[no_toc]
エネルギー、消化吸収、糖代謝|2022.10.14|最終更新:2022.10.14|理学療法士が執筆・監修しています
各栄養素の基本‐糖質編-
前回まではリハ栄養の基本的な考え方とリハ栄養ケアプロセスについてみていきました。
今回からは、それぞれの栄養素についての基本的な役割などについてみていきたいと思います。
栄養素の初回は糖質から始めていきます。
✅ 糖質は重要なエネルギー源 ✅ 糖は筋肉と肝臓に多く貯蔵されている ✅ 糖は多くても少なくても危険 |
糖質の基本事項
糖質は人の体にとって重要なエネルギー源です。
摂取基準・目標値
糖質からは1g当たり約4kcalのエネルギーを得ることができます。
2020年版の日本人の食事摂取基準[1]では、糖質と食物繊維を合わせた炭水化物としての摂取目標が示されており、性別や年齢に関係なく、摂取エネルギー量の50~65%が目標値として設定されています。
もちろん、糖尿病などの疾患によって摂取量の目標値は異なってきます。
糖質が不可欠な身体器官
・脳
・神経組織
・腎尿細管
・精巣
・酸素不足状態の骨格筋
上記の脳、神経組織、赤血球、腎尿細管、精巣、酸素の供給が不足している状態の骨格筋などは
ブドウ糖(グルコース)しかエネルギーとして利用できないため、糖質の摂取量が不足すると各臓器がエネルギー不足状態になり、機能不全に陥る危険性があります。
※実際には、骨格筋や脂肪を分解してどうにかしてエネルギーを得ようとする生体反応が生じます。
糖質の消化吸収と貯蔵
糖質はグルコース(ブドウ糖)やフルクトース(果糖)などの単糖類、スクロース(ショ糖)やラクトース(乳糖)などの二糖類、でんぷんやグリコーゲンなどの多糖類に分類されます。
消化吸収と貯蔵の仕組み
いずれも、小腸上皮でそれぞれの分解酵素によって単糖類まで分解され、体内に吸収されます。吸収された糖質は、その多くがグリコーゲンの形で筋肉に約1200kcal分、肝臓に約400kcal分貯蔵されます[2]。
その他にも脂肪や血中、脳にも存在しますが、その量は筋肉や肝臓と比較すると微量です。
貯蔵されている糖質は、糖質の摂取量が不足した時や運動時に分解されてエネルギーとして使用されます。
マラソン選手など長時間の運動が必要なスポーツ選手では、試合中にエネルギー不足に陥らないようにすることを目的に、筋肉や肝臓内のグリコーゲン貯蔵量を増やす「グリコーゲンローディング(カーボローディング)」と呼ばれる食事法を行う選手もいます。
このように糖質の多くが筋肉内に貯蔵されるため、筋肉量が減少するサルコペニア状態の人では糖質を貯蔵する場所が減少するため、動作時にすぐにエネルギー不足に陥ってしまいます。
糖質の代謝
小腸で吸収された単糖類は、インスリンに依存しないで糖を輸送することができるGLUT2というタンパク質の働きによって門脈を経て肝臓に運ばれます。
グルコースはエネルギー源
単糖類のうちグルコースは、先述のように体内の多くの組織でエネルギー源として利用されます。
グルコースがエネルギー源として利用される際には、細胞の細胞質で解糖系という経路でエネルギーが産生されます。
その後、酸素が十分に供給されている好気的条件下であればクエン酸回路に入り、電子伝達系を経て大量のエネルギーが産生されます。
グルコースが脳に必要な理由
グルコースの消費量は、それぞれの組織によって異なります。
脳は1日に約100g(400kcal)のグルコースを消費すると言われており、基礎代謝量の約20%に相当すると言われています[2]。
脳は基本的に酸化的リン酸化反応によってエネルギーを得ているため、虚血状態に弱いです。そのため、少しの血流低下で脳機能は低下するため、心疾患や動脈疾患、起立性低血圧などで血流が少しでも減少すると、認知機能に影響を及ぼします。
グルコースが腎臓に必要な理由
腎臓もエネルギー消費量の約7%のグルコースを消費していると言われています。
脳と同様に酸化的リン酸化でエネルギーを得ているため、血流が減少することで機能低下を来しやすい組織です。心血管疾患や糖尿病による循環障害などで腎機能低下を合併しやすいのは、血流の減少に弱いことも影響しています。
グルコースが骨格筋に必要な理由
骨格筋は、無酸素運動時は解糖系によって主にグルコースをエネルギーとして利用します。
有酸素運動時は脂肪酸を分解してエネルギーを得ますが、グルコースが不足していると、脂肪酸の燃焼効率が約50%低下すると言われています。
糖質は供給と消費のバランスが重要
以上のように、糖質はエネルギー源として重要な役割を持っていますが、過剰に供給されたり消費量が減少したりして供給と消費のバランスが崩れ高血糖状態になると、下記のように様々な悪影響を及ぼします。
・免疫機能低下
・動脈硬化
・神経系への障害
例えば、高血糖状態が長く続くと免疫機能が低下し、感染症にかかりやすくなります。また、高血糖状態だと動脈硬化を進行させるため、様々な組織で血流障害が生じ、各組織が機能低下に陥ります。さらに、高血糖によって神経系も障害されるため、末梢神経系や自律神経系が障害されます。
このように、糖質は生命維持に重要な栄養素ですが、過不足が生じると様々な障害が生じる原因にもなり得るため、摂取量と消費量のバランスには注意が必要です。
糖質に関する研究は日進月歩
今回は糖質について取り上げました。
今回紹介した内容は、糖質に関することのごく一部であり、糖質に関係する研究は日進月歩で更新されています。
そのため、このブログの内容だけでなく、ご自身でも調べて頂ければ、より深く理解でき、知識が得られると思います。
本記事の執筆・監修・編集者
✅記事執筆者(宇野先生)のTwitterはこちら↓↓
地域在住高齢者では、70分/回×週2回×16週間の運動介入を行うと、プレフレイルの46%、フレイルの50%がそれぞれロバストやプレフレイルまで改善したそうです。https://t.co/E0fiqzFPr7
— Isao Uno(宇野勲)@リハ栄養学会2023実行委員長 (@isao_reha_nutri) June 2, 2022
関連する記事
✅ 前回記事はこちら
✅ 栄養に関する人気記事はこちら
あなたにおすすめの記事
参考文献
[1]厚生労働省. 日本人の食事摂取基準2020年版. 2020年.
[2]一般社団法人日本静脈経腸栄養学会編. 静脈経腸栄養テキスト 第3版. 2017年.