新人, 起立, 回復期|2020.11.21|最終更新日:2022.03.12|この記事は理学療法士が監修・執筆しています
座位から立位への姿勢の変化は、ベッドから車椅子への移乗や、トイレへの移乗など、日常生活動作と深く関連する動作です。起立、着座が自立することによって、日常生活の範囲は格段に広がります。また、歩行にも関わっており、立ち上がらなければ歩くことが出来ません。よく実施する歩行機能評価の一つであるTUGでも椅子からの立ち上がり、歩行、方向転換、着座の複数の動作を評価することからも、起立・着座は歩行に大きく関与していると考えています。
これらから起立・着座の動作分析は重要であると考えていますが、実際にどこを見て、評価して、治療に繋げるかは悩む時が多いです。「問題点だな」とは思いますが、何が原因なのかは知識・技術、そして経験が必要であると思っています。もちろん私も原因が分からない時があります。今回は分からないと思ったときや悩んだ時の話を踏まえながら執筆していきたいと思います。
今回は起立動作に着目して執筆させて頂きます。
起立動作の運動パターン
①momentum strategy(運動量戦略)
私は立ち上がる時、体重を後方に移動させ、足を少し浮かすような動作をして立つ時があります。つまり、勢いを利用した立ち上がりです。身体重心を前方へ加速させて立ち上がる運動戦略であり、身体重心が足部で作られる支持基底面内に入る前に臀部が座面から離れるが、身体重心には前方に加速する勢いがついているため、後方へ転倒せずに立ち上がることが出来ます。
②stabilization strategy(安定戦略)
はじめに股関節を屈曲させて上半身を大きく前傾させ、身体重心を足部で作られる支持基底面内に入れてから立ち上がる運動戦略。「お辞儀をするように」と動作指導でよく聞かれると思いますが、これは「お辞儀=股関節を屈曲させて前傾姿勢をとる」というstabilization strategyでの動作を促していると考えています。
③上肢で代償する運動パターン
起立動作が困難な患者さんで、上肢支持により引っ張って立ち上がるような運動パターンを選択することもしばしばあります。これは身体重心を前方に移動させることが困難であり、後方への転倒を防ぐために上肢で代償する運動パターンです。
理学療法介入にて
患者さんは主にゆっくりとした立ち上がりであり、stabilization strategyでの動作が多いと思います。臨床では、起立練習の一回目にて第1相の重心の前方移動期に骨盤前傾、下腿前傾が不十分となり、臀部離床期で失敗する場面をよく見かけます。私見ですが、これは最初の一回目ではmomentum strategyでの動作パターンで遂行するからだと思っています。その為、二回目以降はstabilization strategyでの動作パターンで遂行し、成功する方が多いです。
これは小脳による調節で「意図した運動」と「実際に行った運動結果」の誤差を検出し、長期抑圧に基づいてその誤差を減少させる「誤差学習」だな~なんて考えています(^^;。
また、上肢支持無しでは動作困難となる患者さんに対しては上肢支持有りにて起立練習を実施します。しかし、ここで難しいと思うことは上肢依存が強いと体幹・下肢の筋活動低下、アライメント不良(主に脊柱後弯、骨盤後傾)に繋がるのではないかということです。
私はまず、指示のみで修正可能か、身体介助が必要かを評価します。身体介助が必要な場合はどの相に必要なのかも確認します。
例として、第1相では前傾の不十分がよく原因として考えられると思います。この時に座位姿勢を見ると肩甲骨外転、胸椎や腰椎の屈曲、骨盤後傾により後方重心となっている場合が多いと思います。これは立ち上がるために必要な体幹や下肢の抗重力伸展機能を活性化することを阻害するため、臀部離床が困難になります。そこで私は肩甲骨を内転に誘導(徒手にて肩甲骨+僧帽筋中部線維を内転方向に、そして脊柱伸展を促すために指を軽度下方へ※この時に指圧かけすぎないように手掌全体で動かすように)することで運動連鎖として脊柱の伸展を促しながら骨盤前傾を誘導します。これは骨盤前傾とともに胸椎屈曲強めないように(円背の増悪予防)+腰椎屈曲を強めないように(腰椎屈曲位で大腰筋が活動すると腰椎屈曲を強めてしまうため)するためです。
また、誤学習を促進しないように注意深く介入しなければなりません。しかし、良肢位で実施できているか、環境設定、介助方法は正しいか、より良い方法はないか等、新人セラピストとして分からないことは多々あります。これらの場合、私は写真や動画を撮影し(患者さんから許可をいただければ)、客観的に見たり、先輩セラピストに相談したりするようにしています。
ADLに着目した起立動作
やはり「代償」と聞くと、代償しない運動パターンで練習し、獲得したいと考えてしまいますが、退院後のADLを考えると上肢支持有りで安全に実施できる方が望ましい場合もあります。回復期にいる私は退院時FIMを推測し、目標設定や治療プログラムを立案・実施します。その為、自立をゴールにするのか修正自立、見守り、要介助をゴールにするのかで、治療内容・方法を考えなければなりません。また、本人・家族のhopeや病態、年齢、入院前ADL、入院期間、退院先なども考慮し、起立練習を筋力増強目的に実施するのか、ADLの自己動作拡大目的に実施するのかなど、臨機応変に対応しなければなりません。例として、ADL向上目的として修正自立の獲得を目指している場合は机や手すり、ベストポジションバー(BPB)を用いて起立練習を反復し、学習促進するのも重要であると考えています。
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