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嚥下理学療法③ 咀嚼筋、咽頭収縮筋、その他

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咀嚼筋咽頭口腔|2022.2.10|最終更新:2022.2.10|理学療法士が執筆・監修しています

咀嚼・飲み込みに使う筋肉って?

 前回は、摂食嚥下に関連する筋肉の概要と舌骨上筋群、舌骨下筋群、舌筋についてみていきました。今回は、咀嚼や飲み込みの際に圧をかける際に働く筋肉についてと、筋以外の構造物についてみていきたいと思います。

本記事でわかること

✅ 咀嚼は姿勢と関係している

✅ 飲み込みには圧力が必要

✅ 筋肉以外の構造の理解も必要

咀嚼筋

 いわゆる咀嚼筋と呼ばれる筋肉は咬筋、側頭筋、外側翼突筋、内側翼突筋の4つあります。それぞれの働きを下表のようになっております。

 

咬筋 下顎骨を引き上げる。
側頭筋 下顎骨を後上方に引く。
外側翼突筋 下顎骨を前上方に引く。
内側翼突筋 下顎骨を前方に引く。

 

 咀嚼運動は大脳皮質からの指令で随意的に開始された後に、脳幹の咀嚼中枢にあるcentral pattern generator(CPG)によって自動的な運動に切り替わります。通常、この咀嚼運動は、両側同時に行われず、片側ずつ行われます。また、食物を小さくするためには、上下の押し潰しだけでなく、側方運動によるすり潰しも必要になります。咀嚼運動は顎関節だけでなく、舌や頬筋、口唇などとの協調も必要になります。

 咀嚼運動は左右同程度行われることが大切ですが、この左右のバランスが崩れると、全身のアライメントも崩れてきます。片方だけで咀嚼する習慣が続くと、顎関節に歪みが生じます。顎関節に歪みが生じると、頭部の重心がズレるため、頭部の安定性を確保しようとして、頸部や肩甲帯周囲の筋群の緊張にも左右差が生じます。

このようにして、顎関節の歪みが下行性に波及していき、全身の姿勢が乱れていきます。また、下肢や体幹の姿勢異常もまた、上行性に波及していき、頭頸部や顎関節の歪みにつながります。理学療法士は運動連鎖から機能障害を評価し介入する能力に長けていることが強みですので、全身と顎関節とのつながりについてもみていく必要があると思います。

側頭筋

側頭筋

咬筋

咬筋

外側翼突筋

外側翼突筋

内側翼突筋

内側翼突筋

咽頭収縮筋

 咽頭収縮筋は、その名の通り、咽頭を収縮させる筋肉です。咽頭筋は上・中・下に分かれており、それぞれの付着部位は以下のようになっています。

起始はそれぞれ異なりますが、停止は咽頭後壁となっています。嚥下をする際にこれらの筋肉が協調して収縮することで圧がかかり、食物や飲料を送り込むことができます。

起始 停止
上咽頭収縮筋
  • 蝶形骨翼状突起
  • 軟口蓋
  • 舌根
  • 下顎骨
咽頭後壁正中線の咽頭縫線
中咽頭収縮筋
  • 舌骨
咽頭後壁正中線の咽頭縫線
下咽頭収縮筋
  • 喉頭の甲状軟骨
  • 輪状軟骨
咽頭後壁正中線の咽頭縫線

 それぞれの筋肉の起始を見ていただければ気づくかと思いますが、下顎骨や舌骨、喉頭など、姿勢や他の筋肉の筋緊張異常によって、正常な位置から逸脱してしまう危険性が高い骨に付着しています。例えば、円背が強い方であれば、円背の代償として顎を突き出した姿勢になりやすく、それによって舌骨上下筋群が伸長されるため、下顎骨、舌骨、喉頭の位置は変化します。

その結果として、各咽頭収縮筋の筋長にも変化が生じ、嚥下圧を高めることができない危険性があります。嚥下圧を高められないと、嚥下物が咽頭に貯留してしまい、誤嚥の危険性が高くなります。

他覚的には、嚥下をする際に「ゴキュッ」といった嚥下音が聞こえた場合には、嚥下圧が高められていない可能性があります(他にも疑われる所見はありますが、詳細は清書をご参照ください)。

摂食嚥下に関連する筋肉以外の構造

 嚥下理学療法では、筋肉以外にも歯、唾液腺、食道といった摂食嚥下に関連する部位の解剖を理解しておく必要があります。

 

 

 まず歯についてです。歯は、前方から切歯、犬歯、小臼歯、大臼歯と分類されており、合計で28~32本となります。固形物を摂食する際には、切歯と犬歯で噛み切って捕食し、大小の臼歯で押し潰しやすり潰しが行われます。歯が抜けると、その部分は上下で噛み合わなくなるため、うまく咀嚼できなくなります。

それだけでなく、噛み合わせができないと、筋力を発揮する際に食いしばることができないため、筋出力が低下します。スポーツ選手がプレー中にマウスピースをしているのを見たことがあると思います。マウスピースをはめることで咬合力を高め、筋出力を高める目的で使用されています。リハビリテーションの対象となるご高齢の方々は、歯が少なくなっている方が多いです。

適合した義歯を使用していれば良いですが、歯が欠損した状態で義歯を使用していなかったり、義歯を使用していても適合していなかったりすれば、筋出力が低下している危険性があります。そのため、理学療法士も歯の状態について確認することが大切になります。

唾液腺

唾液は、正常であれば1日に1~1.5L分泌されます。pHは5.5~8.0と変動し、成分の99%が水分で構成されています。唾液腺には大唾液腺と小唾液腺があり、大唾液腺は耳下腺、顎下腺、舌下腺に分類されます。

耳下腺は舌咽神経支配で漿液性の唾液を分泌し、顎下腺と舌下腺は顔面神経支配で漿液性と粘液性両方の唾液を分泌します。唾液腺は交感神経と副交感神経両方で調節されています。

唾液は食塊形成や移送、口腔内の清潔保持に重要な役割を果たします。唾液分泌は脱水や薬剤の副作用で減少します。唾液分泌が減少すると摂食嚥下がスムーズに行えないだけでなく、口腔内が汚染されるため、汚染された唾液を誤嚥することで肺炎のリスクが高くなります。誤嚥性肺炎予防のためにも唾液分泌の状態を確認することは大切です。

食道

食道は喉頭の輪状軟骨の下縁から始まり、横隔膜を通過して腹腔に入った後に胃につながります。輪状軟骨下縁から胸骨上縁までを頸部食道、胸骨上縁から横隔膜の食道裂孔までを胸部食道、横隔膜から胃までを腹部食道と呼ばれています。

食道には3か所の狭窄部があり、第1狭窄部は第6頸椎の高さの食道起始部第2狭窄部は第4~5胸椎の高さの気管分岐部第3狭窄部は第11胸椎の高さの横隔膜通過部となっています。

そのため、頸椎に骨棘があったり、手術によりデバイスが挿入されていたりすれば、食道は狭くなり、嚥下が難しくなる可能性があります。また、胸部や腹部に大動脈瘤があれば、それによって食道が圧迫され、食道の通過障害が生じる可能性もあります。

さらに、肺がんや無気肺など気管が偏位する病変があれば、食道も偏位し、通過障害が生じる可能性があります。食道の通過障害が生じる危険性がある病態が存在する場合には、飲み込みにくさや胸のつかえ感などを訴えに注意が必要です。

おわりに

今回は、摂食嚥下に関係する筋肉として咀嚼筋と咽頭収縮筋を、筋肉以外として歯、唾液腺、食道についてみていきました。摂食嚥下に関わる器官は数多くあり、いずれも身体全体とつながりを持っています。そのため、それぞれの解剖生理は言語聴覚士以外の職種にも必要な知識です。

本記事の執筆・監修・編集者

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✅記事監修(✅編集(てろろぐ

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参考文献

[1] 日本摂食嚥下リハビリテーション学会 eラーニング資料