会員登録はこちら

まずは14日間無料体験
すべてのコンテンツが利用可能です

【糖尿病・フットケア】理学療法と下肢切断の基本~大切断と小切断の違い~

[no_toc]

糖尿病, 切断, 内部障害|2021.10.05|最終更新日:2022.03.26|理学療法士が監修・執筆しています

大切断とは

Major amputationとも言われ、一般に見たことのある方も多い、馴染み深い切断といえます。
この切断をされた有名な方といえば、ゲゲゲの鬼太郎の著者水木しげるさん。

 

水木しげるさんは、先の戦争での怪我により上肢を切断され隻腕となりましたが、漫画家としてはご存知の活躍をされていますよね。

 

また、パラリンピックで有名な選手といえば、

車椅子バスケで銀メダルをとられ、大活躍された鳥海連志さん!!
鳥海さんも幼い頃に下肢切断をされ、パラリンピックでのあの活躍..素晴らしかったですよね…!!

・車いすバスケットボールや鳥海さんの生い立ちをまとめた記事はこちら

・鳥海さんのインスタURLはこちら

このように上肢・下肢を問わず、大切断にも様々な種類があります。

 

小切断とは

Minor amputationとも言われます。文字通り小さな切断ですが、
手指や足趾の役割は私たちが思う以上に重要なところがあります。

手は毎日使い、毎日目にするものですし、突指や骨折をしたときに困った経験がある方も多いですよね。

では、足の指はどうですか?

試しに足の指を上げて歩いてみたり、片足立ちをしてみてください。
思うように歩けなかったり、バランスがとりにくかったりすると思います。

相馬の論文でも足趾が前方への推進力に役割を果たしていることが示唆されていますし、
特に親指は足にかかる圧力を逃がすことにも重要な役割をしています。

簡単に足趾がなくなるデメリットを挙げるだけでも下記のような結果があります。

・片脚立位の安定性が下がる
足趾屈筋群と足圧中心動揺には有意な相関。 特に前後方向の安定性に寄与すると考えられる。
・歩幅が狭くなる
足趾屈曲力と反対側の歩幅に有意な正の相関を認めた。
足趾の屈曲筋力がスムーズな重心移動を確保し、対側の歩幅の増加につながった。
・転倒リスクの増大 
転倒群と非転倒群と比較し、足趾把持筋力、握力などに有意な差を認めた。
足趾把持力は、握力や膝伸展筋力、10m歩行時間、TUGtestとの相関を認めた。
加辺の論文より)

 

また、指がなくなるような状況も想像がつきにくいと思います。
日常で起こりうる原因を想像すると..

・工場で機械に巻き込まれて手指を失ってしまった。
・重いものが足に落ちてきた。

などの場面が想像されると思いますが、近年は別の理由でこの切断が増えているんです。

 

下肢切断の疫学〜最新の動向〜

では実際、最近の切断ってどうなんでしょうか?
大まかにまとめてみました。

 

こちらの水落先生の論文を参考にさせていただいているため、
是非気になった方はご覧ください。

水落によると
近年は交通・労働災害の減少、衛生環境の改善、予防医学、治療医療技術の進歩により、外傷、腫脹、感染による切断は減少し、血管原性切断の割合は増加している。

としています。

実際、日本の肢体不自由者数(※)の割合は
2001年  1,749,000人
2006年  1,760,000人 であり、肢体不自由者数は増えていることがわかります。

また、2001年〜2006年のデータではありますが、
日本における切断割合では、上肢切断が減り、下肢切断が増えていることがわかります。

水落の論文を元に作成)

 

また切断原因を比較してみると…


(大嶺らの論文を元に作成)

このことから、下肢切断の増加とともに、
末梢循環障害など内部障害由来の切断が増えていることが分かります。

 

一言まとめ

・切断には大きく分けて大切断と小切断がある。

・現在は下肢の切断割合が増加している。

・内部疾患を起因とした切断が増えている。

 

つまり、切断患者に対してコメディカルに求められる知識は、
運動学的視点(バイオメカニクス等)に加えて、
内部疾患(糖尿病や心血管等)に関する知識も必要となり、勉強内容も多岐にわたるのです。

今回は、この大切断と小切断の違いを通して、切断による影響の違いを知ってみてください。

 

大切断と小切断の違い

Q. なぜ血行状態をみるか

切断に至るリスクは様々ですが、WIfI分類(こちら)と言われる米国血管学会が発表した分類では

・創傷
・虚血
・足の感染症

が挙げられており、実際臨床でも基礎疾患は様々ですが、上記が原因となり切断に至ることが多いです。

そのため、血行状態は虚血の有無を把握することに繋がり、切断の回避につながります。

血行状態の評価をするのは、病院によって異なるとは思いますが、医師や臨床検査技師、看護師さんがすることが多いと思います。

しかし、運動療法が血行改善に深く関わっていることからも
理学療法士や作業療法士を含めたコメディカルが患者の血行状態を把握することは重要です。

 

Q.血行状態の評価方法は?

主に血行状態を確認する指標として
・皮膚灌漑血流圧 (Skin Perfection Preshire)
・足関節血流圧比(Ankle Brachial Pressure Index)
があります。

 

両者の特徴を簡単に説明すると

SPPとは…
皮膚レベルの微小循環の指標であり、毛細血管に血流がどの程度あるかわかる。任意の場所を測定可能。
(金沢循環器病院HPより引用 こちら)

 

ABIとは…
ABIは、下肢動脈の狭窄・閉塞を評価する指標です。上腕と足首の血圧から算出されます。ABIは非侵襲的な検査で数値として評価できるので、PAD患者の早期発見に有用です。PAD(末梢動脈疾患)は、心血管疾患や脳血管疾患など他臓器障害との合併が多く見られることからも、早期発見が重要です。 
(フクダ電子HPより引用 こちら

 

基準値
SPP:30.0mg/dl〜40.0mg/dl以下の場合、虚血・重症下肢虚血を(CLI)を疑う。
ABI:0.90以下は異常値と判断し、下肢閉塞性動脈硬化症(PAD)を疑う
(血管機能の非侵襲的評価法に関するガイドライン(JCS2013)を参照 こちら)
(末梢閉塞性動脈疾患の治療ガイドライン(2015年改訂版)を参照 こちら)

となっています。
実際、臨床現場ではこの血行状態の評価を行った後に、治療の選択が行われます。

Q.下肢の重要な血管ってどこ?血行再建ってなに?

上記評価後、基本的に血管内に狭窄を認めた場合、運動療法と薬物療法が併用される治療が一般的です。
それでも十分に血行再建が認められなかった場合、
血行再建術(Endo Vascular Treatment:EVT)という血管内の詰りを改善するための手術が適応になります。

血管内治療(EVT)が行われる重要な血管
・大動脈腸骨動脈領域
・総大腿動脈領域
・浅大腿膝窩動脈領域
・膝窩動脈領域

そのため、どの血管がどの筋を栄養しており、狭窄や血行再建によって運動能力にどうような影響がでやすいのかを把握しておくことは、患者さんに間欠性跛行などの歩行異常を認めた際の論拠となりえます。

切断部位

では、切断を余儀なくされた場合、どこで切断が行われるでしょうか。

 

大きく分けると、
大切断:足関節以上の切断
小切断:足関節以下の切断
となります。

さらに細かい区分で例を挙げると、
~大切断~
大腿部、膝関節部、下腿部、
足関節部 etc..

~小切断~
中足骨部、中足指節間関節部、
末節骨部 etc..

実際の切断高位は壊死や感染の範囲や深さによって様々ですが、
大まかにこのような形で分けられています。

 


切断にあたって、どの筋や血管に侵襲を受けているかしっかりと認識しましょう。

 

切断後の再切断率・死亡率

臨床現場では、1度切断を行っても、2度3度と入院してしまう方も多く、
その中には再切断を余儀なくされる方、最悪の場合死亡してしまう方もいます。

そのため、ここでは切断高位別の再切断率と死亡率の比較をみていきます。
        Endoh SらCasciniらの論文を元に作成)

これを見て高いと感じるでしょうか?低いと感じるでしょうか?
あまり想像がつかないですよね…

 

では、再切断率からみてみましょう。

小切断の方が大切断よりも高いですよね。これはなぜだと思いますか?

これは足趾の切断など軽度の切断は、
末梢であるために虚血状態になりやすかったり

神経障害がある方は、
足趾の感覚鈍麻によって外傷のリスクが大切断より高くなったりするためです。

また、高位の切断は小切断と比較して治癒率が高いため、
再切断となりにくいことも理由の1つです。

 

死亡率はどうでしょうか。
死亡リスクが高いことで知られる癌の5年相対生存率を参考にみてみます。

5年相対生存率とは

あるがんと診断された場合に治療でどのくらい生命を救えるかを示す指標の一つで、
異なる集団や時点などを比較するために慣例的によく用いられます。
あるがんと診断された人のうち5年後に生存している人の割合が、日本人全体*で5年後に生存している人の割合に比べてどのくらい低いかで表します。
100%に近いほど治療で生命を救えるがん、0%に近いほど治療で生命を救い難いがんであることを意味します。
データソース:人口動態統計(厚生労働省大臣官房統計情報部)
出典  :国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(人口動態統計)こちら

がん5年相対生存率【2009~2011】

全部位

男性:62.0%
女性:66.9%
生存率の低いことで知られる膵臓癌では…
男性:8.9%
女性:8.1%
となっています。

これを見ると、切断患者さんの死亡率の高さに驚きませんか?

もちろん切断患者さんの死亡原因は様々ですが、
切断患者さんは癌患者さんと同等かそれ以上の死亡リスクを抱えているということになります。

 

また、切断高位別に比較すると…

大切断患者さんほど糖尿病の血糖コントロールが悪かったり、
透析患者さんの割合が高かったりするため、合併症のリスクや感染のリスクも高いです。

そのため、死亡率も上がってしまう傾向にあります。

Serizawaらの論文によれば、血液透析をしている患者さんは死亡率も高い傾向にありました。

このように、切断後リハビリをして歩けるようになったから終わりではなく、
患者さんがどのような経過をたどり、再切断や死亡リスクとなる因子を抑えて
地域に戻るのかを考えていく必要があるのです。

 

まとめ

大切断と小切断の違いがわかったでしょうか?

切断に至るということは、

医療を尽くしてなお、切断をしなければ、
生命を脅かしてしまうほどに身体・足の状態が悪化している
ということです。

糖尿病を始めとする基礎疾患が増加している現代において、
足病を抱えるリスクのある方も増加しており、切断へ至るリスクも増加しています。

この大切断と小切断の違いを知ることを通して、
切断患者さんの現状の一端をお伝えできたのではないかと思います。

しかし残念ながら、この分野においてのエビデンスはまだまだ少ないです。
そして問題なのはそれに対して、内部障害をもつ患者さんは増えているということです。

今後、
理学療法士を含めコメディカルの介入が必要な場面はもっと増えると考えられますし、
単純な身体機能の改善にとどまらないアプローチが必要になります。

今後どのようなアプローチができるのか、
チームとしてどのように貢献できるのかを考えていかなくてはいけません。

一緒に頑張りましょうね!
臨床に彩りを!

 

今回の記事担当者

✅記事編集(てろろぐ)・監修(幸代表

✅記事執筆(てろろぐ

 

関連する記事

✅糖尿病に関連する記事はこちら

✅リハオンデマンドで人気の記事はこちら

 

 あなたへのおすすめ記事

 

参考文献

相馬正之:歩行時のToe clearance と足趾把持力について-転倒予防の観点から. Japanese Journal of Health Promotion and Physical Therapy 2016; Vol6: 1-7

加辺憲人:足趾の機能. 理学療法科学. 2003; 18(1):41-48.

水落和也:切断の疫学-最新の動向-. Jpn J Rehabil Med. 2018;55:372-377.

Ohmine S, Kimura Y, Saeki S, Hachisuka K. Community-based survey of amputation derived from the physically disabled person’s certification in Kitakyushu City, Japan. Prosthet Orthot Int. 2012 Jun;36(2):196-202.

Cerqueira LO, Duarte EG, Barros ALS, Cerqueira JR, de Araújo WJB. WIfI classification: the Society for Vascular Surgery lower extremity threatened limb classification system, a literature review. J Vasc Bras. 2020 May 8;19:e20190070.

山科章, 苅尾七臣, 他;[ダイジェスト版]血管機能の非侵襲的評価法に関するガイドライン,循環器の診断と治療に関するガイドライン(2011-2012年度合同研究班報告):136-138.

宮田哲郎, 赤澤宏平, 他;末梢閉塞性動脈疾患の治療ガイドライン(2015年改訂版),2014年度合同研究班報告:15-42.

Endoh S, Yamana H, Nakahara Y, Matsui H, Fushimi K, Yasunaga H, Haga N. Risk Factors for In-hospital Mortality and Reamputation Following Lower Limb Amputation. Prog Rehabil Med. 2017 Dec 26;2:20170015.

Cascini S, Agabiti N, Davoli M, Uccioli L, Meloni M, Giurato L, Marino C, Bargagli AM. Survival and factors predicting mortality after major and minor lower-extremity amputations among patients with diabetes: a population-based study using health information systems. BMJ Open Diabetes Res Care. 2020 Jul;8(1):e001355.

国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(人口動態統計).https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html(2021年10月4日引用)

Serizawa F, Sasaki S, Fujishima S, Akamatsu D, Goto H, Amada N. Mortality rates and walking ability transition after lower limb major amputation in hemodialysis patients. J Vasc Surg. 2016 Oct;64(4):1018-25.

(この記事は理学療法士が監修・執筆しています)