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生活期, 施設, 地域|2022.1.20|最終更新:2022.1.20|理学療法士が執筆・監修しています
序文
前回は回復期におけるリハ栄養の視点での考え方について見ていきました。今回は、施設や在宅といった生活期に必要なリハ栄養的な視点について見ていきたいと思います。
✅ 施設入所者は介護度が高いが人手が少ないのでハイリスク。 ✅ 施設の食事は病院ほど多様な対応が難しい。 ✅ 地域でも低栄養リスクが高い人は多い。 |
施設入所者の低栄養、サルコペニアリスク
施設形態にもよりますが、施設入所者の特徴として、一般的に介護度が高いことや認知機能が低下していることが挙げられます。厚生労働省のデータでは、介護療養型施設に入所している高齢者の80%以上が要介護4以上という報告もあり[1]、生活全般に介助が必要な状態の方が大多数と言えます。また、認知症の方も多く、その割合は88.4%というデータもあります[1]。ADLや認知機能が低下しているため、ケアへの依存度も高い状態ですが、病院と比較して、人手が足りない所は少なくありません。人手が足りない所では、入所者の離床時間や食事介助にかける時間が限られてしまいます。活動や食事が十分に行えなくなってしまうことが多いため、低栄養やサルコペニアが進行してしまうリスクが高くなってしまいます。療養施設に入所している高齢者では、低栄養は54%[2]、サルコペニアは73.3%[3]、嚥下障害は40%[2]に認められたという報告があり、施設入所者はハイリスク状態であると言えます。そのため、少ない資源で活動量や栄養を確保できる戦略を、施設の特色に合わせて考えていく必要があります。
施設の食事対応
病院では、体格や活動量、疾患などによって個別的に食事内容を調整してもらえることが多いです。しかし、高齢者施設では、マンパワーやコストの問題で、食事内容は画一的になりやすく、その人に合わせた食事内容にすることが十分できていない現状があります。厚生労働省の調査結果では、食事内容が性別、年齢に関わらず1種類という高齢者施設が半数以上となっています。また、先ほど施設では人手が少ないことを述べましたが、人手が少ないことで利用者さんの栄養状態の評価が十分に行えておらず、その結果として利用者さん個々人に合った食事内容が提供されていないという状況もあるかもしれません。実際に、高齢者施設入所者ではカリウム、マグネシウム、亜鉛、ヨウ素、ビタミンD・E、葉酸、食物繊維の摂取量が80%以上の利用者で少なく、たんぱく質摂取量が1g/kg/日未満の人は56%、25g/食未満の人は100%だったという調査結果もあります[4]。食事の個別対応が難しい中での対策としては、食事以外に飲食できる機会を作ることが大切になります。例えば、施設内の売店や定期的に訪問していただける移動販売、近所のコンビニやスーパーなどで、食べたいものをご自身で選んで食べてもらいます。ご自身で好きなものを選択できるため、食欲が低下している方でも摂取量を増やすことができる可能性があります。また、外出機会を作るきっかけにもなるので、身体や社会性にも良い効果が得られる可能性があります。もちろん、購入する際には、疾患による制限には注意が必要です。
地域での低栄養、サルコペニア、フレイル
自立して生活している地域在住高齢者でも、低栄養やサルコペニアとは無縁ではありません。日本での調査では、低栄養状態の人は23.5%[5]、サルコペニア状態の人は22%[6]存在しているという報告があります。低栄養やサルコペニアは、フレイルとも関係しています。フレイルは健康な状態と介護が必要な状態の中間に位置している概念で、疾病罹患、身体機能障害など種々の予後の不良因子となります。フレイルは多面的な要素が関連しており、大きく分けて身体面、社会面、精神心理面があります。これらは単独で存在しているわけではなく、相互に影響してフレイルの進行に影響を与えます。栄養面だけでも、フレイルには多くの因子が関連しています。肥満でも痩せていてもフレイルのリスクを高めます。食習慣では、エネルギーやたんぱく質の摂取量が少ないこと、野菜や果物の摂取量が少ない、飽和脂肪酸が多いといった不健康な食事パターンがフレイルと関連しています。
栄養面はフレイルのリスクを高めますが、反対にフレイルの構成要素も栄養状態悪化のリスクを高めます。身体面では、身体機能低下や痛みがあると食事の調達が困難になります。また、口腔機能が低下していると、麺類やパンなど栄養が偏った食事パターンになりやすいです。精神心理面では、精神的ストレスがあると食欲は低下します。また、認知機能が低下すると、調理が簡単な物や同じ物を選びやすくなるため、栄養が偏ります。社会面では、経済的に困窮していると安価な物を選びやすくなり、栄養が偏ります。また、居住地が買い物に行きにくい環境だと、生鮮品の入手が難しくなるため、加工品が多くなり、不健康な食事パターンになりやすくなります。以上のように、栄養面とフレイルは相互に影響し合い、負の連鎖を形成してしまいます。この連鎖には様々な因子が複雑に絡み合っているため、根本にある影響力が大きい因子を探索し、解決していくことが大切になります。
おわりに
今回は生活期でのリハ栄養的な考え方を見ていきました。生活期は対象となる方の背景が様々であるため、どのようなキャラクターの方を対象とするのかを把握した上で、評価、介入をしていくことが大切になります。
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地域在住高齢者では、70分/回×週2回×16週間の運動介入を行うと、プレフレイルの46%、フレイルの50%がそれぞれロバストやプレフレイルまで改善したそうです。https://t.co/E0fiqzFPr7
— Isao Uno(宇野勲)@リハ栄養学会2023実行委員長 (@isao_reha_nutri) June 2, 2022
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参考文献
[1] 厚生労働省:平成29年度介護サービス事業者調査の概況
[2] Namasivayam et al. J Nutr Gerontol Geriatr. 2015;34(1):1-21
[3] Rodríguez-Rejón et al. Adv Nutr. 2019 Jan 1;10(1):51-58.
[4] Rodríguez-Rejón et al. Nutrients. 2019 Jan 25;11(2):266
[5] Su et al. Nutrients. 2020 Jan 5;12(1):151
[6] Yamada et al. J Am Med Dir Assoc. 2013 Dec;14(12):911-5