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サルコペニア, 肥満, 摂食嚥下障害|2022.12.2|最終更新:2022.12.2|理学療法士が執筆・監修しています
サルコペニアに関連する病態
前回はサルコペニアの定義や診断基準、原因など基本的な内容について触れました。今回はサルコペニアと関連する病態について触れていきたいと思います。
✅ サルコペニア肥満はサルコペニア単独よりも予後を悪化させる可能性がある ✅ 骨と筋はお互いに連携し合っている ✅ サルコペニアでは摂食嚥下機能も低下する |
サルコペニア肥満
サルコペニア肥満は、その言葉の通りサルコペニアと体脂肪の増加が合併した状態です。
定義・悪影響
サルコペニア肥満の状態になると、サルコペニア単独や肥満単独と比較して、
〇転倒・骨折
〇フレイル
〇ADL・IADL低下
〇施設入所
〇死亡
のリスクが高くなることが報告されています[1]。肥満はBMIを用いて定義されることが多いですが、サルコペニア肥満では筋肉量減少と体脂肪増加が同時に生じているため、BMIのみで肥満を定義するとサルコペニア肥満を見逃してしまう危険性が高くなります。
メカニズム
サルコペニア肥満発症までのメカニズムの一つとして、脂肪の過剰蓄積による筋内脂肪の増加が考えられています。筋内脂肪とは、筋繊維の間に脂肪組織が入り込み、過剰に蓄積している状態で、いわゆる「霜降り」の状態です。
筋内に脂肪が過剰に蓄積すると、脂肪細胞からアディポサイトカインという炎症誘発物質が発現します。炎症は骨格筋の異化を促進するため、筋肉量の減少につながります。
他にも、筋内脂肪は筋細胞のミトコンドリア機能不全を誘発するため、筋機能低下を誘発します。また、酸化ストレスが増加することで炎症がより増悪しやすくなるため、筋萎縮が加速します。さらに、炎症はインスリン抵抗性を増悪させるため、筋萎縮につながります[2]。
診断基準
サルコペニア肥満の診断基準は、まだ確立した指標は存在していません[2]。現在用いられている基準としては、サルコペニアの有無を診断後に肥満の有無を評価し、サルコペニアと肥満の両方を併せ持っている状態をサルコペニア肥満としている調査が一般的です。肥満の診断基準には、BMI、体脂肪率、腹囲を用いられているケースが多いです。
オステオサルコペニア
オステオサルコペニアはサルコペニアと骨粗鬆症が合併している状態です。
リスク因子・有病率
サルコペニアは骨粗鬆症発症のリスク因子で、骨粗鬆症もまたサルコペニア発症のリスク因子であるため、サルコペニアと骨粗鬆症はお互いに関連し合っていることが明らかになっています[1]。
地域在住高齢のオステオサルコペニアの有病率は5~37%と調査によってバラつきはありますが、オステオサルコペニア状態の高齢者は少なくありません。オステオサルコペニアのリスクを高める因子は
〇加齢
〇ビタミンD不足
〇代謝異常
〇コルチコステロイド使用
〇遺伝的因子
〇炎症
〇不活動
〇併存症
〇異所性脂肪
などが考えられています[3]。
メカニズム
オステオサルコペニアが生じるメカニズムとしては、筋肉から分泌されるマイオカインと呼ばれる種々の代謝物質と骨から分泌されるオステオカインと呼ばれる種々の代謝物質がお互いに影響し合うことが考えられています。
筋肉量が減少しマイオカインが減少することで骨代謝が障害され、一方で骨量が減少しオステオカインが減少することで筋代謝が障害されます。
細かいメカニズムについてはまだ解明されていない部分はありますが。筋と骨がお互いに影響し合っていることで、オステオサルコペニアという病態が生じると考えられています。オステオサルコペニアは筋肉量、筋力、身体機能それぞれの低下に加え、骨量や骨密度が低下しているため、転倒、骨折、早期死亡のリスクがそれぞれ単独よりも高くなっています。そのため、早期発見、早期介入によって不良転帰を予防することが必要になります。
サルコペニアの摂食嚥下障害
サルコペニアの嚥下障害とは、全身の筋肉と嚥下関連筋群の両方にサルコペニアを認めることで生じる摂食嚥下障害のことです。脳卒中やパーキンソン病など、明らかな摂食嚥下障害の原因疾患があり、それによって嚥下障害が生じている場合や、嚥下関連筋群にサルコペニアが疑われても全身のサルコペニアを認めない場合は、サルコペニアの摂食嚥下障害には含まれません。
診断基準
サルコペニアの摂食嚥下障害の診断の流れは、筋力や歩行速度の低下の有無を確認します。低下している場合は筋肉量減少を評価し、減少を認めれば次に摂食嚥下機能を評価します。
摂食嚥下機能が低下しており、明らかな原因疾患がなく、嚥下関連筋群の筋力が低下していれば、サルコペニアの摂食嚥下障害の可能性が高いと判断されます。嚥下関連筋群の評価が機器がないために測定できない場合でも、サルコペニアの摂食嚥下障害の可能性ありとなります[4]。
有病率・リスク因子
日本の入院高齢患者さんのサルコペニアの摂食嚥下障害の有病率は32%だったという報告があります[5]。
入院している高齢患者さんでは、骨格筋量が少ない、BMIが低い、ADLが低いと、入院中に摂食嚥下障害が生じるリスクが高くなると言われています[6]。
嚥下関連筋群は呼吸中枢からの入力を受けるため、基本的には廃用が生じにくいと言われていますが、オトガイ舌骨筋は周期的な入力を受けないため、廃用が生じやすいと考えられています。
おわりに
今回はサルコペニアに関連する病態についてみてきました。サルコペニアの研究はまだまだ発展途上であり、関連する病態についてはメカニズムや危険因子、介入方法など明らかになっていないことが多くあります。
そのため、サルコペニアに関しては日々新たな情報を確認しながら現場に臨むことが大切です。
本記事の執筆・監修・編集者
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地域在住高齢者では、70分/回×週2回×16週間の運動介入を行うと、プレフレイルの46%、フレイルの50%がそれぞれロバストやプレフレイルまで改善したそうです。https://t.co/E0fiqzFPr7
— Isao Uno(宇野勲)@リハ栄養学会2023実行委員長 (@isao_reha_nutri) June 2, 2022
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参考文献
[1] Hirani et al. Age Ageing. 2017 May 1;46(3):413-420
[2] Kalinkovich et al. Ageing Res Rev. 2017 May;35:200-221
[3] Kirk et al. Aging Med (Milton). 2019 Sep 8;2(3):147-156
[4] Mori T, et al:Development, reliability, and validity of a diagnostic algorithm for sarcopenic dysphagia. JCSM Clin Rep, 2:e00017, 2017
[5] Wakabayashi et al. J Nutr Health Aging. 2019;23(1):84-88
[6]Maeda et al. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2017 Sep 1;72(9):1290-1294