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疾患別リハ栄養③ 糖尿病、炎症性腸疾患、膵臓疾患

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糖尿病消化器膵臓|2022.12.23|最終更新:2022.12.23|理学療法士が執筆・監修しています

序文

前回は呼吸器、腎臓、肝臓の機能が低下した方の低栄養やサルコペニアについて見ていきました。今回は糖尿病、炎症性腸疾患、膵臓疾患の低栄養やサルコペニアについて見ていきたいと思います。

本記事でわかること

✅ 糖尿病と低栄養は相互に原因と結果になり得る。

✅ 炎症性腸疾患は栄養を吸収できない。

✅ 膵臓疾患も栄養が取り込めない。

糖尿病

糖尿病は生活習慣病の一種であり、過栄養がその原因と言われることが多いです。しかし、低栄養や低栄養リスク状態の患者さんは多く、サルコペニアの有病率も少なくありません。高齢糖尿病患者さんでは、低栄養は22.8%、低栄養リスクありは37.4%という報告があります[1]。また、サルコペニアの有病率は24%という報告があります[2]。

糖尿病患者さんで低栄養やサルコペニアが多い理由としては、主に血糖コントロール目的の食事制限インスリン抵抗性が考えられています。糖尿病患者さんでは、治療の中で血糖コントロールの目的で食事制限をされることが多いです。65歳未満で肥満状態の糖尿病患者さんであれば、食事制限は血糖コントロールに有効な治療法ですが、高齢で低体重やサルコペニア状態の患者さんに食事制限を行うと、低栄養を誘発、悪化させる危険性があります。また、体重は標準〜肥満に該当していても、サルコペニア肥満状態であれば、食事制限によりサルコペニアが悪化する危険性が高くなります。サルコペニアが悪化すると、糖質を代謝する筋肉が減少するため、血糖コントロールがさらに不良になるという悪循環に陥ります。次にインスリン抵抗性についてです。血糖値が上昇する原因の一つにインスリン抵抗性により、細胞内に糖を取り込むことができないことがあります。そのため、細胞が糖を利用できなくなり、飢餓状態に陥ります。筋細胞が飢餓状態になると、筋たんぱくの合成が行えないため、筋肉量が減少します。また、インスリン抵抗性によって血糖値が上昇すると、糖毒性によって末梢神経が障害されるため、筋肉が脱神経状態となり、筋機能が低下します。

糖尿病患者さんでは、栄養状態やサルコペニアの有無によって、栄養摂取を考えていく必要があります。特に、高齢糖尿病患者さんでは、上述のように低栄養やサルコペニア状態でも厳格な食事制限を強いられている場合もあるため、注意が必要です。一般的には摂取エネルギー量は25〜30kcal/kg/日とやや低めに設定されますが、たんぱく質は1.0~1.2g/kg/日と通常通りからやや多めに設定されます。これは、エネルギー制限でたんぱく質摂取量も減少してしまい、筋肉量が減少することを防ぐためです。また、糖質制限については、患者さんによって見極めて指導する必要があります。糖質を制限すると、頭痛や倦怠感、脱水など副作用が生じる場合があります。そのため、定期的に患者さんの状態を評価し、糖質制限が適しているかどうかをモニタリングする必要があります。

炎症性腸疾患

炎症性腸疾患は、消化管のどこかに炎症が生じるクローン病と大腸が障害される潰瘍性大腸炎の総称です。消化管は消化吸収の役割を担っており、その中心は小腸(十二指腸、空腸、回腸)と大腸です。十二指腸ではカルシウム、鉄、マグネシウム、亜鉛などの微量栄養素、空腸では糖質、アミノ酸、脂質、水溶性ビタミン回腸ではビタミンB12、脂溶性ビタミン大腸では水、電解質が吸収されます。そのため、腸のどの部位が障害されても、何かしらの栄養素が不足する危険性が高くなります。特に、炎症性腸疾患は慢性的な経過を辿りやすいため、低栄養やサルコペニアが生じる危険性が高くなっています。低栄養を呈する割合は20〜85%[3]、サルコペニアを呈する割合は42%[4]と報告されています。また、栄養素の欠乏状態も高頻度で認められます。血液不足(貧血)は60〜80%、鉄欠乏は39〜81%、カルシウム欠乏は13%、マグネシウム欠乏は14〜33%、ビタミンB12欠乏が48%、ビタミンD欠乏は75%、葉酸欠乏は36〜54%と報告されています[5]。

低栄養やサルコペニアを生じる要因としては、痛み嘔気炎症性サイトカインの影響で食欲が低下して食事摂取量が減少すること、治療過程で長期に渡り食事制限がされること、腸管上皮細胞の機能が低下するため、摂取した栄養素を吸収できないこと、炎症によって慢性的に血液やたんぱく質が喪失すること、腸内細菌が過剰に増殖すること、手術を行なった場合には、手術により術後に一定期間の安静が強いられることが考えられています[3]。

栄養療法については、クローン病と潰瘍性大腸炎で共通する部分もありますが、異なる部分もあります。共通している部分としては、両疾患ともにエネルギー必要量は健常者よりも多く設定すること、脂質の摂取を制限すること、脂質不足を補うために脂肪乳剤を経静脈投与することが挙げられています[6]。異なる点としては、クローン病では成分栄養剤の使用が推奨されていますが、潰瘍性大腸炎では下痢を誘発する危険性があるため、成分栄養剤は慎重に使用することが求められています[6]。いずれの疾患においても、必要なエネルギーは増加する一方で、消化吸収が障害されるため、リハビリテーションを進める上では現在の疾患のコントロールの状況や食事内容などを考慮する必要があります。

 

膵臓疾患

膵臓にはホルモン分泌する内分泌機能と、消化酵素を分泌する外分泌機能があります。内分泌では、インスリンやグルカゴンといった、血糖の調節を行うホルモンが分泌されます。外分泌では、糖質、脂質、たんぱく質を分解するために必要な消化酵素が分泌されます。内分泌、外分泌ともに、摂取した栄養の消化吸収、代謝に重要な役割を担っているため、機能が低下することで低栄養、サルコペニアを生じるリスクが高くなります。膵炎の患者さんでは、低栄養は31.5%[6]、サルコペニアの有病率は17〜62%[7]と報告されています。また、脂質の消化吸収が阻害されることで、脂溶性のビタミンの吸収も阻害されるため、脂溶性ビタミンが欠乏しやすくなります。

膵臓の疾患で低栄養やサルコペニアが生じる機序としては、消化酵素が分泌されないため、摂取した食物の消化吸収が妨げられること、血糖の調整がうまくいかないことが挙げられます。消化吸収が妨げられることで、栄養素を体内に取り込むことができなくなります。栄養が欠乏して飢餓状態になると、脂肪や筋肉を分解してエネルギーを得ようとする反応が生じるため、サルコペニアが進行していきます。また、インスリンとグルカゴンの分泌が障害されると、血糖値の調節が不安定になるため、低血糖や高血糖が生じやすくなります。血糖値が不安定になることで、糖毒性による血管障害や末梢神経障害が生じやすくなります。血管や末梢神経の障害は筋萎縮を誘発するため、サルコペニアを進行させる要因になります。

膵臓に疾患がある患者さんでは、疾患のコントロールの状態に合わせて、摂取する栄養素の比率を調節する必要があります。膵臓疾患では、腹痛の症状が生じやすいですが、腹痛がある時期には脂質の摂取量を制限する必要があります。また、消化酵素の働きが弱いため、消化吸収しやすいように経腸栄養剤を使用する場合もあります。症状が落ち着いてきた段階にきましたら、脂質の摂取量を少しずつ元に戻し、経口での摂取量を増やしていきます。経過の中で、脂溶性ビタミンや微量元素が不足している場合には、適宜サプリメントなどで補う必要があります。

おわりに

今回は糖尿病、炎症性腸疾患、膵臓疾患についてみてきました。いずれの疾患においても、低栄養やサルコペニアのリスクが高くなる疾患です。低栄養やサルコペニアは各疾患の予後不良リスク因子でもあるので、多職種で対策を考えていく必要があります。

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参考文献

[1] Sanz-París et al. Clin Nutr. 2016 Dec;35(6):1564-1567

[2] Fung et al. BMC Geriatr. 2019 Apr 29;19(1):122

[3] Balestrieri et al. Nutrients. 2020 Jan 31;12(2):372

[4] McNicholas et al. Inflamm Bowel Dis. 2019 Jan 1;25(1):67-73

[5] Balestrieri et al. Nutrients. 2020 Jan 31;12(2):372

[6] Min et al. Pancreas. 2018 Sep;47(8):1015-1018

[7] Kuan et al. World J Surg. 2021 Feb;45(2):590-597