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サルコペニア、評価、栄養不良|2022.11.25|最終更新:2022.11.25|理学療法士が執筆・監修しています
サルコペニアの評価・分類
前回までは低栄養の評価についてみてきました。今回からはサルコペニアについて、評価や分類についてみていきたいと思います。
✅ サルコペニアは筋肉量と筋力または身体機能が低下した状態 ✅ サルコペニアは特殊な機器を用いなくても評価できる ✅ サルコペニアの原因は加齢、活動、疾患、栄養 |
サルコペニアとは-語源と今まで-
サルコペニアとは、1988年にRosenbergという人物がギリシャ語で筋肉を意味する「sarx」と喪失や減少を意味する「penia」を組み合わせて作った造語です。
サルコペニアは元々は筋肉が減少した状態のみを表す状態でしたが、徐々に筋力や身体機能の重要性も議論されるようになり、2010年にヨーロッパのワーキンググループであるEWGSOPから初めて提唱されたサルコペニアの診断基準には、筋肉量減少に加えて筋力や身体機能の低下が含まれました。
その後も世界各国でサルコペニアに関する研究が進み、現在ではEWGSOP2という欧米を中心とした診断基準と、AWGS2019というアジア人を対象とした診断基準が国際基準として広く用いられています。
サルコペニアの診断基準が定まったことで研究はさらに加速し、2016年には国際疾病分類(ICD-10)に1つの病名としてサルコペニアが登録されました。2017年には「サルコペニア診療ガイドライン」(概説はこちら)が発刊され、サルコペニアの予防、改善についてのエビデンスが蓄積されています。
サルコペニアの診断・評価方法
AWGS2019とは
先ほど、サルコペニアの診断基準にはEWGSOP2とAWGS2019があると記載しました。ここでは、日本で用いられるAWGS2019について紹介していきます。
AWGS2019は、
〇「一般の診療所や地域での評価」
〇「装備の整った種々の医療施設や研究を目的とした評価」
の2つのフローチャートが設けられています[1]。
なぜこのように分けて評価が考えられているのでしょうか。
診療所や地域での評価が必要な理由・方法
その理由は、一般の診療所や地域では、筋肉量を測定するために機器を用いることができないことが多いためです。
AWGS2019以前の基準では、筋肉量を測定には生体インピーダンス(BIA)や二重エネルギー X 線吸収法(DXA)、CTやMRIを用いた画像からの測定が推奨されていました。
しかし、それぞれの機器は高額で、持ち運びができなかったり測定に時間がかかったりと、現場で利用するのが難しい場合が多いという課題があり、サルコペニアの診療や予防活動を現場で行う弊害になることが少なくありませんでした。
そこで、AWGS2019では、筋肉量の測定は下腿周径でも可能となり、その他の測定項目も質問紙や握力、椅子立ち上がりテストといった最小限の道具のみで場所も選ばずに測定可能な基準が設けられました。
特別な機器を用いない基準で測定した場合には「サルコペニアの可能性あり」という診断にはなりますが、この状態からサルコペニアに対する介入を開始することが推奨されています。
医療施設や研究目的の評価理由・方法
一方、装備の整った種々の医療施設や研究を目的とした評価は、設備が整っていることが前提となるため、詳細な測定が行われます。
まずスクリーニングでサルコペニアに関連する可能性が高い疾患や状態を有しているか、SARC-FやSARC-CalFといった質問紙、下腿周径のいずれかのカットオフ値を下回った場合にアセスメントに進みます。
アセスメントでは、
・筋力(握力)
・身体機能
(6m歩行速度、5回椅子立ち上がりテスト、SPPB)
・筋肉量(BIA、DXA)
をそれぞれ評価し、筋肉量減少と筋力低下または身体機能低下があれば「サルコペニア」、全ての測定項目に当てはまった場合には「重症サルコペニア」となります。
一般診療所、地域
症例の抽出
|
下腿周囲長 男性<34㎝、女性<33㎝SARC-F≧4点SARC-CalF≧11点 |
評価 | 筋力(握力) 男性<28㎏、女性<18㎏or身体機能 5回椅子立ち上がりテスト ≧12秒 |
医療施設、研究
症例の抽出
|
身体機能低下または制限
意図しない体重減少 抑うつや認知機能障害 繰り返す転倒 栄養障害 慢性疾患 下腿周囲長 SARC-F≧4点 SARC-CalF≧11点 |
筋力 | 筋力(握力) 男性<28㎏、女性<18㎏ |
身体機能 | 5回椅子立ち上がりテスト ≧12秒6m歩行速度<1m/秒SPPB≦9点 |
筋肉量 | BIA 男性<7.0kg/m2 女性<5.7kg/m2DXA 男性<7.0kg/m2 女性<5.4kg/m2 |
SARC-F [2]
4.5kgの荷物の持ち運びはどの程度困難ですか? | 全く困難でない=0点
いくらか困難=1点 非常に困難またはできない=0点 |
部屋の隅から隅までの歩行移動はどの程度困難ですか? | 全く困難でない=0点
いくらか困難=1点 非常に困難またはできない=0点 |
椅子やベッドからの移動はどの程度困難ですか? | 全く困難でない=0点
いくらか困難=1点 非常に困難またはできない=0点 |
階段10段を上ることはどの程度困難ですか? | 全く困難でない=0点
いくらか困難=1点 非常に困難またはできない=0点 |
過去1年で何度転倒しましたか? | なし=0点
1~3回=1点 4回以上=2点 |
※SARC-CalFはSARC-Fに下腿周囲長カットオフ値未満で+10点加える。
サルコペニアの原因
サルコペニアの原因には主に加齢によるもの、活動量低下によるもの、疾患による侵襲や炎症によるもの、エネルギーやたんぱく質摂取量の不足など栄養不良によるものがあります。
加齢によるサルコペニアのメカニズム
骨格筋は、加齢とともにミトコンドリア機能が低下し、新陳代謝が低下していきます。その結果として、筋細胞の中では古くなったたんぱく質や老廃物が代謝しきれずに蓄積されます。
古いたんぱく質や老廃物は異物として認識され、排除しようと免疫細胞が活性化されるため、炎症が生じます。炎症が生じることで異化が亢進したり、筋細胞が正常に機能できなくなることで筋機能が低下したりするため、筋肉量減少や筋力および身体機能の低下が誘発され、サルコペニアの状態に陥っていきます。
身体活動低下によるサルコペニアのメカニズム
身体活動が低下すると、骨格筋には筋収縮による刺激が入らなくなるため、筋たんぱくの合成が低下します。筋細胞は常に分解と合成を繰り返しているため、合成が低下することで分解が優位となり、筋肉量が減少していきます[3]。
また、活動量が低下することで筋細胞の代謝が低下するため、酸化ストレスが増加します。酸化ストレスは炎症を誘発するため、骨格筋の合成が阻害され、分解が促進されます。
さらに、酸化ストレスは筋細胞のインスリン抵抗性を高めるため、筋の萎縮が促進されます。以上のように、活動量が低下すると筋たんぱくの合成が低下し分解が促進されるため、筋肉量が減少していきます。
疾患によるサルコペニアのメカニズム
組織の損傷や外部からの病原体の侵入などの侵襲が生じると免疫系が活性化され、生体を防御するためにエネルギー需要が高まります。
この時、筋組織からはアミノ酸、脂肪組織からはグリセロールと脂肪酸、肝臓からはグリコーゲンがそれぞれ分解されてエネルギー源として利用されます。
特に、免疫細胞は筋組織の分解によって放出されるアミノ酸を主のエネルギー源として利用するため、侵襲時は筋たんぱくの分解が著しく上昇します。その結果として筋肉量が減少し、サルコペニアが誘発されることになります。
また、高度の侵襲が生じると、炎症反応が高値となるため、交感神経の過活動などで消化吸収機能低下や食欲不振などが生じ、エネルギー補給が阻害されることで栄養状態が悪化する危険性が高くなります。
栄養不良によるサルコペニアのメカニズム
栄養状態が不良になると、生体は早期には代謝を低下させて筋たんぱくを維持するように働きます。
飢餓状態が長期化していくと代謝を低下させるだけでは生体機能を維持するためのエネルギーが不足するため、グリコーゲン、脂肪組織、筋たんぱくとエネルギー源がシフトしていきます[4]。
そのまま継続してエネルギーやたんぱく質が不足していくと、筋たんぱく合成に必要な材料が枯渇するため、筋たんぱくの合成が阻害されて分解が優位となり、筋肉量が減少します。
また、エネルギーやたんぱく質以外の栄養素もその摂取バランスが崩れることで全身の代謝が阻害されるため、筋肉量の減少だけでなく機能低下にもつながる可能性が高くなります。結果として、サルコペニアが誘発される結果となります。
おわりに
今回はサルコペニアの基本事項、診断基準、原因についてみていきました。サルコペニアは研究が進んできたことで概念や評価が臨床でも活用しやすくなってきているので、現場でもサルコペニアについて考えるクセをつけていくことで、より良いリハビリテーションが行えるのではないかと思います。
本記事の執筆・監修・編集者
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— Isao Uno(宇野勲)@リハ栄養学会2023実行委員長 (@isao_reha_nutri) June 2, 2022
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参考文献
[1] Chen LK, et al. J Am Med Dir Assoc. 2020 Aug;21(8):1174-1175.
[2] Tanaka S, et al. J Am Med Dir Assoc. 2017 Feb 1;18(2):176-181.
[3] Rudrappa et al. Front Physiol. 2016 Aug 25;7:361
[4] 日本静脈経腸栄養学会編. 静脈経腸栄養テキストブック 2017.