トレーニング, 筋力訓練, 負荷量|2022.02.26|最終更新日:2022.03.19|理学療法士が監修・執筆しています
あなたは、筋力訓練(レジスタンストレーニング)の負荷量設定に関して疑問を持ったことはないでしょうか。
『どのくらいの負荷量が良いんだろう?』
筆者もその1人であり、いつも負荷量設定に関しては頭を悩ませています。
高齢者の場合、若年者と比較しても負荷量の調整は難しいかと思います。
・この負荷量で効果がでるのか。
・週の頻度はどの程度が最適なのか。
・反復回数はどれくらいで、何setするべきなのか。
など悩みは尽きません。
そこで今回のテーマは、
高齢者への筋力訓練(レジスタンストレーニング)に関する負荷量設定についてです。
運動処方
運動処方に関するエビデンスとして、
ACSM:American College of Sports Medicine(米国スポーツ医学会)より
Quantity and Quality of Exercise for Developing and Maintaining Cardiorespiratory, Musculoskeletal, and Neuromotor Fitness in Apparently Healthy Adults Guidance for Prescribing Exercise が有名です。
そこでは、以下のような運動処方の記載があります。
対象 | 頻度・セッション数/週 | 強度 | 回数/セット数 |
---|---|---|---|
座りがちな人 | 2〜3回/週 | 40〜50% | 10〜15 |
高齢者 |
2〜3回/週 | 40〜50% | 10〜15 |
初心者 |
2〜3回/週 | 60〜70% | 8〜12 |
経験者 |
2〜3回/週 | 80% | 8〜12 |
高齢者全体 | 2〜3回/週 | 20〜50% | 8〜12 |
ASCM公式HPサイト:こちら
この発表がなされてから11年、最新の知見を可能な限り調べてまとめました。
また、今回は理学療法士が主に関わる高齢者に対象を絞って記述したいと思います。
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高齢者に対するレジスタンストレーニングの負荷量設定
結論から先に提示させてください。
高齢者を対象とするレジスタンストレーニングに関して、
筋力増強は、
運動強度(重錘負荷やポジション)✖️ 運動量(反復回数およびset数)✖️ 週の頻度
=1週間あたりの総負荷量で決定できる。
庵野さんの著書『科学的に正しい筋トレ』でも記載がありますが、
高齢者にも同じことが言えます。
ここから具体的に文献をもとにした例を挙げていきます。
レジスタンストレーニング(以下RT)実施例
突然ですが、
Q.下記のようなメニューはどちらが筋力がアップすると思いますか?
低強度〜中等度負荷 (30〜50%1RMの場合) |
中等度〜高強度負荷 (50〜80%1RMの場合) |
|
---|---|---|
運動強度 | 30%1RM | 80%1RM |
週実施回数 | 3日 | 2〜3日 |
set数 (各種目) | 12set | 3set |
休憩時間(1set) | 1分以下 | 1分〜2分 |
(Ikezoe et al:2020をもとに作成)
答えは、
A.同程度の負荷量です。
筋力アップのための負荷量は運動強度・運動量・週の頻度によって決定するという点で、
今回は運動強度に絞ってお話します。
1回あたりの運動強度
要点
〇筋出力・筋肥大は強度だけに依存しない。
〇高齢者に対して高強度の負荷はデメリットの方が大きい。
結論
『高齢者には低強度~中強度で行うことが有用』
運動強度と筋力・筋肥大への効果
Schoenfeld BJらによるメタアナリシスでは
高強度・低反復トレーニングと低強度・疲労困憊までの反復トレーニングでは、
最大等尺性筋力及び筋肥大の効果に違いは見られないとしています。
また、池添らは、健常な若年男性を対象に、8週間の訓練期間にて比較検討しています。
運動強度とset数 | 筋力増強効果 | |
---|---|---|
低強度負荷・高反復 | 30%1RM・12set | 筋力増強・筋肥大効果あり |
高強度負荷・低反復 | 80%1RM・3set | 筋力増強・筋肥大効果あり |
(Ikezoe et al:2020をもとに作成)
その結果、どちらのトレーニングにも筋力増強効果、肥大効果が見られており、その効果の違いはみられないというものでした。
Vincentらは、60歳〜83歳の成人を対象に、ランダム化比較試験を行いました。
運動強度と回数/set数 | 筋力増強効果 | |
---|---|---|
中強度負荷 | 50%1RM・13回 | 17.2% |
高強度負荷 | 80%1RM・8回 | 17.8% |
(Vincent:2002より作成)
この結果から、筋力増加率は17.2%と17.8%であり、大きな差はないことがわかりました。
高強度負荷と低強度~中強度負荷の筋力強化の点でメリットは同等であるとすれば、
高強度負荷のデメリットはどこにあるでしょうか。
高齢者に対する高強度負荷のデメリット
高強度負荷のデメリットは大きく分けて下記の3点が挙げられます。
〇筋骨格系・循環器系への悪影響
〇アドヒアランス低下
〇選択的・個別的な訓練が難しくなる
この3点について説明していきます。
筋骨格系・循環器系へのリスク
筋骨格系へのリスク
参考文献:INFLUENCE OF STRENGTH TRAINING INTENSITY ON SUBSEQUENT RECOVERY IN ELDERLY
高齢者は若年者と比較して筋損傷が大きく、回復に長い時間を必要とします。
大半の高齢者がサルコペニアの状態であることを考慮すると、その後のADLや継続した訓練に影響を与える可能性が高くなります。
Orssatto LBRらは、”高齢者は失敗までの筋力トレーニング(5RM強度の70%または95%)直後に、ピークトルク、パワー、機能的能力の著しい低下を経験する。急性の能力低下は、日常生活や労働活動、バランス、咄嗟の反応能力、転倒のリスクに影響を及ぼす可能性がある”としています。
入院をしている患者さんの場合、毎日リハビリがあるところも少なくないかと思います。
次の日のリハビリや、患者さんの病棟生活に支障がでるリハビリでは本末転倒ですよね。
循環器系のリスク
参考文献:Exercise and Cardiovascular Risk in Patients With Hypertension
Sharman JEらによれば、 ”高い運動量が高いCVリスクと関連しているか根本的な原因は未だ解明されていない状況ではある。
ただ、オーバートレーニング(過剰な負荷量の訓練)によって複数の臓器系の恒常性のバランスが崩れ、これにより筋損傷、炎症、酸化ストレス、副腎機能障害、免疫抑制が生じる可能性があるとしており、特に慢性的に高い運動量が心臓に対して有害なリモデリング(心房心室肥大)、不整脈や機能異常と関連があるため、注意が必要” と報告しています。
このことから、運動を継続的に行う視点では高齢者にとって高強度・高負荷の運動はリスクが高いことがわかると思います。
アドヒアランスの低下リスク
参考文献
・Christopher Hurst:Resistance exercise as a treatment for sarcopenia: prescription and delivery
・上月正博:リハビリテーション医療におけるアドヒアランスやコンコーダンスの重要性
アドヒアランスという言葉はご存知でしょうか。
アドヒアランスとは…
直訳:『支持』『執着』
医療現場での意味合い:『患者が治療方法の決定過程に参加した上で、その治療法を自ら実行していくことを目指すもの』
Horne R et al:2014より引用
あくまで入院や通院は一時的なものであり、
病院に入っている時だけ訓練が行え、筋力が改善すれば良いというのは長期的に見て患者さんの利益にはなりませんし、再入院の可能性を軽減することには繋がりません。
そのため、患者さんが自身で意思決定を行い、選択するという過程が重要になります。
高強度負荷のトレーニングは患者の意欲を削いでしまう可能性があることはご存知でしょうか。
christopherらは高強度・高負荷の訓練は強い筋肉痛や疲労感を生むため、
継続という点で訓練意欲を削いでしまう可能性が高いことを指摘しています。
患者さんのトレーニングや日常生活動作に対してアドヒアランスを高め、
やらされるトレーニングにならないために、どの量があなたの患者さんにとって適切なのか、
常にコミュニケーションをとる必要があります。
選択的な訓練が難しくなるリスク
山内は筋力訓練は患者さん自身がいかに筋力を強化する方法を体得して訓練しているかが重要としています。
また、仮に80%1RMの運動を形として行えたとしても、それが目的とする筋肉を選択的に鍛えられているのかは疑問が残ります。
代償動作のメカニズムとして、弱化した筋肉を補うように働くことが知られていますが、それは高強度負荷であればあるほど誘発する可能性も高くなります。
高齢者にとって筋力を鍛える理由は、様々だと思いますが、入院する様な高齢者の方の場合、主に起立や歩行、日常生活動作の獲得が目標になるかと思います。
動作毎に鍛えたい筋肉を選択的に訓練するために、
代償動作が出にくい負荷量に調整することも重要な視点です。
まとめ
高齢患者さんは、若年者と同様の方法ではうまくいかないことが多いですよね。
リハビリはあくまで個別的であり、負荷量設定や運動方法、リスク管理も異なりますが、
多くの高齢者にあてはまる前提を抑えておく必要はあると思います。
この記事があなたの明日の臨床の一助になれば幸いです。
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参考文献
Garber CE, Blissmer B, Deschenes MR, Franklin BA, Lamonte MJ, Lee IM, Nieman DC, Swain DP; American College of Sports Medicine. American College of Sports Medicine position stand. Quantity and quality of exercise for developing and maintaining cardiorespiratory, musculoskeletal, and neuromotor fitness in apparently healthy adults: guidance for prescribing exercise. Med Sci Sports Exerc. 2011 Jul;43(7):1334-59.
Ikezoe T, Kobayashi T, Nakamura M, Ichihashi N. Effects of Low-Load, Higher-Repetition vs. High-Load, Lower-Repetition Resistance Training Not Performed to Failure on Muscle Strength, Mass, and Echo Intensity in Healthy Young Men: A Time-Course Study. Journal of Strength and Conditioning Research. 2020 Dec;34(12):3439-3445.
Vincent KR, Braith RW, Feldman RA, Magyari PM, Cutler RB, Persin SA, Lennon SL, Gabr AH, Lowenthal DT. Resistance exercise and physical performance in adults aged 60 to 83. J Am Geriatr Soc. 2002 Jun;50(6):1100-7.
Schoenfeld BJ, Grgic J, Ogborn D, Krieger JW. Strength and Hypertrophy Adaptations Between Low- vs. High-Load Resistance Training: A Systematic Review and Meta-analysis. J Strength Cond Res. 2017 Dec;31(12):3508-3523.
Orssatto LBR, Moura BM, Bezerra ES, Andersen LL, Oliveira SN, Diefenthaeler F. Influence of strength training intensity on subsequent recovery in elderly. Exp Gerontol. 2018 Jun;106:232-239.
Sharman JE, La Gerche A, Coombes JS. Exercise and cardiovascular risk in patients with hypertension. Am J Hypertens. 2015 Feb;28(2):147-58.
Hurst C, Robinson SM, Witham MD, Dodds RM, Granic A, Buckland C, De Biase S, Finnegan S, Rochester L, Skelton DA, Sayer AA. Resistance exercise as a treatment for sarcopenia: prescription and delivery. Age Ageing. 2022 Feb 2;51(2):afac003.
Chakrabarti S. What’s in a name? Compliance, adherence and concordance in chronic psychiatric disorders. World J Psychiatry. 2014 Jun 22;4(2):30-6.
山内 仁:筋力トレーニング. 関西理学 10:19-23,2010.
(この記事は理学療法士が監修・執筆しています)