姿勢制御障害,動作分析,バランス|2022.06.01|最終更新:2023.12.21|理学療法士が執筆・監修しています
序文
理学療法士であれば誰もが知っている内容かと思います.
私は学生の頃に実習で初めてこの言葉を知り,学ばせて頂きました.
「姿勢制御」と聞くと「姿勢・動作分析」,「バイオメカニクス」「運動連鎖」など様々な言葉が浮かび上がると思います.
この分野はあまりにも広く,勉強する際も何から手を付ければいいか迷ってしまうかもしれません.
私もそうでした.
その為,今回は私が学んだ範囲で可能な限りまとめさせて頂きました.
姿勢制御・姿勢定位に興味をお持ちの方,学んでいる方に少しでも臨床に役立つ内容になれば幸いです.
そして,この内容は盛り沢山になると思われますので,私自身partがいくつまでになるか現時点では想像できていません(笑).
運動発現の流れ
人間の運動は上記の図のように,欲求・動機からプログラム,運動の実行,調整という流れで発現し,それに対して各種の神経系が関与しています.
運動の欲求,動機形成には大脳辺縁系,運動方略の形成には大脳連合系,運動プログラムの形成には運動領野,大脳基底核,小脳系,運動の実行には脊髄,末梢神経,筋が関わっています.
姿勢制御と姿勢定位って何が違うの?
皆さんはこのように思ったことはありますでしょうか.これは私がこの分野を勉強するにあたって疑問に感じたことです.「姿勢定位」という言葉を初めて教科書で見た時に「姿勢制御と何が違うの?」となりました.
そして私が調べて理解した結果として,姿勢制御の課題には空間での身体位置制御が含まれ,姿勢制御は①姿勢安定性(stability)②姿勢定位(orientation)の二つに分けられます¹⁾.
①姿勢安定性:制御して身体質量中心を支持基底面内におくこと.
②姿勢定位:ある運動課題に関して体節間相互の関係及び身体と環境との間の関係を適切に維持すること.
(「定位」とは…生物がその体を環境や空間内の特定の方向におくように,能動的に姿勢を定めること.※日本国語大辞典より引用)
つまり,姿勢定位とは姿勢制御という母集団の中の一つの標本という捉え方ができると思います.その上で私は姿勢定位について学ぶのであれば姿勢制御について学ばなければならないと感じました.
バランスの捉え方―バランスとバランス能力―
一般的には「バランス」という言葉が用いられていますが,我々PTは「バランス能力」という言葉を用いると思います.これは以下のように使い分けることができます.
バランス:観察される現象
バランス能力:バランスを担う身体能力
また,バランス能力において「姿勢制御」という言葉がしばしば用いられます.
そしてバランスは姿勢制御における姿勢安定性と捉えられ,支持基底面との関係で身体質量中心を制御する能力と定義されます.
バランス―姿勢制御とシステム理論―
姿勢制御における個体,環境,課題の相互作用
中枢神経系は自己調整システムをもち,姿勢制御は個体と課題,そして環境という3つの要素の相互作用で生じ,自己組織化して表出されるという考え方が支持されています.
姿勢制御のシステムモデル
単一要素に障害があっても他の要素が代償するという特徴があり,姿勢制御に関して各要素の相互作用や重み付けを変化させながら自己組織化し,環境へ適応していると考えられています.
バランスの理論的背景
バランスとは力学的な平衡状態を示し,身体重心(center of gravity : COG),足圧中心(center of pressure : COP),支持基底面(based of support : BOS)の関係が重要です.
バランス能力とは「体重心を適切な支持基底面に投影する能力」であり,COPがBOS内のどこに位置しているか,COPの移動軌跡をどのように制御しているかを観察することが大切です.
バランス―予測的姿勢制御と反応的姿勢制御―
日常生活において環境に合わせた動作や素早い動作を行うためには,随意運動を行う前に準備的な姿勢調節が必要になってきます.これが予測的姿勢制御というものであり,目的運動に先行して自動的に起こる準備的な姿勢調節です.
例えば,一側上肢を挙上する場合,上肢を挙上する前準備としてハムストリングスなどが活動する姿勢筋活動相があります.それから,実際に上肢を挙上する目的活動相があります.さらに上肢の挙上による姿勢の動揺を安定化させる代償活動相があります.これらの前者2相はフィードフォワード制御が関与し,後者はフィードバック制御が関与しているとされています.
バランス―バランス反応―
これから,よく知られている平衡反応を6つ程,紹介させて頂きます.
まずは,Shumway-Cookらが提示した,外乱刺激に対する筋応答の形式から3つの応答戦略を紹介します.
①足関節戦略(ankle strategy)
足関節を中心とした運動で反応します.
足底全体が床に接して安定している状態では主に足周囲の遠位筋が先行して応答します.
股関節戦略よりも運動制御に強い筋力を必要とする高度で複雑な反応です.
足関節戦略は足圧中心(COP)を調節する際の用語として使用されます.
②股関節戦略(hip strategy)
股関節を中心とした運動で反応します.
股関節を中心として上下で反対の回転運動をすることによって身体の重みで釣り合いをとります.
股関節戦略は身体重心(COG)を調節する際の用語として使用されます.
③ステッピング戦略(stepping strategy)
一歩踏み出して支持面を変化させる戦略
※ちなみにバランスを崩しそうになった際にしゃがみ込んで重心位置を低くして身体を安定させようとする反応を「垂直戦略(vertical strategy)」というそうです.例えば片脚立位保持の際に膝関節を屈曲させて(重心を低くして)バランスを制御する方もいらっしゃいますよね.
続いて,Klein-Vogelbachの運動学で用いられている運動制御の3つを紹介します.
①カウンターウェイト
身体の一部を重みとして利用し,バランスを取る反応です.
②カウンターアクティビティ
運動の拡がる方向に対して,拮抗する筋の活動でバランスを取る反応です.
③カウンタームーブメント
運動の拡がりとは逆の運動を起こし,同時に2つの動作を行うことで運動の拡がりを制御する反応です.
バランス―評価・治療戦略の考え方―
バランスがよいための条件
①安定性限界が大きいこと
②重心動揺が相対的に小さいこと
③重心位置が安定性限界の中央付近にあること
④動的(予測的)安定性限界が大きいこと
⑤重心位置の変化を予測して,適切な支持基底面をつくれること
これらの考え方や上記の図を参考にすると,評価・治療方法の選択(難易度設定)も考えやすいのではないでしょうか.
例えば,立位バランスの評価としては,開脚位,閉脚位,継ぎ足位,片脚立位というように段階的に評価をします.この中で,立位アライメント,立ち直り反応,平衡反応,運動連鎖の状況や代償に関しても観察することが重要です.
また,より客観的な立位バランス評価として,Functional Reach Test,Timed Up and Go test,Berg Balance Scale,BESTest,などのパフォーマンスに基づく臨床的な評価指標や重心動揺計,三次元動作解析装置,加速度計,などの測定機器を使用した研究的な評価指標を用いることも重要と考られます.
おわりに
Part1は主に姿勢安定性について執筆させて頂きました.今回はざっくりとした内容だと思われますので,脳画像や神経回路,個々の病態・機能障害などと照らし合わせながら考えていく必要があります.
今後はそれらの領域も含めながらお話できればと思います.次回も宜しくお願い致します.
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最後の森岡先生の言葉は本当にそうで
もし、自分が脳卒中になった場合
担当して欲しいと思うリハスタッフって限られてくると思うんですそして、自分をもし自分が担当すると考えた時
正直、まだ嫌だなあって思うんですこれが自己研鑽を本気で継続する理由の1つにはなると思うんです
— Goto🦎特徴が無いのが特徴です (@pt_reha) October 31, 2021
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参考文献
1)市橋 則明 編:運動療法学, 276, 文光堂, 2008.
2) Shumway-Cook A, Woollacott M (著) , 田中 繁, 高橋 明:モーターコントロールー運動制御の理論と臨床応用ー. 医歯薬出版, 東京, 1999.
3) 諸橋 勇:小脳系の理学療法.脳卒中理学療法の理論と技術.メジカルビュー社,東京,457-478,2013
4)Horak FB, Wrisley DM, et al.: The Balance Evaluation Systems Test (BESTest) to Diff erentiate Balance Defi cits. Phys Ther. 2009.
5)高草木 薫:大脳皮質・脳幹-脊髄による姿勢と歩行の制御機構. Spinal Surgery 27 (3) : 208-215, 2013.
6)冨田昌夫 : クラインフォーゲルバッハの運動学, 理学療法学, 1994, 21: 571-575.
7) 望月 久 : 協調性障害の理学療法―バランス能力の評価・バランス能力改善への考え方を中心に―, 理学療法の歩み18巻1号 2007, 8-13.