loss of autonomy among physically active nursing home residents: the SENIOR cohort. J Musculoskelet Neuronal Interact. 2019 Sep 1;19(3):258-265.

[5] Izawa, et al. Relationship of thresholds of physical performance to nutritional status in older hospitalized male cardiac patients. Geriatr Gerontol Int. 2015 Feb;15(2):189-95.

[6] Loprinzi, et al. Lower extremity muscular strength, sedentary behavior, and mortality. Age (Dordr). 2016 Apr;38(2):32.

[7] アニマ株式会社. 筋力の測定方法: https://anima.jp/products/f1video/

[8] Eymir, et al. Hand-Held Dynamometry in the Inpatient Care Setting After Total Knee Arthroplasty: Reliability of Static Knee Strength Measurements. Am J Phys Med Rehabil. 2021 Jun 1;100(6):570-575.

[9] Eymir, et al. Reliability, Concurrent Validity, and Minimal Detectable Change of the Hand-Held Dynamometry for the Assessment of Knee Muscle Strength in Patients With Revision Total Knee Arthroplasty. Arch Phys Med Rehabil. 2023 May 30;S0003-9993(23)00335-0.

[10] Kean, et al. Minimal detectable change in quadriceps strength and voluntary muscle activation in patients with knee osteoarthritis. Arch Phys Med Rehabil. 2010 Sep;91(9):1447-51.

[11] Nyberg, et al. Test-re-test reliability of quadriceps muscle strength measures in people with more severe chronic obstructive pulmonary disease. J Rehabil Med. 2018 Aug 22;50(8):759-764.

[12] Wilkinson, et al. Test-retest reliability, validation, and “minimal detectable change” scores for frequently reported tests of objective physical function in patients with non-dialysis chronic kidney disease. Physiother Theory Pract. 2019 Jun;35(6):565-576.