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トレンデレンブルグ徴候, デュシャンヌ跛行|2022.06.08|最終更新:2022.10.27|理学療法士が監修・執筆しています
トレンデレンブルグ跛行とデュシャンヌ跛行
股関節疾患でよくみられる前額面での跛行に、
トレンデレンブルグ跛行とデュシャンヌ跛行があります。
一般的な解釈に関して
一般に、
〇トレンデレンブルグ跛行
股関節外転筋力低下により患側立脚相で健側の骨盤が下制する現象。〇デュシャンヌ跛行
股関節外転筋力低下により、患側立脚相で健側の骨盤が下制するのを防ぐために、
代償性に体幹を患側に傾けて平衡を保とうとする現象。
しかし、股関節外転筋力に問題が無くてもこれらのような跛行がみられる場合があります。
今回は、
MMTの結果と実際の現象との不一致から、
「トレンデレンブルグ跛行とデュシャンヌ跛行の原因は本当に股関節外転筋力低下だけなのか?」という疑問について調べてみました。
✅ 股関節可動域制限の視点 ✅ 筋機能の視点 ✅ 内腹斜筋の視点 ✅ 運動学習の視点 |
考えられる他の原因-4つの視点-
ROMの視点
股関節内転可動域制限が跛行を生んでいる?
他の原因を調べると、下記が示された論文がありました。
・股関節外転筋力は正常歩行群とデュシャンヌ跛行群において有意差は認められなかった¹⁾。
・股関節内転角度は正常歩行群で有意に内転域が大きかった¹⁾。
・股関節内転可動域の増大とともに跛行出現率が有意に低下した¹⁾。
また、
デュシャンヌ跛行の原因を筋力の観点からみると、体幹を患側に傾けることは骨頭から重心線までの距離を短くし、弱い筋力で歩行する代償運動といえますが、
股関節内転制限の場合は、
骨盤が外方移動できない状態を体幹の側屈で相殺しているという反応と解釈されます。
筋機能の視点
内転筋のトルクと術前後のテコ比の減少率
次に筋機能の視点から見てみます。
説明に入る前に、、
用語説明
〇トルク
力の大きさのこと。
ある軸に関するモーメントは、一般に N次モーメント = [物理量 × (軸からの距離)^N]の総和で表され、
力の1次モーメント=トルクで表される。
今回は、内転筋のトルク値(力の大きさ)を見ている。〇テコ比
てこにおいて、支点から力を加える力点までの距離を1、支点から力の働きがあらわれる作用点までの距離を2とするとき、1/2をてこ比と呼ぶ。
今回は、股関節のテコ比(大腿骨頭中心より恥骨結合中央までの距離/大腿骨頭中心より大転子上縁までの距離)を見ている。
以上を踏まえて下記の様な報告がありました。
・筋機能評価においてトレンデレンブルグ徴候陰性群に比較し、陽性群では内転筋のトルク値が有意に増加していた²⁾。
・股関節のテコ比は陰性群では術前より有意に減少していたが、陽性群では陰性群と比較して減少率が少なかった²⁾。
また、
・テコ比が術前よりも小さく、
健側値に近似した症例ではトレンデレンブルグ徴候が陰性になるとの報告もあります³⁾。
これらから、
〇大腿骨頭中心を支点とした術前後のテコ比が人工関節置換術による関節包に存在する関節受容器の除去により他関節との非協調性、筋反応の遅延を及ぼしている可能性⁴⁾
〇身体位置関係の認識(身体認識として、術側股関節内転位を正中位と誤認)のずれ
〇外転筋、内転筋の筋機能不均等
が考えられます。
術部の疼痛経験により、股関節内転筋のトルク値が増加し防御性収縮が出現することで、股関節外転方向の距離を誤認している可能性があり、その結果、歩行動作においても、荷重応答期で内転筋の過剰収縮にて股関節内転位及び、健側骨盤下制が出現すると考えられています。
また、立脚中期では、中殿筋が伸張位となることで外転モーメントが変化し、内転筋との筋機能不均等が出現することにより、適切な中殿筋出力を発揮することが困難となり、跛行や代償動作を呈した可能性があると考えられています⁵⁾。
内腹斜筋の視点:仙腸関節の安定性
足圧中心(COP)は側方体重移動の開始に伴い、移動側へ変位します。
移動側の内腹斜筋は、COPの移動側変位初期から活動し、その直後に移動側中殿筋の活動がみられます。
荷重に伴う仙腸関節の剪断力に対し内腹斜筋は仙腸関節を安定させる機能があり、COPの移動側変位に伴い、
移動側下肢への荷重量が増加し、仙腸関節に生じる剪断力は増加すると推測され、これにより、移動側内腹斜筋は、側方体重移動初期から仙腸関節を安定させる目的で活動すると考えられています。
また、移動側中殿筋は、COPの移動側変位に伴い、移動側股関節内転を制動する目的で活動し、骨盤の水平保持に関与したと考えられています。
これらのことから、歩行の立脚中期では中殿筋による骨盤水平位保持に加え、体重移動開始初期から内腹斜筋の筋活動により仙腸関節を安定させることが重要になると考えられています⁶⁾。
運動学習の視点
大きく言いましたが、学習不足や学習性不使用、誤学習などです。
学習性不使用は脳卒中などによる運動麻痺を呈した方に対して使用することが多いと思いますが、私はこれらの跛行にも言えるのではないかと考えています。疼痛やリハ内容によっては不使用期間が続いてしまうのではないかと思うからです。また、量が不十分であり、学習不足も考えられると思います。誤学習は整形疾患ならではかもしれませんが、変形性関節症など慢性的なものでは受診したときにはすでに誤学習している可能性があるからです。
次回は引き続き、「トレンデレンブルグ跛行とデュシャンヌ跛行の本当の原因は?」について臨床で感じたことを執筆したいと思います。
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最後の森岡先生の言葉は本当にそうで
もし、自分が脳卒中になった場合
担当して欲しいと思うリハスタッフって限られてくると思うんですそして、自分をもし自分が担当すると考えた時
正直、まだ嫌だなあって思うんですこれが自己研鑽を本気で継続する理由の1つにはなると思うんです
— Goto🦎特徴が無いのが特徴です (@pt_reha) October 31, 2021
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引用文献・参考文献
1) 熊谷匡晃,他:股関節内転制限および外転筋力がデュシャンヌ跛行に及ぼす影響について.PTジャーナル49:87-91,2015
2) 薩摩博,他:人口股関節置換術における股関節外転筋・内転筋力とトレンデレンブル グ徴候との関係.リハビリテーション医学1999;36:234-236
3) 寺田勝彦,他:片側性変形性股関節症の術前・術後のテコ比および股外転筋力とTrendelenburg徴候との関係について.理学療法学1989;16:203(抄)
4) 対馬栄輝,他:股関節手術患者における股外転筋活動量と跛行の関係について.理学療法科学,1993,20(6):360-366
5) 森武志,他:人工関節置換術後患者におけるトレンデレンブルグ徴候に対する一考察―術側の身体認識に着目して―
6) 井上隆文,他:立位姿勢での側方体重移動が内腹斜筋と中殿筋の筋活動に及ぼす影響.第48回近畿理学療法学術大会,2008