低栄養、GLIM基準、アセスメント|2022.11.11|最終更新:2022.11.11|理学療法士が執筆・監修しています
低栄養の評価
前回までは主要な栄養素についてみていきました。今回からはリハ栄養の評価についてみていきます。今回と次回は低栄養の評価について記載していきます。
✅ 低栄養の国際基準としてGLIM基準が作られた
✅ スクリーニング検査では信頼性、妥当性が確認されているツールを用いる
✅ 低栄養のアセスメントは包括的に評価することが重要
GLIM基準とは
GLIM(Global Leadership Initiative on Malnutrition)基準は、2018年に公表された低栄養を判定するための国際基準です[1]。GLIM基準が公表される以前は、低栄養の判定基準は各栄養関連の団体で使用している指標にバラつきがあり、混乱を招いていました。
そこで、アメリカ、ヨーロッパ、アジア、南米の団体により、全世界共通の低栄養の判定基準としてGLIM基準が開発されました。
GLIM基準は、始めにスクリーニング検査で低栄養の疑いがある対象者を抽出し、その後にアセスメントとして表現型(体重減少、低体重、筋肉量減少)と原因(食事摂取量減少または消化吸収機能低下、疾患・炎症)が1つずつ当てはまった場合に低栄養と判定されます。スクリーニングとアセスメントについては、以下で詳細をみていきます。
低栄養のスクリーニング検査
GLIM基準では、信頼性、妥当性が確認されているスクリーニングツールを用いることが推奨されています。ここでは、主なスクリーニングツールを紹介します。
MNA-SF
MNA-SF(Mini Nutritional Assessment Short-Form)は採血や機器を用いた測定を必要としない質問紙形式のスクリーニングツールです[2]。高齢者に特化したツールであり、食事摂取量の変化、体重の変化、移動能力、精神的ストレスや急性疾患の有無、精神心理学的問題の有無および重症度、BMIまたは下腿周径の6項目で構成されています。最高得点は14点で、8~11点は低栄養リスクあり、7点以下で低栄養と判定されます。
MUST
MUST(Malnutrition Universal Screening Tool)はイギリスの静脈経腸栄養学会が開発したスクリーニングツールです[3]。元々は在宅患者向けに作成されましたが、病院や施設での有用性も認められています。
BMI、体重減少、急性疾患および食事摂取量減少の有無の3項目で構成されており、それぞれに0~2点(点数が高い方が不良)の点数が割り振られています。3項目の合計点が1点で中等度リスク、2点以上で高リスクと判定されます。
GNRI
GNRI(Geriatric Nutritional Risk Index)は元々使われていたNRIというスクリーニングツールを高齢者用に改良したものです[4]。
現在の体重、理想体重、血清アルブミン値を計算式【14.89×血清アルブミン値(g/dl)+41.7×(現体重/理想体重)】に当てはめることで算出できます。スコアが82未満で重度リスク、82~92で中等度リスク、92~98で軽度リスクと判定されます。
他にもいくつかスクリーニングツールは存在していますが、上記の3つは研究論文でも用いられることが多く、簡便に使用できるので実用性は高いと思います。
低栄養のアセスメント
GLIM基準のアセスメントは表現型(体重減少、低体重、筋肉量減少)と原因(食事摂取量減少または消化吸収機能低下、炎症)で行われます。
体重減少のペースの把握
体重減少は6か月以内では5%以上、6か月以上では10%以上の減少がある場合に「体重減少あり」と判定されます。
ただ単に数値が下回っているというだけでなく、病気や怪我の初期段階で体重減少のペースを認識すること、多くの患者さんが医療機関を受診する前に体重が減少している可能性が高いことを認識することが大切です。
低体重
低体重は欧米とアジアで人種による違いを考慮し、基準値が異なっています。アジア人の基準では70歳未満では18.5kg/m2未満、70歳以上では20kg/m2未満で「低体重あり」と判定されます。
ただし、BMIの基準値はまだまだ議論の余地があることが指摘されており、今後の研究によって数値が変化する可能性があります。
筋肉量の減少
筋肉量減少は生体インピーダンス法(BIA)、二重エネルギーX線吸収法(DXA)、CT・MRI、下腿周径など測定方法が複数推奨されています。それぞれの測定方法で低筋肉量の基準値が設けられており、その基準値を下回った際に「筋肉量減少あり」と判定されます。機器を用いた測定が最も推奨されますが、測定環境によっては機器を用いることが困難な場合には下腿や上腕の周径を代替法として用いることも可能とされています。
食事摂取量の減少
食事摂取量減少は直近1週間で食事摂取量が必要量の50%未満しか摂取できていない場合に「食事摂取量減少あり」と判定されます。食事摂取量はただ量が減っているかどうかをみるだけでなく、口内環境の悪化、薬の副作用、うつ病、嚥下障害、胃腸の不調、拒食症、不十分な栄養サポートなど関連する因子を考慮することが推奨されています。
消化吸収機能の低下
消化吸収機能低下は、消化吸収に影響を与える胃腸障害がある場合に「消化吸収機能低下あり」と判定します。疾患では短腸症候群、膵臓機能不全、肥満手術後などが当てはまります。症状面では嚥下障害、吐き気、嘔吐、下痢、便秘、腹痛などが含まれます。
炎症
炎症は、炎症を伴う急性あるいは慢性疾患を有している場合に「炎症あり」と判定されます。急性疾患では重篤な感染症、熱傷、外傷、頭部外傷などが含まれます。慢性疾患では慢性心不全、慢性閉塞性肺疾患、関節リウマチ、慢性腎疾患、慢性肝疾患、がんなどが含まれます。炎症の指標としてはCRPが広く用いられていますが、CRPの使用は絶対ではなく支持的指標として用いることが推奨されています。
表現型 | 体重減少 | >5%/過去6ヶ月
>10%/6ヶ月以上 |
低体重
(BMI) | アジア人の基準値
<18.5(70歳未満) <20(70歳以上) | |
筋肉量減少 | BIA,DEXA,CT,下腿周囲長
それぞれの基準値 | |
原因 | 摂取量減少
消化機能低下 | 必要エネルギーの<50%/1週間
消化吸収に影響を与える胃腸障害 |
炎症 | 急性疾患or慢性疾患 |
おわりに
今回は低栄養の国際基準であるGLIM基準についてみていきました。GLIM基準は研究では使用頻度が増えてきていますが、現場レベルではまだまだ浸透していないのが現状ではないかと思います。
GLIM基準は国際基準でありますので、より質の高いリハ栄養管理を行うためにも、ぜひ使用して頂ければと思います。
本記事の執筆・監修・編集者
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地域在住高齢者では、70分/回×週2回×16週間の運動介入を行うと、プレフレイルの46%、フレイルの50%がそれぞれロバストやプレフレイルまで改善したそうです。https://t.co/E0fiqzFPr7
— Isao Uno(宇野勲)@リハ栄養学会2023実行委員長 (@isao_reha_nutri) June 2, 2022
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参考文献
[1] Cederholm et al. J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2019; 10(1): 207-217.
[2] Kaiser MJ, et al. J Nutr Health Aging. 2009; 13: 782-788.
[3] Malnutrition Action Group (MAG) (a standing committee of the British Association for Parenteral and Enteral Nutrition):The“ MUST” explanatory booklet.
http://www.bapen.org.uk/pdfs/must/must_explan.pdf
[4] Bouillanne et al. Am J Clin Nutr. 2005; 82(4): 777-83.