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疾患別リハ栄養① 脳卒中、大腿骨近位部骨折、心不全

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脳卒中大腿骨近位部骨折心不全|2022.12.9|最終更新:2022.12.9|理学療法士が執筆・監修しています

序文

 前回までは、リハ栄養の評価として、低栄養とサルコペニアの評価についてみていきました。今回からは疾患別のリハ栄養の基本的な考え方についてみていきたいと思います。

本記事でわかること

✅ 脳卒中患者さんは麻痺や嚥下障害の影響を受ける

✅ 大腿骨近位部骨折患者さんは受傷前の状態の確認が大切 

✅ 心不全患者さんは炎症や食欲不振に注意

脳卒中

脳卒中患者さんは低栄養状態になりやすく、低栄養状態はリハビリテーションの阻害因子になる危険性が高くなります。低栄養の有病率は、急性期のある調査では低栄養12.1%低栄養リスクあり54.1%と、半数以上が低栄養のリスク状態であることが報告されています[1]。また、回復期のある調査では中等度以上の低栄養状態の患者さんが脳梗塞で43.5%、脳出血で33.3%、くも膜下出血で100%と報告されています[2]。脳卒中患者さんが入院中に低栄養状態に陥る危険因子には嚥下障害、脳卒中の既往、糖尿病、口腔衛生不良、経管栄養、抑うつ、活動量減少、運動麻痺、意識障害が挙げられています[3]。低栄養の危険因子である嚥下障害の有病率は、調査によってバラつきはありますが、8.1~80%と報告されています[4]。また、脳卒中患者さんではサルコペニアも合併しやすく、サルコペニアの合併率は42%という報告があります[5]。

脳卒中と一言で言ってもその病期や病態によって潜在的なリスクや現れてくる症状は様々なため、個々人の全身状態に合わせたリハ栄養の考え方は少し異なります。

急性期の脳卒中

急性期では、意識障害の有無が大きく影響してきます。意識障害を有していると、食事の認識ができないため、食事を摂取することができません。また、介助で口腔内に食物を入れたとしても、嚥下反射や喉頭侵入した際の咳嗽反射が生じにくいため、誤嚥のリスクが高くなります。

回復期の脳卒中

急性期を脱し回復期に移行する際にも注意が必要です。急性期から回復期に移ると、疾患別リハの時間が大幅に増加します。この過程で活動量の増加に合わせた食事内容に調整されていれば良いのですが、急性期での栄養管理をそのまま引き継いで継続している場合も少なくありません。そのことに気付かずに疾患別リハの時間を増やし、リハ内容もダイナミックなものに変更していくと、低栄養状態を悪化させる危険性が高くなり、機能・能力改善が妨げられてしまいます。また、脳卒中患者さんで筋緊張が高い場合には、安静時や動作時に過剰に筋活動を行っている状態であるため、同じ活動量でもエネルギー消費量が筋緊張が正常な人や弛緩性麻痺の患者さんよりも高くなります。

リハ栄養介入としては、活動量の増加に合わせて食事内容を見直すことが必要です。食欲不振などで摂取量が増やせない場合には、嗜好に合わせた食事内容への変更や栄養補助食品の活用などの工夫が必要になります。それでも食事摂取量が増えない場合には、摂取量に見合った運動内容に調整することが大切です。また、歩行補助具や装具を活用し、歩行時のエネルギー消費を抑えることも有効です。

 

大腿骨近位部骨折

大腿骨近位部骨折患者さんは、転倒によって受傷することが大部分を占めます。転倒の原因の1つとして、受傷前から低栄養やサルコペニア状態であり、筋力や身体機能が低下していることで転倒リスクが高い状態だったことが考えられています。実際に、ある調査では急性期病院に入院した時点ですでに低栄養状態の患者さんは27%[6]、サルコペニア状態の患者さんは44%[7]存在していたという報告があります。そして、低栄養、サルコペニアともに、手術侵襲による炎症痛み安静による活動量低下によって状態が進行してしまう危険性が高くなることも考えられています。さらに、大腿骨近位部骨折の患者さんでは、手術後に嚥下障害を合併する危険性が高く、ある報告では嚥下障害の有病率が55%だったという報告があります[8]。

大腿骨近位部骨折患者さんも、病期によって対応を変化させていく必要があります。急性期では、受傷前から低栄養やサルコペニア状態の方が多いため、手術までの待機期間があると、その期間中に身体面だけでなく、認知機能など精神心理面も著しく低下する危険性があります。また、手術の高度侵襲や術後の活動量低下によっても心身共に機能が大きく低下し、低栄養やサルコペニアが発症または悪化する危険性が高くなります。術後に低栄養やサルコペニアが悪化すると、肺炎や感染症などの術後合併症の危険性が高くなります。急性期を脱した後でも、骨折や手術部位の修復のために、通常よりもエネルギー必要量が高い状態は継続します。さらに、回復期に移行して運動量が増加することで、エネルギー消費量が増加するため、栄養量の見直しが必要になります。回復期から生活期に移行する場面では、大腿骨近位部骨折患者さんでは受傷前から低栄養やサルコペニア状態であることが多いため、退院後の生活習慣や環境の見直しも必要になってきます。例えば、普段何をどれくらい食べているのか、外出や自宅内での活動はどの程度行われていたのか、といったことを確認し、必要があればサービス等で支援体制を検討する必要があります。

心不全

心不全患者さんも他の疾患と同様に、低栄養やサルコペニアを高頻度で認めます。ある調査では、低栄養57%[9]、サルコペニア55%[10]の患者さんに認められたことが報告されています。

心不全患者さんでは、循環動態の変化悪液質などが原因となって低栄養、サルコペニアが誘発されます。循環動態の変化では、3つの病態が考えられています。

左心不全による肺うっ血

1つ目は左心不全による肺うっ血です。肺うっ血によって呼吸機能が低下することで、易疲労性から食事量が減少する危険性が高くなります。

右心不全による全身のうっ血

2つ目は右心不全による全身のうっ血です。特に腸管に浮腫が生じると消化吸収機能が低下するため、食欲不振が生じたり栄養吸収が阻害さfれたりします。

心拍出量減少による全身の血流低下

3つ目は心拍出量減少による全身の血流低下です。脳血流が低下すれば意識障害やめまいが生じ、座位時間を確保することが難しくなります。腸管の血流量が低下すると、腸管浮腫と同様に消化吸収機能が低下します。

全身の組織への血流低下・炎症の影響

全身の組織への血流が低下することで、各組織の機能低下を引き起こす危険性が高くなります。炎症による影響としては、筋たんぱく質の異化、食欲不振、インスリン抵抗性の悪化、貧血などがあります。炎症によってエネルギー消費量が増加している状態で食欲不振から食事摂取量が減少するため、エネルギーバランスがマイナスに傾いてしまいます。また、炎症による異化亢進に加えて、インスリン抵抗性の悪化によって骨格筋はエネルギー不足の状態になるため、骨格筋の減少が進行してしまいます。

治療による影響

その他にも、治療による影響も考慮する必要があります。心不全増悪時には、水分や塩分制限など食事内容に制限が生じるため、栄養不足に陥りやすくなります。また、利尿剤などの薬物療法によって電解質異常も生じやすいため注意が必要です。さらに、浮腫が生じると見た目上の体重減少を見逃しやすいため、浮腫の状態を考慮して体重などの栄養指標を継時的に追っていく必要があります。2021年に改訂された心臓リハビリテーションのガイドラインでは、塩分制限によって食欲不振が進行し、栄養状態悪化の危険性が高い患者さんに対しては、厳格な塩分制限はせず、全身状態を見ながら適宜調整していくことが推奨されています[12]。

おわりに

今回は脳卒中、大腿骨近位部骨折、心不全について、リハ栄養的な視点で見てきました。いずれの疾患でも共通していることは、「この疾患だからこれ」というものはなく、病態や病期、患者さんのキャラクターに合わせて定期的に再評価をしながら調整していくことが大切になります。患者さんの細かい変化に気づけるのはリハスタッフの強みだと思いますので、率先して取り組んでいく必要があると思います。

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参考文献

[1] Hsieh et al. Acta Neurol Taiwan. 2017 Sep 15;26(3):120-127

[2] 西岡他. 日本静脈経腸栄養学会雑誌 (2189-0161)30巻5号 Page1145-1151

[3] Chen et al. Clin Nutr. 2019 Feb;38(1):127-135

[4] Takizawa et al. Dysphagia. 2016 Jun;31(3):434-41

[5] Su et al. J Stroke Cerebrovasc Dis. 2020 Sep;29(9):105092

[6] Bell et al. Eur J Clin Nutr. 2014 Mar;68(3):358-62

[7] Chiang et al. J Appl Gerontol. 2021 Dec;40(12):1903-1913

[8]  Mateos-Nozal et al. Age Ageing. 2021 Jun 28;50(4):1416-1421.

[9] Sze et al. JACC Heart Fail. 2018 Jun;6(6):476-486

[10] Matsuo et al. JPEN J Parenter Enteral Nutr. 2021 Feb;45(2):372-380

[11] Zhang et al. ESC Heart Fail. 2021 Apr;8(2):1007-1017

[12] 日本心臓リハビリテーション学会編. 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン(2021年改訂版). 2021.