理学療法で用いる評価の方法と結果の妥当性　筋力④　30秒椅子立ち上がりテスト

30秒椅子立ち上がりテスト、筋力、MDC|2023.11.10|最終更新:2023.11.10|理学療法士が執筆・監修しています

序文

　前回は5回椅子立ち上がりテスト（FTSST）について、測定方法とMDCについてまとめました。今回は30秒椅子立ち上がりテスト（30CST）についてみていきます。FTSSTと30CSTは、いずれも下肢の筋力を評価する検査ですが、FTSSTは立ち座り動作が5回できないと数値として結果が出ないというデメリットがあります。一方、30CSTは30秒間で何回できるかなので、5回未満でも数値として結果を示すことができます。ただ、30秒間立ち座り動作を連続して行う必要があるため、FTSSTと比べて筋持久力も求められます。そういった違いを考慮した上で、FTSSTと30CSTを使い分けていただければと思います。ちなみに、日本では「CS-30」と略されることが多いですが、海外の論文では「30CST」と略されることが多いので、ここでは「30CST」を用います。

本記事でわかること

✅　30CSTは身体機能以外の指標とも関連がある

✅　評価は場所、時間、物が少なく実施可能

✅　有意な変化量は対象者によってバラつきがある

30CSTの関連因子

　30CSTは、前回紹介したFTSSTと同様に下肢機能やバランス能力を反映しており、様々な予後と関連しています。長期療養施設に入所している高齢者53人を対象とした調査では、30CSTは転倒回数と独立して関連しており、カットオフ値は7回で感度0.97、特異度0.35だったことが報告されています[1]。多発性硬化症患者37人を対象とした調査では、30CSTを行っている時の胸部加速度は転倒や錐体路障害を予測する因子だったことが報告されています[2]。地域在住高齢者14人を対象とした予備的調査では、30CSTの最初の20秒間の回数から膝伸展筋力を予測することができる可能性があることが報告されています[3]。地域在住高齢者678人を対象とした調査では、30CSTとサルコペニア関連しており、サルコペニアを予測する30CSTのカットオフ値は男性17回（感度75.0%、特異度71.7%）、女性15回（感度76.4%、特異度76.8%）だったことが報告されています[4]。COPD患者97人を対象とした調査では、30CSTが4回未満の人は11回以上の人と比較して、3年間の追跡期間中の死亡リスクが高くなることが報告されています（HR=3.31）[5]。心臓リハビリテーションを行っている心不全患者116人を対象とした調査では、平均追跡期間327日の再入院を予測する30CSTのカットオフ値は13.5回（感度54.3%、特異度59.1%）だったことが報告されています[6]。

　以上のように、30CSTは種々の身体機能面や死亡リスク、再入院といった予後との関連性が明らかになっています。

30CSTの測定方法

準備物

ストップウォッチ
高さ45cmで肘掛けがない椅子

測定方法

被験者は椅子に座り、胸の前で腕を組む。
開始の合図で起立と着座を30秒間できるだけ早く繰り返す。
30秒間の回数を記録。
60秒間の休憩後に2回目を行う。

注意点

テスト実施時に椅子が後方に倒れないように椅子を固定、もしくは別の検査者が支えておく。

30CSTの有意な変化量

整形疾患

　軽度の変形性膝関節症患者93人を対象とした調査では、30CSTのMDCは個人では2.5回、集団では0.3~0.4回だったことが報告されています[8]。

　人工股関節全置換術を施行された患者37人を対象とした調査では、30CSTの意義のある最小変化（SRD）は1.2回だったことが報告されています[9]。

　人工膝関節全置換術を施行された患者33人を対象とした調査では、30CSTのSRDは0.96回だったことが報告されています[10]。

中枢神経疾患

　多発性硬化症患者64人を対象とした調査では、30CSTのMDCは1.13回だったことが報告されています[11]。

がん

　高齢のがんサバイバー47人を対象とした調査では、30CSTのMDCは3回だったことが報告されています[12]。

おわりに

　今回は30CSについて、測定方法と有意な変化量についてまとめました。冒頭でも述べましたが、30CSTとFTSSTにはメリットとデメリットがありますので、どちらを選択するかは、対象者の特性に合わせて選択する必要があると思います。

本記事の執筆・監修・編集者

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地域在住高齢者では、70分/回×週2回×16週間の運動介入を行うと、プレフレイルの46%、フレイルの50%がそれぞれロバストやプレフレイルまで改善したそうです。https://t.co/E0fiqzFPr7

— Isao Uno（宇野勲）@リハ栄養学会2023実行委員長 (@isao_reha_nutri) June 2, 2022

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参考文献

[1] Applebaum, et al. Modified 30-second Sit to Stand test predicts falls in a cohort of institutionalized older veterans. PLoS One. 2017 May 2;12(5):e0176946.

[2] Tulipani, et al. The Sit-to-Stand Transition as a Biomarker for Impairment: Comparison of Instrumented 30-Second Chair Stand Test and Daily Life Transitions in Multiple Sclerosis. IEEE Trans Neural Syst Rehabil Eng. 2022:30:1213-1222.

[3] Smith, et al. Simple equations to predict concentric lower-body muscle power in older adults using the 30-second chair-rise test: a pilot study. Clin Interv Aging. 2010 Aug 9:5:173-80.

[4] Sawada, et al. The 30-s chair stand test can be a useful tool for screening sarcopenia in elderly Japanese participants. BMC Musculoskelet Disord. 2021 Jul 24;22(1):639.

[5] Höglund, et al. Six-Minute Walking Test and 30 Seconds Chair-Stand-Test as Predictors of Mortality in COPD – A Cohort Study. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis. 2022 Oct 4:17:2461-2469.

[6] Teramatsu, et al. Using Physical Function to Predict Hospital Readmission within 1 Year in Patients with Heart Failure. Prog Rehabil Med. 2019 Oct 19:4:20190018.

[7] Lein Jr, et al. Normative Reference Values and Validity for the 30-Second Chair-Stand Test in Healthy Young Adults. Int J Sports Phys Ther. 2022 Aug 1;17(5):907-914.

[8] Gill, et al. Thirty second chair stand test: Test-retest reliability, agreement and minimum detectable change in people with early-stage knee osteoarthritis. Physiother Res Int. 2022 Jul;27(3):e1957.

[9] Unver, et al. Test-retest reliability of the 50-foot timed walk and 30-second chair stand test in patients with total hip arthroplasty. Acta Orthop Belg. 2015 Sep;81(3):435-41.

[10] Unver, et al. Reliability of the 50-foot walk test and 30-sec chair stand test in total knee arthroplasty. Acta Ortop Bras. 2015 Jul-Aug;23(4):184-7.

[11] Özkeskin, et al. The reliability and validity of the 30-second chair stand test and modified four square step test in persons with multiple sclerosis. Physiother Theory Pract. 2023 Oct 3;39(10):2189-2195.

[12] Blackwood, et al. Physical function measurement in older long-term cancer survivors. J Frailty Sarcopenia Falls. 2021 Sep 1;6(3):139-146.