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理学療法で用いる評価の方法と結果の妥当性 筋力① 握力

握力、筋力、MDC|2023.10.20|最終更新:2023.10.20|理学療法士が執筆・監修しています

序文

 前回までは主なバランス能力の評価方法とそのMCID、MDCについてまとめてきました。今回からは、筋力について、主な評価方法とMCID、MDCについてまとめていきます。その中で、今回は握力について見ていきます。握力は握力計があればどこでも短時間に測定可能で、様々な能力や予後との関連性も示されています。正しい評価方法と評価結果が持つ意味をまとめていきます。

本記事でわかること

✅ 握力は様々な予後と関連している

✅ 握力測定には日本ではスメドレー式、海外では油圧式が主流

✅ 握力のMDC、MCIDは疾患によってバラつきがある

握力と予後

 握力は全身の筋力を反映する指標として用いられており、様々な予後との関連性が示されています。17か国の地域在住高齢者を対象とした調査では、握力低下は追跡期間中央値4年間の全死因の死亡率、心血管死亡率、非心血管死亡率、脳卒中のリスク増加と関連していたことが報告されています[1]。ドイツの国民調査に登録されている一般成人(19-75歳)を対象とした調査では、握力の3年および6年生存率のカットオフ値を男性29kg、女性18kgをすると、3年生存率は男性で感度51.9%、特異度80.9%、女性で感度54.2%、特異度82.9%、6年生存率は男性で感度45.5%、特異度84.9%、女性で感度36.4%、特異度83.8%だったことが報告されています[2]。地域在住高齢者を対象とした34本の研究のメタ解析では、握力が高いほど認知機能、身体機能、移動能力、死亡率の予後が良好であることが報告されています[3]。7本の研究、23480人の心血管疾患患者さんを対象としたメタ解析では、握力が高いほど心血管死亡、全死因の死亡、心不全による入院の危険性が低くなることが報告されています[4]。回復期リハビリテーション病棟の脳卒中患者さん699人を対象とした調査では、自宅退院を予測する握力のカットオフ値は男性15.1kg、女性9.5kgだったことが報告されています[5]。高齢の大腿骨近位部骨折術後患者さん105人を対象とした調査では、術後7-10日の握力が6カ月後のFIMの点数と正相関していたことが報告されています[6]。外来のCOPD患者さん116人を対象とした調査では、握力が強いほど筋肉量、肺機能、6分間歩行距離が高いことが報告されています[7]。

 以上のように、握力は様々な疾患で、様々な因子と関連していることが報告されています。ここで紹介した報告はごく一部で、まだ多くの報告がなされておりますので、興味のある方は調べて見てください。

握力の測定方法

準備物

  • 握力計(文科省の新体力テストではスメドレー式推奨。海外ではJamar式(油圧式)が多い。

測定方法

スメドレー式

  • 直立姿勢で両足を左右に自然に開き、腕も自然に下げる。
  • 握力計の表示を外側にして、示指のPIP関節が直角になるように握り幅を調節する。
  • 握力計が衣服に触れないように、力いっぱい握りしめる。
  • 左右交互に2回ずつ測定し、左右それぞれの良い方の記録を採用。

jamar式握力計

  • 体幹、骨盤、膝関節が直角になるように椅子に座る。
  • 肩関節内転、回旋中間位、肘関節90度屈曲、前腕中間位、手関節尺屈0-15度で保持する。
  • 握力計を前腕と一直線になるように持つ。
  • 3回測定し、平均値を採用する。

注意点

握力測定時に、力を入れようとして被験者が握力計を振り回すようなことがないように注意する。

握力のMDC、MCID

高齢者

 要介護/要支援で外来リハビリテーションを受けている高齢患者を対象とした調査では、握力のMDCは男性3.2kg、女性2.4kgだったことが報告されています[8]。

 介護施設に入所している高齢者を対象とした調査では、握力のMDCは認知障害がないグループで利き手3.5kg、非利き手2.9kg、軽度認知障害があるグループでは利き手2.29kg、非利き手2.21kgだったことが報告されています[9]。

中枢神経疾患

 リハビリテーション病院の脳卒中片麻痺患者を対象とした調査では、握力のMCIDは利き手で5kg、非利き手で6.2kgだったことが報告されています[10]。

 軽度から中等度の運動機能障害を有するパーキンソン病患者を対象とした調査では、血圧計を用いた握力測定によるMDCは右手7.06kg、左手7.40kgだったことが報告されています[11]。

呼吸器疾患

 COPD患者を対象とした調査では、握力のMDCは1.64kgだったことが報告されています[12]。

整形外科疾患

 橈骨遠位端骨折に対して掌側ロッキングプレート固定術を受けた患者を対象とした調査では、術後1年の握力のMCIDは6.5kgだったことが報告されています[13]。

おわりに

 今回は握力について、測定方法とMDC、MCIDについてまとめました。握力はどのフェーズでも有用な指標なので、意識障害や手指変形など測定できない状態でなければ、積極的に測定することをおススメいたします。しかし、MDCやMCIDに関してはまだまだ研究数が少ないので、今後の発展に期待です。

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参考文献

[1] Leong, et al. Prognostic value of grip strength: findings from the Prospective Urban Rural Epidemiology (PURE) study. Lancet. 2015 Jul 18;386(9990):266-73.

[2] Huemer, et al. Grip strength values and cut-off points based on over 200,000 adults of the German National Cohort – a comparison to the EWGSOP2 cut-off points. Age Ageing. 2023 Jan 8;52(1):afac324.

[3] Rijk, et al. Prognostic value of handgrip strength in people aged 60 years and older: A systematic review and meta-analysis. Geriatr Gerontol Int. 2016 Jan;16(1):5-20.

[4] Pavasini, et al. Grip strength predicts cardiac adverse events in patients with cardiac disorders: an individual patient pooled meta-analysis. Heart. 2019 Jun;105(11):834-841.

[5] Matsushita, et al. Predictive ability of hand-grip strength and muscle mass on functional prognosis in patients rehabilitating from stroke. Nutrition. 2022 Oct;102:111724.

[6] Beloosesky, et al. Handgrip strength of the elderly after hip fracture repair correlates with functional outcome. Disabil Rehabil. 2010;32(5):367-73.

[7] Wu, et al. Handgrip strength is associated with dyspnoea and functional exercise capacity in male patients with stable COPD. Int J Tuberc Lung Dis. 2019 Apr 1;23(4):428-432.

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[11] Silva, et al. Validation and reliability of a modified sphygmomanometer for the assessment of handgrip strength in Parkinson’s disease Braz J Phys Ther. 2015 Mar-Apr;19(2):137-45.

[12] Karagiannis, et al. Test-Retest Reliability of Handgrip Strength in Patients with Chronic Obstructive Pulmonary Disease. COPD. 2020 Oct;17(5):568-574.

[13] Kim, et al. What is the minimum clinically important difference in grip strength? Clin Orthop Relat Res. 2014 Aug;472(8):2536-41.