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理学療法で用いる評価の方法と結果の妥当性 歩行③ Time Up and Go テスト

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TUG、転倒リスク、MCID|2023.8.25|最終更新:2023.8.25|理学療法士が執筆・監修しています

序文

 前回は6分間歩行試験について、その測定方法と最小臨床重要変化量Minimal Clinically Important Difference(MCID))についてまとめました。今回はTime Up and Go テスト(TUG)についてみていきます。TUGについては、MCIDを調査した報告が限られているため、MDC(最小可検変化量:再テストなどの繰り返し測定により得られた2つの測定値の変化量の中で測定誤差の大きさを示したもの。MDC 以内の変化は測定誤差によるもので、それ以上の変化が測定誤差以上の変化と判断される)について調査した報告も紹介いたします。ただ、MCIDとMDCは同じような意味合いを持っていますが、MDCはあくまで計算上の「測定誤差を超えた変化」であり、MCIDの「患者さんの変化が有益だと言える変化」とは少し意味合いが異なるので、解釈には注意が必要です。

本記事でわかること

✅ TUGは転倒リスク以外の予後とも関連している

✅ TUGは限られた環境でも測定可能

✅ TUGのMCID研究はまだ少ない

TUGと予後

 TUGは様々な予後との関連性が報告されています。60歳以上の地域在住高齢者を対象とした調査では、TUGは全ての原因の死亡リスクの増加と関連していることが報告されています[1]。66歳の地域在住高齢者を対象とした調査では、TUGのタイムが遅いほど、平均追跡期間3.6年の虚血性心疾患、うっ血性心不全の発症率が高く、死亡率も高かったことが報告されています[2]。認知症の診断を受けていない地域在住高齢者を対象とした調査では、TUGのタイムが10秒以上の群は平均追跡期間3.8年でアルツハイマー型認知症、脳血管性認知症を発症するリスクが高かったことが報告されています[3]。TUGと転倒リスクの関連性を調査したシステマティックレビューでは、TUGが転倒歴と関連していることが報告されています[4]。

TUGの測定方法

準備

  • 片道3mの歩行路
  • 背もたれ・肘掛け付きで座面の高さが 44~47cmの椅子
  • ストップウォッチ
  • 折り返し地点の目印(コーンなど)

測定方法

  • 被験者は背もたれに背中をつけて座る。
  • 開始の合図とともに立ち上がり、折り返し地点を回って座るまでの時間を測定することを説明する。必要があれば、検者が実際にやって見せる。
  • 通常の歩行速度と最大歩行速度の2条件で測定する。
  • 歩行補助具を使用した際には、使用物品を記録に記載する。

注意点

  • 認知機能が低下している被験者の場合、方法が理解できず、正確な測定が困難な場合がある。
  • 体格によっては椅子の高さが合わない場合があるため、高さを調節できる椅子、もしくは座面が低い椅子と高い椅子を用意しておく。
  • 測定中に転倒しないように、検査者の立ち位置を調節する。
  • 前庭系や小脳系など平衡機能に左右差が生じる疾患、膝関節や股関節など片側性の下肢疾患を有している場合には、右回りと左周りを分けて測定する。

TUGのMCID、MDC

運動器疾患

 待機的脊椎手術を受けた腰椎変性椎間板患者を対象とした調査では、患者報告アウトカム測定値 (PROM)をアンカーとした場合にMCIDは2.1秒だったことが報告されています[5]。

 下肢関節の手術を受けた関節リウマチ患者を対象とした調査では、術後6か月後にTUGが3.7秒改善していることが、QOL(ED-5Q)の改善と関連していたことが報告されています[6]。

 TKA術後患者を対象とした調査では、TUGのMDCは2.27秒だったことが報告されています[7]。

地域在住高齢者

 DVDを用いた在宅運動プログラムを行った高齢者を対象とした調査では、意味がある改善と感じたTUGのタイムは3.4-3.5秒だったことが報告されています[8]。

脳卒中

 経頭蓋直流刺激を受けた慢性期脳卒中患者を対象とした調査では、TUGのMCIDは8秒であることが示されています[9]。

 外来で理学療法を受けている慢性期脳卒中患者を対象とした調査では、TUGのMDCは3.2秒だったことが報告されています[10]。

アルツハイマー型認知症

 アルツハイマー型認知症患者を対象とした調査では、TUGのMDCは4.09秒であることが報告されています[11]。

パーキンソン病

 外来のパーキンソン病患者を対象とした調査では、TUGのMDCは3.5秒だったことが報告されています[12]。

おわりに

 今回はTUGの測定方法とMCID、MDCについてまとめました。TUGのMCIDはまだまだ調査数が少ないため、今後研究が進んでいくことで他の疾患や年代の数値が示されると思います。TUGについては、転倒予防の観点からカットオフ値が年代や病態ごとで示されていますので、患者さんの身体機能や転倒リスクなどの評価として有用で、広い測定環境を確保しなくても測定できるため、臨床現場で使いやすい評価指標であると思います。

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参考文献

[1] Ascencio, et al. Timed up and go test predicts mortality in older adults in Peru: a population-based cohort study. BMC Geriatr. 2022 Jan 18;22(1):61.

[2] Chun, et al. The Timed Up and Go test and the ageing heart: Findings from a national health screening of 1,084,875 community-dwelling older adults. Eur J Prev Cardiol. 2021 Apr 10;28(2):213–219.

[3] Lee, et al. Association Between Timed Up and Go Test and Future Dementia Onset. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2018 Aug 10;73(9):1238-1243. 

[4] Beauchet, at al. Timed Up and Go test and risk of falls in older adults: a systematic review. J Nutr Health Aging. 2011 Dec;15(10):933-8.

[5] Maldaner, et al. External Validation of the Minimum Clinically Important Difference in the Timed-up-and-go Test After Surgery for Lumbar Degenerative Disc Disease. Spine (Phila Pa 1976). 2022 Feb 15;47(4):337-342.

[6] Kojima, et al. Target setting for lower limb joint surgery using the Timed Up and Go test in patients with rheumatoid arthritis: A prospective cohort study. Int J Rheum Dis. 2018 Oct;21(10):1801-1808.

[7] Yuksel, et al. Assessing Minimal Detectable Changes and Test-Retest Reliability of the Timed Up and Go Test and the 2-Minute Walk Test in Patients With Total Knee Arthroplasty. J Arthroplasty. 2017 Feb;32(2):426-430.

[8] Vaz, et al. Prescribing tailored home exercise program to older adults in the community using a tailored self-modeled video: A pre-post study. Front Public Health. 2022 Dec 22;10:974512.

[9] Solanki, et al. Investigating the feasibility of cerebellar transcranial direct current stimulation to facilitate post-stroke overground gait performance in chronic stroke: a partial least-squares regression approach. J Neuroeng Rehabil. 2021 Jan 28;18(1):18.

[10] Alghadir, et al. Reliability, validity, and responsiveness of three scales for measuring balance in patients with chronic stroke. BMC Neurol. 2018 Sep 13;18(1):141.

[11] Ries, et al. Test-retest reliability and minimal detectable change scores for the timed “up & go” test, the six-minute walk test, and gait speed in people with Alzheimer disease. Phys Ther. 2009 Jun;89(6):569-79.

[12] Huang, et al. Minimal detectable change of the timed “up & go” test and the dynamic gait index in people with Parkinson disease. Phys Ther. 2011 Jan;91(1):114-21.