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姿勢制御障害の評価と治療戦略-姿勢定位障害とPusher現象-【Part3】

姿勢制御, Pusher現象, 評価|2022.06.15|最終更新:2023.12.21|理学療法士が監修・執筆しています

序文

前回のPart2では感覚系の中でもポイントとしている内容を執筆させて頂きました.今回からは「姿勢定位障害」について執筆していきたいと思います.

この記事でわかること
  • 姿勢定位障害の一つ,「Pusher現象」について
  • 垂直性の障害,視覚的フィードバックが有効と提唱された背景
  • Pusher現象の出現率は10~20%
3分で読めるよ

Pusher現象とは?

Pusher現象とは
・非麻痺側肢で自ら押す
・姿勢の矯正に抵抗する
・麻痺側への傾倒に無自覚
・非麻痺側への転倒恐怖感

この現象は臨床的に介助量を多くするという印象だけでなく,
Pusher現象を有する患者はそうでない患者と比較してADL(Barthel Index)が約半分となることが報告されています²⁾.
Pusher現象は患者の予後を大きく左右する因子であるため,早期の改善が求められます.

Pedersenら³⁾の研究にて,関連性を認めず,症候群という根拠にかけると報告があり,
現在は「contraversive pushing」「pusher behavior」と表現されることが多いです.

自覚的垂直判断―SVV・SPV・SHV―

いきなりかと思われますが,ここからSVV,SPVなどが時折出てきますので,先に説明させて頂きます.

自覚的視覚的垂直判断 (subject visual verticality : SVV)

自己身体に対する外部の物体がどの程度真っ直ぐになっているかという視覚的な要素を判断する能力.
SVVは主として視覚・前庭覚の障害が示唆されます.

自覚的身体的垂直判断 (subject postural verticality : SPV)

非視覚的に(閉眼で)自分の姿勢が垂直であるかどうかを判断する能力.
SPVは一般的に閉眼で,視覚的影響を取り除いた状態で実施されますが,開眼との違いをみることで,視覚以外の知覚要素をみているかを判断します.閉眼で異常がみられる場合は体性感覚・前庭覚の障害が示唆されます.

自覚的触覚的垂直判断 (subject haptical verticality : SHV)

外部環境である視覚的情報が完全に遮断され,身体部位とは異なる外部の物体定位を判断する能力.

Pusher現象―垂直判断と姿勢の関係性―

上記はKarnathら⁴⁾の
右半球損傷例(pushing群とコントロール群)のSPVの差異を確認した報告です.

Pusher現象を示す症例において

開眼時:ほぼ鉛直に定位
閉眼時:大きく非麻痺側へ偏倚(17.9°)

本研究で提示した5症例はSCPで平均5.8点と最重症のPusher現象を呈していたことに加え,すべて重度な半側空間無視(USN)を合併していました.
Pusher現象を示さない5症例のうち,4症例はUSNを示していました.

これらのことからも,前述したPedersenらの研究での「関連性を認めない」ということが裏付けられると思います.

また,本研究にて自覚的視覚的垂直判断(SVV)は障害されておらず,
視覚的フィードバックを用いた治療アプローチの有効性を提唱しています.

しかし,これらの中で「あれ?」となる部分があると思います.

そうです,Karnathらの報告では「非麻痺側へ偏倚」となっています.
我々が臨床でよく見る現象は非麻痺側ではなく、「麻痺側への偏倚」だと思います.

Perennouら⁵⁾
回復期の脳血管障害患者80例(pushing例やpushing・姿勢偏倚がない脳卒中群,pushingはないが姿勢偏倚はある脳卒中群など)を対象とした報告.

そのうち,6例のpusher現象を示す群(SCP:4.3点)についてSPVが約11°麻痺側へ偏倚していたと報告されています.

Fukataら⁶⁾ 急性期の脳血管障害患者43例(そのうちpusher10例・neglect10例・pusher&neglect11例を検討)を対象とした報告.

・SVVにおいてはneglectの有無が判断の動揺性に大きく影響した.
・SPVではpusher現象の有無が影響した.
・また,SPVの傾斜方向性は麻痺側へ偏倚していたと報告されています.

これらの研究報告からPusher現象の偏倚する方向は麻痺側が多いと考えていいと思います.

Pusher現象―出現率―

これまでのPusher現象の出現率に関する報告は1.5~63%までとさまざまですが,対象選定の条件,判定スケールの相違という要因が大きく影響していると考えられます.
ここでいくつかの報告をピックアップさせて頂きます.

・1000名を超える大規模な研究でリハ対象となる症例➡出現率9.4%⁷⁾
・下肢の麻痺を伴う脳卒中患者327名を対象      ➡出現率10.4%³⁾
・なんらかの運動機能障害を呈する患者105名を対象  ➡出現率18.1%⁸⁾
・下肢に運動機能障害を有した患者1099名を対象      ➡出現率14.2%⁹⁾

これらから,運動機能障害を有する脳卒中例の10~20%にPusher現象はみられるものと考えられています¹⁰⁾.

なお,Pusher現象を呈する者で下肢麻痺(片麻痺)のない症例は存在しないと言われています⁷⁾.
また,Pusher現象は左右どちらの半球損傷例でも出現しますが,右半球損傷例において出現率が高いと言われています⁷⁾.

おわりに

今回のPart3では,「Pusher現象とは?」,「垂直性」,「出現率」,について説明させて頂きました.

次回はPusher現象の経過・予後,責任病巣・脳画像についてのお話ができればと考えております.次回も宜しくお願い致します.

本記事の執筆・監修・編集者

✅記事執筆者(後藤先生)のTwitterはこちら↓↓

最後の森岡先生の言葉は本当にそうで

もし、自分が脳卒中になった場合
担当して欲しいと思うリハスタッフって限られてくると思うんです

そして、自分をもし自分が担当すると考えた時
正直、まだ嫌だなあって思うんです

これが自己研鑽を本気で継続する理由の1つにはなると思うんです

— Goto🦎特徴が無いのが特徴です (@pt_reha) October 31, 2021

✅記事監修(幸代表✅編集(てろろぐ

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✅ 姿勢制御障害の評価と治療戦略 前回記事はこちら


✅ 姿勢制御障害の評価と治療戦略 【Part1】はこちら

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参考文献

 

Pusher現象とは

1) Davies PM: Steps to follow: A guide to the Treatment of Adult Hemiplegia. Springer-Verlag, Tokyo, 1985.
2) Krewer C, Luther M, Müller F, Time course and influence of pusher behavior on outcome in a rehabilitation setting : a prospective cohort study. Top Stroke Rehabil 2013 ; 20(4) : 331-339
3) Pedersen PM, Wendell A, et al.: Ipsilateral pushing in stroke: incidence, relation to neuropsychological symptoms, and impact on rehabilitation. The Copenhagen Stroke Study. Arch Phys Med Rehabil. 1996; 77: 25‒28.

Pusher現象-垂直判断と姿勢の関係性-

4) Karnath H, et al:The origin of contraversive pushing : evidence for a second graviceptive system in humans. Neurology : 55 : 1298-1304, 2000.
5) Pérennou DA,et al:Lateropulsion, pushing and verticality perception in hemisphere stroke: a causal relationship? Brain 131:2401-2413,2008.
6) Fukata K, et al : Influence of unilateral spatial neglect on vertical perception in post-stroke pusher behavior. Neuroscience Lett : 131, 2401-2413, 2020.

Pusher現象出現率

7) Abe H, et al : Pleverance and length of recovery of pusher syndrome based on cerebral hemispheric lesion side in patients with acute stroke. Stroke 2012 ; 43 : 1654-1656
8) Baccini M, et al : Scale for contraversive pushing : cutoff scores for diagnosing pusher behavior and construct validity. Phys Ther 88 : 947-955, 2008.
9) 阿部 浩明:Contraversive. Pushingと脳画像情報. PTジャーナル 44 : 749-756, 2010.
10) 阿部浩明:姿勢定位と空間認知の障害と理学療法.脳卒中理学療法の理論と技術.メジカルビュー社,東京,457-478,2013.