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疾患別リハ栄養② 呼吸器、腎臓、肝臓

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キーワード:呼吸器腎臓肝臓|2022.12.16|最終更新:2022.12.16|理学療法士が執筆・監修しています

序文

前回は脳卒中、大腿骨近位部骨折、心不全について、リハ栄養的な視点での考え方をみていきました。今回は呼吸不全、腎不全、肝不全について、それぞれの病態を考慮したリハ栄養の考え方をみていきたいと思います。

本記事でわかること

✅ 呼吸不全患者さんは、呼吸による消耗が大きい。

✅ 腎不全患者さんは、たんぱく質摂取が制限されるため、サルコペニアになりやすい。

✅ 肝不全患者さんは、エネルギーの蓄積、合成ができないため、低栄養、サルコペニアになりやすい。

 

呼吸不全

COPDを始めとした呼吸不全患者さんでも、他疾患と同様に低栄養やサルコペニアを高頻度で認めます。ある調査では、COPD患者さんの低栄養の割合は50%と報告されており[1]、サルコペニアの有病率は34%と報告されています[2]。また、嚥下障害の有病率も高く、ある調査では78%のCOPD患者さんに嚥下障害が認められたことが報告されています[3]。COPD患者さんでは、気流制限や酸素化能が低下していることで、呼吸をすること自体がエネルギー消費を増やしてしまうことが原因の一つとなります。また、COPD患者さんは慢性的に炎症サイトカインが多くなっているため、よりエネルギー消費が多くなります。実際に、安静時のエネルギー消費量は、同じ体格の人の予測値と比較して、120〜140%多くなっていると言われています[4]。COPD患者さんは病的な体重減少を呈する人が多い一方で、罹患からの期間が長期に渡っている患者さんでは、代償によりアルブミン値が低下しにくくなっているため、検査データ上では低栄養が見逃されてしまう危険性があるので、評価をする際には注意が必要です。

呼吸不全患者さん全般に共通している問題点として、呼吸困難感が挙げられます。安静時や動作時に呼吸困難感があると、行動が制限されるため、活動量が著しく低下します。また、食事をする際にも呼吸困難感が出現するため、食事摂取量が減少してしまいます。さらに、低酸素状態は酸化ストレスや炎症性サイトカインの産生を誘発するため、筋たんぱくの合成を阻害し、分解を促進してしまいます。その結果、低栄養やサルコペニアが進行してしまうことになります。

呼吸不全患者さんはエネルギー消費量が多いため、摂取するエネルギーも多くする必要があります。しかし、呼吸困難感から食事を一度に多く摂取することができない方も少なくありません。その場合には、食事回数を増やし、一回当たりの食事量を減らす対応が有効な場合があります。食事の組成では、炭水化物は分解の過程でCO2の産生量が他の栄養素よりも多いため、よりCO2産生量が少ない脂質の割合を多くして、エネルギー量を増やすという対策も有効です。

腎不全

腎臓は、主に老廃物を尿として体外に排出する機能と必要な成分を再吸収する機能を有しています。腎不全の患者さんに関しても、低栄養とサルコペニアは高頻度で認められています。腎不全患者さんの低栄養状態は「Protein Energy Weating(PEW)」とも呼ばれますが、PEWの有病率は慢性腎臓病(CKD)のグレード3〜5の患者さんで11〜54%、透析を導入されている患者さんで28〜54%と報告されています[5]。また、サルコペニアに関しては、CKDグレード2〜3の患者さんで34.5%、グレード4〜5の患者さんで65.5%に認められたことが報告されています[6]。PEWが生じる機序としては、腎機能低下により生じる尿毒症たんぱく質が再吸収されないことなどが関連しています。尿毒症は炎症を誘発するため、食欲不振や筋たんぱくの異化が促進されることもPEWを加速させる要因となります。また、透析を行っている患者さんでは、透析中に血中のアミノ酸が漏出されてしまうため、筋たんぱく質の合成が阻害されます。さらに、腎機能が低下しているとたんぱく質や塩分、カリウム、リンなどの摂取が制限されるため、栄養素の欠乏状態が生じやすくなります。

腎不全患者さんの食事では、一般的にはたんぱく質を制限することが推奨されており、通常では1.0g/kg/日程度ですが、安定期の腎不全患者さんでは0.6~0.8g/kg/日となっています[4]。ですが、サルコペニア状態のCKD患者さんでは、たんぱく質摂取制限を緩和することが推奨されています。グレード1〜2のCKD患者さんでは1.5g/kg/日、グレード3では1.3g/kg/日、透析患者さんでは1.0〜1.2g/kg/日まで許容されています。そのため、サルコペニア状態のCKD患者さんでたんぱく質摂取を厳しく制限された状態になっている場合には、なぜ制限されているのか、制限を緩和するのは可能なのか、医師や栄養士に確認した方が良いケースもあります。

肝不全

肝臓は摂取した栄養素を貯蔵し、必要に応じて合成する機能や有害な物質を分解して解毒する作用などがあります。肝臓の機能が低下した患者さんにおいても、低栄養やサルコペニアは高い割合で認められます。肝硬変患者さんでは、低栄養の割合は50〜70% という報告があります[7]。また、サルコペニアの有病率は48.1%と報告されています[8]。

肝不全状態の患者さんでは、種々の機序で低栄養やサルコペニアが誘発されます。炎症性サイトカインの血中濃度が高くなるため、エネルギー消費量が健常者よりも120%以上亢進しています。炎症性サイトカインは食欲中枢にも影響を及ぼし、食欲を低下させます。肝臓でグリコーゲンの貯蔵ができないため、筋肉を分解してエネルギーを得ようとします。肝機能低下によって分解できなくなったアンモニアを分解するには、骨格筋を分解して得られるBCAAが利用されます。そのため、骨格筋はさらに減少していきます。肝臓は他にも一部のホルモンや抗酸化酵素の生成も行なっています。肝機能低下によって男性ホルモンであるテストステロンが減少するため、筋たんぱくの合成能力が低下します。また、抗酸化能力が低下するため、酸化ストレスが増加し、筋たんぱくの異化が亢進します。このように、肝臓は機能が多岐に渡るため、肝不全状態になることで様々な機序を経て低栄養やサルコペニアが誘発されます。

肝不全状態の患者さんでは、エネルギー消費量が増えているため、より多くのエネルギーを摂取する必要があります。しかし、グリコーゲンの貯蔵ができないため、食事の間隔が空いてしまう夜間に飢餓状態になり、筋たんぱくが分解されてしまいます。そのため、肝不全状態の患者さんでは、日中の食事を少し減らし、減らした分を就寝前に摂取するlate everning snack(LES)と呼ばれる栄養療法を用いられることがあります。また、アンモニアの分解のためにBCAAが消費されるため、BCAAの摂取量を増やす必要があります。食事で増やすことが難しい場合には、サプリメントやBCAA製剤を併用することも必要になる場合があります。

おわりに

今回は呼吸器、腎臓、肝臓の機能が低下した患者さんの低栄養、サルコペニアについて見てきました。内部障害の患者さんは低栄養やサルコペニアの高リスク状態であるため、栄養状態やサルコペニアの状態を考慮したリハビリテーションを行う必要があります。

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参考文献

[1] Bernardes, et al. JPEN J Parenter Enteral Nutr. 2022 May 5. 

[2] Sepúlveda-Loyola et al. J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2020 Oct;11(5):1164-1176

[3] Lindh et al. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis. 2017 Jan 17;12:331-337

[4] 静脈経腸栄養ガイドライン 第3版

[5] Carrero et al. J Ren Nutr. 2018 Nov;28(6):380-392

[6] Souza et al. PLoS One. 2017 Apr 27;12(4):e0176230

[7] Cheung et al. Clin Gastroenterol Hepatol. 2012 Feb;10(2):117-25

[8] Kim et al. PLoS One. 2017 Oct 24;12(10):e0186990